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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 12 dessertは甘く紅く
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言葉

あれは確か雨が降っていたな。いや、地下だから雨なんてわからねえか。

 アイツは本当の自分を取り戻して俺にこう言ってきた。


「僕の家族を救う方法はないかな?」


 参るね。こんな時他人の心配をしている場合じゃないのに。

 だから俺は言ったんだ。昔々、奇術師が教えてくれたことさ。


「お前の(しるべ)の言葉、知っているか?」

「魔を浄化する者……?」


 その本当の意味を知ったときアイツは笑顔でこう言った。


「もし、それで家族が救えるのなら僕はそうしたい」


 ああ、本当に参るね。


――Blood ROSE -櫻薬編- 集会所で拾った紫色のメモより




 吸血鬼界において刑はすぐに執行される。例え周りがどよめいても暴動が起こっても関係はない。

 今回の判決では皆が皆、呆気にとられているようで、あのミッド家のご長男が反逆罪? ではミッド家はどうなってしまうのか? 等々小さな声で囁かれた。

 すぐさまダレスが立ち上がり石でできた無機質な台に、包みごとキャンディを乗せていく。

 ロイもそれにならい銀の杭と木槌を手に持った。


 先程の高座にはルーザが着き、刑執行のタイミングを見計らっていた。

 その向かいでは幹部であるカユとケイが上官たちの動きをじっと見ていた。そしてカユが唸るように呟く。


「なんでだよ。キャンディは何も悪くないだろう?」


 ケイはカユの傍に寄り声を潜めた。


「こういう結果になることは予想していただろう? アンドリュー様は間違ってはいない。現にキャンディは人間に手を貸したのだ」

「……でもよ、どうにかならなかったのかよ。仲間を失うのはもう、嫌だ……」

「カユ、静かにしろ。我も減刑の手を色々考えたが、どれも現実的ではなかったのだ。我も出来ることならば……」


 二人はその後声を出さなかった。涙だけが頬を伝い嗚咽を飲み込むように下を向く。

 そうしているうちに、ダレスがベルトを解き、キャンディの入った包みを広げる。そこには安らかな顔で眠っていた。命のない人形のようで土色だった皮膚は 綺麗に化粧を施されていた。これは最後まで美しいままの姿で、というダレスの配慮だ。

 丁寧に施された化粧は痩せこけてはいるがキャンディを美しく見せていた。

 ダレスが元の位置に戻るとルーザがすぐに宣言する。


「これより、キャンディ・ハロウィーン・ミッドの処刑を執行する」


 それはあまりに急で淡白に開始宣言をされた。

 キャンディの父親であるアップルは気持ちの整理が出来ていないのかそれとも結果を知っていてかあまりに無表情で、他の観衆もまだ信じられないと言った様子だった。

 そんな周りの反応に気を留めることなくルーザは口を開く。


「刑執行人は、Blood ROSE副団長ロイ・ルヴィーダン。前へ」


 ロイはなるべくゆっくりと歩いた。一気に視線が集まりざわめいていた声がひとつひとつ消えていった。

 右手に持たれた杭へ左手に持たれた木槌を打ち込めば、キャンディは砂となって消える。

 そう理解していながらロイの心はどこか冷静で寒々としていた。

 彼の隣に立って辺りを見渡すと、目が合う吸血鬼たちは視線をすぐに逸らし、カユとケイは下を向いていた。ダレスだけがロイをじっと見つめる。それはただの注目とも、意味のある視線でのメッセージにも取れた。


「ロ、イ……」


 風が通り過ぎるような小さな声が隣から聞こえる。それはしばらく聞いていない相棒の物で、ロイは驚倒し視線を下に向ける。キャンディの目は瞑られたまま口だけが微かに開き、ロイに語りかける。


「前を向いて、僕が喋っているって悟られないで」

「正気に戻っていたのですか?」


 ロイは前を向きなおしながらわずかな口の動きだけで会話をする。

 その間、周りには罪状を再び読み上げるルーザの声が響いていた。


「短時間なら大丈夫そうだ。でもすぐに狂気に支配されてしまう。……僕の最期のお願い聞いてくれないか?」


 ロイは静かに頭を下げる。それは是の合図だった。


「ありがとう。……最期に三分だけ弟と話がしたいんだ。僕が正気じゃなくなったらすぐに杭を打ってくれ。それとロイ、僕が愚か者でごめん」


 ロイは正面を向いたままルーザの言葉が終わるのを待った。そしてすぐに左手を挙げる。


「団長、ルーザ。この罪人の最も愛する弟たちに最期の挨拶を」


 ルーザはほんの一瞬だけ眉を(ひそめ)めた。何を考えているんだ、というようなニュアンスに取れる。そして数秒の沈黙の後に、いいだろうと低く言った。

 ロイは右手でブローチを押さえ深く腰を折ると、また正面に向き直し声を張り上げる。


「パンプ・ハロウィーン・ミッド、プキン・ハロウィーン・ミッド。前へ」


 双子たちは目を丸く見開き、固まった。

 そして父であるアップルに背中を押されるとおずおずと前へでて、兄の姿をしっかり捉えると走り出した。

 ロイはなるべく離れないように二、三歩後ろに下がると静かに見守った。

次話の投稿は9月16日予定です。

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