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王女ちゃん

 ここにきて異世界補正とはメンドクセェ~。


「んん? あるじ、どうしたの~」


 ――少女の目隠しを外して縛ったロープを(ほど)きながらピクちゃんに愚痴る。


「ピクちゃん、異世界には“犬も歩けば王に当たる”なんて(ことわざ)があるんだ」


「え~、なにそれ」


「王都・街・街道、そこいらじゅうを脇の甘い王女とか公爵令嬢とかがウロウロしていて、2・3日異世界うろつけば王城で王様と謁見してたり公爵が後継人になってたりするんだよ」


「あっ、それって、襲われている馬車助けると公爵令嬢、町の中で偶然知り合った女性が王族みたいなやつだよね」


「そうそう、王族活動的過ぎ、令嬢無用心過ぎってやつ」


「あ~、あるじ、大体オチが分りました。この女の子、王族なんだね?」


「はい、ピクちゃん正解です。どこぞの第二王女で8歳らしい」


「あらら」


「そもそもおかしいよね。こんな雑魚山賊4人程度で王女を攫ってこれるなんてのは」


「そだね~。手引きした内通者が居るのは確実かな」


「まさか向こうから王族が来るとは……俺もうっかりしてたわ」


 マップで表示されていたコッチに近づいてくる光点5個を山賊の残党だと思っていて、回収品頂いてスパッっと行くつもりだったから、鑑定せずに詳細情報も見てなかった。


「で、あるじはどうするの~? 解決してあげるの?」


「んにゃ、どうもしないよ。落ち着いたら魔法で送り返すだけかな――ってことで王女の方よろしくピクちゃん」


「はいは~い」


 レアチーズケーキはまだ十分残っているし、後はピクちゃんに任せておこう。

 まあ、女の子を相手にしてのご機嫌取りや場を取り成すアイテムにはスイーツ最強だよな。


「俺は一応用心のために、山賊の残党から拉致に係わった人間と組織を、知っているだけ全部吐かせて処理しておくわ」


 ピクちゃんに一声掛け失神している残党4人を魔法で浮かせて、女性陣の目の届かない奥の区画へ運んでいく。

 その後どうなったかだって? 俺がキュッっと殺って捨てといたよ、うん。

 1人、4人のリーダーぽい男は絞めた後に死霊術で使役して、王女拉致の件を全部喋らせてから廃棄済み。

 拷問・締め上げなんて非効率な事はしてられません。


 事を済ませて戻ってみると、周囲が女性だけになった安心感からか、王女ちゃんは落ち着きを取り戻していた。

 13歳ちゃんと王女ちゃん以外は、俺の姿が見えなくなった後に何をしていたか理解しているだろうが、敢えて触れて来たりはせず、折角の穏やかな雰囲気をわざわざブチ壊すようなマネはしない。


 被された袋を取った時は涙と鼻水で顔がひどい事になっていた王女ちゃんも、ピクちゃんが魔法で身だしなみを整えてあげたのだろう。

 今は小奇麗になっていて、既に自分が攫われて来た事など忘れてしまったかの様に、女性達に混ざって夢中でケーキを食べていた。

 成る程、第二だけど王女って看板に偽りはなく雰囲気があるな――そして、将来が楽しみな容姿をしている。

 ただ、今はケーキを鼻の頭にくっ付け、年相応にはっちゃけまくっていて、折角ピクちゃんに綺麗にしてもらったのに口の周りがベタベタになっているがな。


「はーい、折角のティータイム中にゴメンネ。結果を先に報告すると、王女ちゃんに酷い事した山賊共はさっきの4人で全滅だね」


「あるじ~、王女ちゃんって……」


「あはは、まあいいじゃん。奴隷にされていた2人も体調に異常は無いようだから安心したよ」


「「はい、ありがとうございます」」


 再び2人がお礼を言い出したから手振りで良い良いってしてると王女ちゃんもお礼を言い出す。


「あ、あの、たすけていただき、ありがと、ございます」


「うんうん、いえいえどういたしまして。でも、ほんと偶然だから王女ちゃんも気にしなくて良いからね。帰りに山賊達に協力していた悪いヤツラの名前を書いたお手紙を渡すから、お城に帰ったらお父さんに渡してもらえるかな」


「はい、わかりまちた。ちちうえに、おてがみわたします」


 王女ちゃんのチョット舌足らずな言葉に頷きながらピクちゃんへ声を掛ける。


「ピクちゃん、俺は奥の区画で造りかけてたシャワールームを中止して、アジトの表に女性全員同時に入れる広さの湯船がある風呂小屋を建ててくるよ。そんなに時間は掛からないだろうから、皆でゆっくりお茶して待っていてね」


