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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 13 溶けたbon-bonを噛み砕いて
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静穏

 カチャカチャと陶器がぶつかる音と細く出ている水音が集会所に響く。

 集会所のバーではロイが優雅に足を組んで好物のローズティーを再び口に運んでいる。

 静かな時間。集会所には正真正銘の静けさが訪れた。


「ふふ、ルーザ様もヒトが悪いですね」


 いや、吸血鬼だから鬼でしょうか? と続けて笑うのは先程会議で出された食器を洗うジャックだった。

 あれからルーザはダレスに処罰の内容を宣言すると自室に戻ってしまった。

 ダレスはその内容に驚き、しばらくその場に立ち尽くしたが納得したように一度頷き集会所の自室に帰っていった。


「ダレスはあの罰を果たせるとは思いません」


 ロイが軽く息を吐く。ルーザがダレスに言い渡した罰はすごくシンプルかつ彼にとっては拷問より辛いことだろう。


――ダレス・サヴァラン。お前は今日から百年間、俺の許可なしではこのシュツメンヒの集会所を出てはならない。副団長の仕事を全うすることだ。


 それを聞いた時のダレスの顔は蒼白で、この世の終わりといった表情だった。

 それもそうだろう。ダレスは他国の任務を好んで遂行する。集会所での任務を極力避けてきたのだ。それも放浪癖のただのわがままだが、遂行した任務はどれも完璧なのでたちが悪い。

 これを機にルーザはダレスを副団長らしくすることを選んだようだった。

ジャックは手を休めることなくロイに聞く。


「ダレス様は結局ルーザ様に頭は上がりません。大丈夫でしょう。……それで、ロイ様。あのお話は本当ですか?」

「ええ、本当ですよ。その話もかねてここに残っているんですから」


 そういうとまた香り高いローズティーに口づけた。


「ロイ様は、どうして罰をお受けなさると?」

「あなたも聞いていたでしょう? 私はキャンディを助けられた。でも、私情で見殺しにしたんです。常識的に考えてこれは罪に値するでしょう」


 ロイはキャンディに杭を打った後、ルーザに罰を与えてほしいと申し出た。ロイはキャンディを見殺しにし、証拠を取るためとはいえ仲間を売ったと白状したのだ。

 ルーザは受けないと頑なに拒んだが引き下がらず、刑を科すことにした。

 とはいってもG.B.Rに通すほどの事件ではない為、Blood ROSE内での“処罰”という形で処理することになったのだ。


「それでも、惨い話です。ロイ様が薔薇百年の刑、だなんて……」


 ジャックは声を落とす。

 薔薇百年の刑……薔薇の敷き詰められた棺桶に百年眠り続けると言った吸血鬼らしい刑だ。その間はいっさい目覚めることなく、体力のないものは死んでいく。

 それでもロイは偽りのない決心でその刑を受けると言ったのだった。


「このままBlood ROSEにいるならば新しい相棒を迎え、任務に当たらなくてはなりません。私は今、新しい相棒を迎える心の余裕がないようです」


 百年……時代がかなり進み、いくつかの種族が滅亡してもおかしくはない程気の遠くなる年月だ。


「そしてジャック、あなたにお願いがあるんです」


 ロイは養父を見ると、その煌々と燃える赤の瞳とぶつかる。ジャックはロイよりもきれいに口の端を上げてみせると、食器を持つ手を止めた。


「ええ、なんなりと」

「私がいない間、図書館の仕事を。それとミッド家の双子の世話をお願いします」


 パンプとプキンは眠ったままだが目覚めたら奇跡の血を保護するためにBlood ROSEに入団することになるだろう。

 奇跡の血を持つために誰かが幼い双子を護らなければならなくなる。それをロイは相棒のいないジャックに託すことにしたのだ。


「かしこまりました。それではしばらくはこの店を閉めることになりそうですね」

「だから、ラスト・アフタヌーンティーです」


 二人は顔を合わせてクスクス笑うと、ジャックは再び紅茶を淹れ直した。

 そして戸棚にしまってあった薔薇の砂糖漬けを取り出すと、隣に置いた。

 ロイはローズティーにそれを落とす。薔薇の香りでいっぱいのスペシャルティーになった。


「それにしても、ロイ様はすごいお方です」

「なぜです?」


 ロイは細い指で薔薇の花びらを摘まむと口に押しこむ。


「今度ミッド家に仕える私の名がジャック、だからですよ」


 ロイは首を傾げた。ジャックは狼の様な鋭い目を綻ばせる。心底嬉しそうに笑うと、ポットにお湯を入れる。


「ミッド家はハロウィーンにちなんだ名前を付けるんですよね。ジャック・オ・ランタンってありますでしょう?」

「まぁ、そうですね……それで、私のどこがすごいのですか?」


 ジャックが何を言いたいのか分からずロイは相変わらず頭を傾げたままだ。そんな中、自分用の質素なカップに紅茶を注ぐと立ったままそれに口をつける。


「お忘れですか? 私にジャックと名付けたのはロイ様ですよ」

「あ……」


――お前の名前は好きではない。今日からジャックと名乗れ。いいな?


 遠い昔の記憶がロイの脳裏を過る。

 まだ幼かった頃の遠い記憶だ。


「私は今の名前が一番気に入っています」


 そういうと、カップを置きまた片付けを始める。


「ジャック、ごちそうさまです。いい紅茶でした。刑を執行する前に住み家を片づけないといけません。」

 ロイは微笑んでから踵を返す。


――本当に綺麗に笑えるようになりましたね、ロイ様


 養父のこの言葉だけは聞こえないふりをした。

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