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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 13 溶けたbon-bonを噛み砕いて
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検出

【溶けたbon-bonを噛み砕いて】


 集会所では静けさが戻っていた。

 ジャックは双子の元からバーに戻り、グラスを丁寧に磨いている。

 ルーザは団長席で団員から渡されたばかりの報告書をゆっくりと捲っている。

 どこか気が抜けている団長を見られるのは珍しい。

 キャンディ・ハロウィーン・ミッドが処刑されて早半月。いつも通りとはいかないが穏やかな日々が戻りつつあった。


「お前は、それでいいんだな?」


 ルーザはシルバーフレームの眼鏡をあげると、本を閉じ隣に視線を送る。

 髪と同じ色の栗色のセーターを着るルーザはいつもの威厳なる団長の時より少しばかり若く見える。


「ええ、今回の事件は私にも非がありますからね」


 隣にはいつも通りシンプルなシャツを素肌に纏ったロイが微笑んでいる。

 ルーザはロイの言葉にため息を吐くと、書庫に本を戻そうと立ち上がる。


「おい、ルーザ! 大変だ」


 ラルムヴァーグへ続く扉を開けたのは、半月ほどミッド家の屋敷に滞在していたダレスだった。

 医療道具の入ったトランクを下げ、相当慌ててきたのか、長いウェーブのかかった自慢の髪はリボンで結わえてはいなかった。


「ダレス、騒々しいぞ」


 ルーザは突然やってきた不安の種にため息を吐いた。


「それどころじゃあないって! 検出されちまったんだ! 至急三役で会議するぞ」


 豪快に椅子を引くと副団長席に座る。

 そのあまりにも慌てた様子に二人は首を捻った。

 



* * *




 ジャックがローズティーを淹れると密やかに会議が始まった。

 団長席のルーザが左手を挙げる。


「それでは、手短に用件を言え」


 スーツを纏っていないせいかどこか緊張感のない様子だが、発言の求められたダレスだけが違った。


「俺は今までミッド家にいた。それは眠った双子ちゃんたちが一向に目を覚まさなかったからだ」

「それは、ここを発つ前にお前から聞いた。もっと端的に話せ」


 ルーザは回りくどい説明が好きではない。紅茶を啜るとダレスを睨み威圧する。


「双子ちゃんたちの血液が“奇跡の血”になっちまったんだ」


 ガチャン、と派手な音がする。ルーザがティーカップを落としたのだった。

 おとぎ話の中の伝説の存在。奇跡の血がこの世に誕生してしまった。これはどんな事件よりも惨く、どんな宝物よりも貴重なものだ。


「詳しく話せ」


 ルーザは割れてしまったカップを素手で寄せると体ごとダレスの方を見た。


「俺がキャンディに言ったんだ」


 ダレスは静かに話し始める。実は昔ダレスは興味本位で奇跡の血について調べていた。たまたま見つけた文献には以下のことが記載されていたという。

――いつか“奇跡の血の元”が生まれる。それは完全ではなく禍々しいものにより完成はしないだろう。奇跡の血の元は“魔を払う者”によって完成する。さらに“奇跡の血”の錬成方法を記載し私は姿を消そう。


「どういうことですか?」


 ロイは文献の内容に疑問を持ち、話すダレスを遮る。


「わからねえ。読めない文字も入っていたから多分俺の手に入れた文献は魔族の手記、というか預言書だったみたいだ」

「それでもあなたは読み進めたんですね?」

「ああ」


 そしてダレスはその文献を読み解き、ある仮説を立てた。

――魔を払う者……それは“魔を浄化する者”の導を受けたキャンディのことでキャンディが奇跡の血の引き金になる。


「偶然にも文献にある言葉がミッド家に関わるものが多かったんだ。簡単に訳すとその奇跡の血の元はキャンディの血を以て完成する。それを再び肉親の血と交えることが重要らしいんだ。だから俺はキャンディにその文献のことを言った。そしたらあいつは……」


――ミッド家は一生、代々迫害されるだろう。だったら僕の血で奇跡の血を作って。そうすればミッド家は衰退しないで済む。たとえこの説が間違っていてそのせいで弟たちが死んだとしても、ミッド家が……僕の家族が迫害されない可能性がある方を選びたい。


 そういって弟の血を奇跡の血にすることを懇願したという。


「なるほどな。だからお前は自分に罰が降りかかろうと双子の吸血を止めなかったという訳か」


 ルーザは冷ややかにダレスを見た。


「これが富岡タエがやっていたのと同じ実験で大博打だってことはわかっていたよ。だけどキャンディを見ていたら止められなかった。俺も罰を受けるよ」


 パンプ、プキンの血液データをルーザの机に置くとダレスは膝を付き静かに俯いた。

 それはかつてキャンディがルーザに(ひざまず)いた時の姿と重なった。

 ルーザは立ち上がり割れたカップを掴むと、切れる手も構うことなく集会所後方にあるバーに歩き出す。

 半分ほど歩くと急に足を止めて振り返る。

 派手ではないが端正な顔立ちのルーザが珍しく口端を上げる。その身の毛もよだつほどの美しさと、恐ろしさを湛えた表情に副団長たちは身動きが取れなくなる。

 シルバーフレームの眼鏡を外すと、その長い睫の下にある眼光をきつく光らせる。


「……ダレス・サヴァラン。お前への罰は決めてある」


 そう告げるルーザの顔は無理やりの笑顔で歪んでいた。

bon-bon=飴玉


次話の投稿は9月22日予定です。

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