「はいは~い、了解でーす」


 洞穴から出た俺は、出口の直ぐ横に魔法で風呂小屋を建造し始める。

 頭に浮かぶイメージはスーパー銭湯タイプではなく、昔ながらの煙突が立った瓦屋根(かわらやね)の銭湯と旅館等でよく見かける岩風呂だ。

 湯船には周辺の岩等を利用し、脱衣所は木材を多めに使用して、衣服を入れる竹篭(たけかご)を木枠の棚に置き、マッサージチェアと扇風機、風呂上りの一杯には定番の――おっと、また趣味に走ってしまうところだった。

 脱衣所は木造で6畳程の簡易小屋にして、湯船の上部だけを傘のような屋根で(おお)い、周囲を広めに囲う(へい)には、近くの草木を魔法で移動させて植栽(しょくさい)した高さ2メートル程の生垣(いけがき)で天然露天風呂のような雰囲気を出し、暴走しないように自制しながら20分程で完成させて女性陣を呼びに戻る。


「お風呂完成したよー、女性陣全員一緒にどうぞ。広めな日本式浴場だからピクちゃんがサポートしてあげてね」


 ピクちゃんを先頭に洞穴から女性陣が出てくる。

 出て来たんだが……


「小屋の外んっとこ露天風呂にしたんだね、ムフッ――外んっトコロテン風呂、グフフッ」


 ナ、ナゼ言い直した、ピクちゃん。


「う、うん。まあ、そんな感じで仕上げたかな」


「大欲情(大浴場)はゲイ術的な漢性度(完成度)だね、あるじっ! ウフッ」


 何だ? なにかがオカシイ。


「えっと、いやまあ大浴場まではいかないけど、ゆっくり入れるように広めにはしてある。かな」


「あるじ、そ、それで、プハッ、それでハァハァ、打起たせ湯(うたたせゆ)(打たせ湯)なんかはどうかな。造った?」


 はなぢっ!? ピクちゃんの鼻から血がツツッーっと。


「ごっ、ごっ、ごめんね、ピクちゃん。そこまで手の込んだ物は造らなかったよ」


 し、知ってる、俺は知っているぞ、この空気。


「あ~、でも男の人はあるじ1人だから、裸の突き合い(裸のつきあい)はできないんだったね。ざんねーん、ウフフ」


 そうだ、腐神! 腐神降臨の前触れか。

 何がいけなかったんだ――どこで触れてしまったんだ。

 これはもう定番のアレで釣って話を逸らし、ピクちゃんを正気に戻して、ガラをかわすしか手は無さそうだ。


「ピ、ピ、ピクちゃんサマ。そ、それよりも、それよりもですね! 風呂上りの定番ドリンク、牛乳・フルーツ牛乳・コーヒー牛乳・ラムネを冷蔵ケースに用意してあるので、風呂上りにカァッーーっと1本! ど、どうです?」


「ハッ!? フルーツ牛乳っ! あっ、あれ? あるじ。ん~……今ピクに何か降りてきて「いやいや、大丈夫。キノセイダヨ」」


「ん? そなの」


 少し感じている違和感に首をコテっと傾げながらもニコニコと俺を見つめてくるピクちゃん。


「おお~、いつもの可愛いピクちゃんだ」


「え~、ヤダもぉヘンなあるじっ、キャハッ」


 正気に戻ったピクちゃんはまあいいとして、王女ちゃんと13歳ちゃん以外の年上3人が、俺のお尻やら股間をチラチラ盗み見ながら顔を赤らめていたんだけど、俺以前に来訪した女性稀人の中に腐ったヤツがいて、この世界への腐教を既に終えている可能性があるぞ、これは。

 まさかとは思うが、この世界で薄い本の即売会なんて開かれてないよな……


「ピクちゃん、脱衣所にバスタオルと浴衣を置いてあるから、みんなに使ってもらってね。あ、山賊からぶん取ったお宝の中から、女性が着れそうな物があったら好きにしていいよ。あと、ビールとかも冷蔵ケースに入ってるから、アルコールいける人はどうぞ」


 脱衣所から、奥の湯船から、風呂場全体を見回してもどってきたピクちゃんが、呆れたように溜息付きながら言った。


「このお風呂場造るのに30分掛かってないって、ピクもさすがにビックリだよ~。簡素・質素な造りも、これなら趣がある・味があるって言い換えられるし、あるじはこういう所で妙に器用だよね」


「アハハッ、まあね。周囲に結界もバッチリで、虫除けとかセキュリティーも万全にしてあるよ。俺は女性陣が入浴してる間にひとっ(ぱし)り街道まで出て、明日の移動用にマーキングしてくるからさ。じゃ、ピクちゃん、みんなも、ごゆっくりどうぞ」


