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第七話

午前5時。起床。こっそりと、弟を起こさないように忍び足でキッチンに向かう。パン屋に行くと、お昼までまず帰ってくる事は難しいので、先に弟の朝食を作っておく。一度だけ作り忘れた時が有るが、あの日はホントに怖かった。後ろに阿修羅が出てたもん。

ちなみに、今日の朝食は、"朝からガッツリ、生姜焼きトースト"。昨日余った(余らせた)生姜焼きをパンの上に乗せ、マヨネーズとチーズでコーティング。後はチーズにこんがり焼き色が付くまで焼き、完成。………まぁ、今は焼かないけど。

午前6時。洗顔を含めた朝の準備はOK。私の朝食はバイト先のパン屋で貰えるので、若干食費は浮く。そして焼きたてのパンが………っとと、涎が。私の朝の細やかな楽しみの一つでもある。

午前6時30分。録画予約を確認し終えたのでちょっと急ぎめに自転車に乗る。そろそろ行かないと、様々な物事に巻き込まれる。例えば、倒れているお婆さんを助けて、バイトに遅刻してしまう。そう、まさに今のように。まぁ、私の事を良く分かっている人なのでお咎めは無しだが、やはり申し訳ない。


「本当にすみませんでした。」


「良いよ良いよ。悠莉ちゃんの遅刻はいつもの事だから。」


「うっ」


確かにいつもの事だが、そういう風に言わなくても!………いや、私が悪いんだ。しょうがない。


「まあでも、どれだけ遅刻したとしても、理由が全て人助け。これじゃあ怒れないよね。」


ウィンクをしながら、まるで彼氏のように振る舞う、50歳は優に越えているであろうこの人こそ、私の雇い主で有り、このパン屋"虎刈りの天使"のオーナーで有る、金橋小次郎さんだ。ちなみに、一人っ子で有る。何故その名前に?と理由を聞くと、


「いや~、家の両親佐々木小次郎の事が大好きでさぁ。」


とまぁ、ありがちだが傍迷惑な理由が返ってきた。

奥さんも居て孫まで居るというのに、その見た目は三十代で通用してしまう、大変若々しい見た目だ(言動も含めて)。……その奥さんもこの人と同じ年のはずなのに、さらに若く見える。私の周りの七不思議(笑)の一つでもある。


「えーと、今日は何を作るんですか?」


「そうだねぇ、今日はいつもと同じで良いかな?作りたいものが有ったら、作って良いから。」


「完全にいつもと同じじゃないですか。」


「良いじゃない、それでもお客さんが来るんだから。」


「まぁ、そうですけどね。でもあまりにも代わり映えしなければ飽きられますよ?」


「そこはほら、時期を見て、ね?」


「…………………。それで店を潰しかけた人は何処の何方でしょうか?」


「はい。あの時は本当に申し訳ありませんでした。」


そう。何を隠そうこの人、自分の店を潰しかけたのです。あれは、私がこの店で働いて一年ほどたった日の事です。その日は珍しくお客の入りが緩やかで、レジ仕事が大分楽だったのでした。最初こそ楽で助かる~。的な感じだったのですが、流石におかしいと判断しいつも懇意にしてくれる常連さんに話を聞くと、近くに新しいパン屋が出来ていて、たくさんの人がそちらへ流れているらしい。常連さん曰く、


「他の人は美味しいって言うけど、あんな見た目だけのイロモノパンの何処が良いんだか。」


だそうだ。それは嬉しいが、人は新しい物に目移りしてしまう。だとすれば、こちらも新商品を出せば良い。その事を言うと、この人は思いっきり怒ってきた。何に、かと言うと客に。


「何ぃ!?今の客は味よりも見た目だってか!よし、そんな客はこっちから払い下げだ。もし帰ってきても塩でも投げつけとッポギャ!?」


「アンタ、そんな事言って良いのかい?」


いやぁ、あれは怖かったね。阿修羅のスタンドどころか、女将さんがほぼ阿修羅の化身になってたね。

あの後別室につれてかれた小次郎さんは、何やら顔を青ざめて、


「あ、あれは若かったから、若かったからなんだ。」


とか何とか言ってたので、きっと黒歴史でもほじくられたに違いない。何せ保育園時代からの幼馴染みらしいし。

おっと、話がずれた。私が、今担当しているパンは、ロールパンとクロワッサンとピザパン、チュロスにラスクと、自分でもかなりの量を作っていると思っている。ただ、小次郎さんは私の倍の種類のパンを作っているのだ。最早パンの化身。

午前8時。開店時間になったので、私はレジに張り付く。私が言うのもなんだが、この店はかなりの人気を誇る。故に開店から三時間は忙しい。ピークを過ぎると、今度はお昼のパンを作り、またレジに張り付いて本日のお仕事は終了。今日はゲームをしなくてはいけないので、早めに上がる。少しでも遅れると、また巻き込まれる。…………今のように。 はぁ、次から少し気を付けて動こう。

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