「は~い、いってらっしゃーい」


 遠見系スキルを使えばわざわざ直接向かう必要もないんだが、男が周りをうろうろしていると女性陣が安心して風呂に入れないだろうから、街道にマーキングした後に1時間ほど時間をかけて散策ついでにブラブラしてくる。


 いや、うん。分かってる。分かってるよ、言いたい事は。でもさ、覗こうにも難易度がSSS+以上だと思う訳よ、ピクちゃんの目を欺いて盗み見るなんてのは。なので今回は諦めてくれって、俺は誰に言い訳してるんだか。


 さて、風呂が終われば王女ちゃんを転送して送り帰すとして、アジトに有ったマジックアイテムバック5個と別働隊の山賊4人が持っていた4個の合計9個集まった訳だ。

 4個の中身は殆どが王女ちゃん関連物みたいなのでそのまま渡して、あ、いや、おみやげにケーキぐらいは入れといてやるか。

 それから、マジックバッグなんて物があって、俺以前の稀人が一般人まで知っている位にはこの世界で色々動いたらしいので、地球世界の技術・知識・想像物がどの程度輸入されて実現しているか気になるところだな。

 山賊が保有していたマジックバックは、1平方メートルほどに空間拡張されていても、時魔法は掛かっていないようで、一般向けの汎用品(はんようひん)かもしれない。

 転移・転生者関連と同様に、そのへんはおいおい調べるとしよう。


 考え事をしていて、かれこれ1時間は経ったので頃合を見て洞穴に戻ると、女性陣は既に風呂から上がって浴衣に着替え、おのおの好きな飲み物を手にしてくつろいでいてた。


「あ、あるじ、おかえりなさ~い」


「ただいま、ピクちゃん」


「お先にお風呂いただきました~」


 他の女性達も照れくさそうに、ピクちゃんの真似して声を掛けてくる。


「どういたしまして。ゆっくり出来たかな」


「うん。あるじあるじ~、蛇口とか桶とか屋根が付いてなかったら、元々ここに天然温泉が沸いてたと言っても信じられるくらいに、野性味溢れる感じの露天風呂だったよ」


「造る時に凝りすぎなかったのが、逆にいい感じに仕上がったのかもね」


 今度は俺が風呂に入るので、風呂場の横へと涼み用に縁台(えんだい)(つくえ)を出して女性陣にそちらへ移動してもらい、30分ほどで入浴を済ませて出てみると、17歳ちゃんと15歳ちゃんの姿だけになっていたので他のメンツはと2人に聞いたら、洞穴の中で王女ちゃんの帰る準備をピクちゃんと21歳ちゃんで行っていて、13歳ちゃんはその付き添いらしい。

 説明のために残っていてくれた2人と一緒に、俺もラムネを飲みながら涼んでいると、10分掛からず4人が戻ってきた。


「あるじ、おまたせ~。出発準備完了だよ」


 ピクちゃんに連れられて、浴衣から可愛らしい普段着用ドレス着替えてきた王女ちゃんに、宛名(あてな)部分へ一言(ひとこと)書き添えた王様宛の手紙と、別働隊の山賊が持っていたアイテムバック4個を渡しながら話し掛ける。


「はい、王女ちゃん、これ。マジックバックの空きスペースに、チーズケーキを3ホールとフルーツソースもおみやげに入れておいたから、帰って落ち着いたら食べてね。保存はなるべく涼しい、出来れば氷冷庫みたいな常温以下になる場所で、それでも日持ちはしないから、お早めにお召し上がり下さいってやつだね」


 覚えきれないだろうから、保存のしかたをメモして一応わたしておく。


「ひゃぁぁ~、あ、ありっ、ありがとございましゅ。あるじしゃん」


 俺はうんうんと頷き返し、王女ちゃんと1番仲良くなった13歳ちゃんが、正面から王女ちゃんの両手を握って2人でブンブン振りながら、よかったねぇ~っと声を掛け、他の3人も手を振ったり頑張ってとおのおの声を掛けている。

 その間にチーズケーキで俺は一つ思いついたことがあったので、王女ちゃんを転送するまえにピクちゃんに髪の毛を1本もらっておくように頼んでおいた。


「では、至高の大魔道士ピク殿、お願いしまーす」


「はーい、じゃ、王女ちゃんいくよ~。アスポーツ!」


 ピクちゃんは王女ちゃんに安心するように話しかけて髪の毛をもらってから、(ひたい)に手を添えて頭でイメージした場所を読み取り、その場所へ転送魔法で飛ばして送り帰した。


「送ったのは王女ちゃんの部屋?」


「ううん、違った。イメージの中におっきな机とか本棚とかもあったから、たぶん王様の執務室? みたいな所だよ、あるじ」


「へえ~。自分の寝室辺りかと思ってたけど、これはチョット期待できそうだな」


「落ち着いた後の王女ちゃんは、聡明な子だったね」


「これでもし、その場に居るはずのない幼い王女ちゃんが突然現れて、王女誘拐や王への反逆を企てた人間や一味・組織などが詳細に書き連ねなれた手紙を渡すという不自然な状況において、即応できないような王様や王家だったのなら、淘汰されていくのは必然かなー」


「あるじがここまでお膳立てして駄目なら、何しても駄目だろうね~」


「今は20時ちょっと過ぎだから、明日の朝までが勝負ってところか」


「さあ、手紙を受け取った王様が、この降って湧いたようなチャンスを活かして動けるのか! だね、あるじ」


「うん。機を見るに敏ってやつだな」


「えっ! あるじって木とかにハァハァしちゃう人?」


「そうそう、女体っぽい樹木や根菜を見ると股間がビンっと違う! ナイスボケだよピクちゃん」


「えへへ~、あるじもナイスノリツッコミだよ~」


「ブフッ!! ウクゥッ――、――」


 あっ! 21歳ちゃんがまた吹き出してる。

 澄ましているとキツめの美人だが意外と笑い上戸なのかもね。


「まあ、王女ちゃんに不利益な状況にならない事を祈っておこうか」


「だねだね~」


 ◆

 ◆

 ◆


 その時、その男は、苦手なデスクワーク真っ只中で、各種書類と格闘中であったのだが、眠気という魔物にかなりの劣勢へと追い込まれていた。


「ちちうえ、ただいまもどりまちた」


「なっ……んな、こ、これは夢かっ、いかんいかん。我が愛娘(まなむすめ)が目の前に()るわけがなかろう。根を詰めすぎたか」


 執務室にいきなり姿を現した王女ちゃんを見た国王は、あまりの突拍子のなさに自分がうたた寝して寝ぼけたと勘違いする。

 第二王女の方はというと、そんな王の様子にはお構いなしでトテトテと歩み寄り、妖精さんに頭を撫でられる前に、アールなんとかから渡されて手に持っていた父宛の手紙を差し出す。


「ちちうえに、おてまみを、えーっと、はい!」


「ん、おう、どれどれ」


 寝とぼけ王と幼王女ならではのボケたやりとりだが、通常は文官なりが手紙へ何らかの仕掛けや術などが掛かってないか、安全確認後に手渡される物だ。


「そのおてがみのじ、みたことあります。かぜ、んと、はやし、う~ん、そう、し、あとは、やまでしゅ。かじぇとはやしに、まるがついてますね」


「うぬうう……」


 横で王女が封筒の宛名部分に書き記された漢字を記号として読んでいる横で、手紙を読む国王の寝ぼけた様子が一瞬で消えて、顔色も青・白・灰・黄土・紫・深紅と面白いように変化していき、今は酒を飲んだ様に顔から頬そして首筋までほんのり朱が注がれたような状態で、全身に纏わせるのは覇気か闘気かそれとも怒気であろうか。


「わたく()、やくにたちまちたか?」


「ふふ、ふふふふっ、ワシにはおぬしが女神様に見えておるぞっ、グァッハッハッハッ!」


 ――――そうだ、そうなのだ。元からこのワシとうまくやろうとする気のないヤツラに、いくら手を差し伸べようとうまく行くはずがないのだ。


 優秀なブレーンに支えられはいるが、内政・外交と政治に関して言えば、暗愚(あんぐ)寄りと言わざるを得ないのは、自身で分かっている。


 クククッ、そうよ、そうよな。何お上品を気取っておったのだ、ワシは。


 ヘラヘラと気持ち悪い笑顔を振りまき、周囲の人間に優しい王様、好い王様と思われることに何の意味が、何の得があると言うのだ! そうだっ! ありはしないっ!!


 感謝するゾッ! クソボケどもがっ! よくもここまで舐めくさってくれたもんよ。


 蹂躙、そして殲滅、ああ、なんて胸がすく響き、そして、久しく忘れていた開放感。


 考えなくていいってのは、これほど心が軽くなるものなのか。


 敵対勢力を一気に抑え吊るし上げて、基本皆殺し。


 我が子達、王子王女の為に、ここでこのワシが粛清を断行し全ての禍根を絶つ。


「誰かあるっ!!」


添削不足かもしれません。

ごめいわくをおかけしております。

10時頃には12話も投稿したいと思います。

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