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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 11 すべてをglacageに映して
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拘束

 悲劇の夜から4か月が経とうとしていた。

 あれから何度かの審判があり、ロイも事件についての書を纏め終わっている。

 団員の中で一番忙しそうにしているのは団長ではなくダレスで、過去の血液の再検査や遺体の解剖、薬の分析と扉に籠りきりになっている。

 ミッド家は使用人を全員解雇し、無人の屋敷となった為にバーのマスターであるジャックはロイの命令により双子の世話で掛かりきりになった。


 ダレスが数日に一度紫の扉から出てくると、決まってロイが無人のバーに入り濃く淹れたダージリンを出した。

 今日もダレスが重い身体を引きずるように扉から這い出てカウンターに着く。

 ロイもペンを置き挨拶を交わすことなくバーに立った。

 そして乳白色のカップに紅茶を注いで、隣には胡桃をローストした物を置く。これはダレスの好物の一つである。

 ダレスはいつもよりけだるそうに胡桃を摘まむと、口に器用に投げ入れる。

 分析レポートをカウンターに広げると、そこで初めてロイと目を合わせた。


「だいたい事件の点と点が結ばれたって感じかな」


 紅茶を啜りながら疲れた顔でダレスは言った。


「すべて……分かったのですか?」

「ああ。まず富岡タエ、あの女はすごいよ。自分で作った薬物は自分で一度は試してやがる。回収した実験メモには自分が飲んでみての感想や考査が書いてあった」


 ダレスはタエの実験メモとダレスが考査した薬のレポートを出した。


「これが犯行に使われた櫻薬と自殺へと導く薬、ですか」

「ああ、櫻薬は犯行ごとに微妙に成分を替えてきてるようだな。そんでこの薬は最悪。猫の血に鳥類の血に紫陽花の花びら、百合の根……猫の血は別としてよくもこんな吸血鬼が食いたくないものベスト3を選んでこれたよな」


 えづく真似をして、彼は当てつけるようにレポートを床に投げ捨てる。


「そんで、ロイの証言をもとに団員を行かせたぜ。永京に……」


 ダレスはもう一度紅茶を口に運ぶと、声のトーンを下げて話し出す。

 団員数人で永京へ向かうと、蔵を探したがそこへたどり着くにはかなりの時間がかかってしまった。富岡タエは母方の姓を名乗っており、本当の名前に行きつくには時間がかかったのだ。

 蔵の中には吸血鬼に関する資料、考査などが莫大に入っていて回収するのにも手間取った。その後は不審火に見せかけ、蔵自体を消滅させてしまったという。


「……そんでそいつらが帰ってきたのがふた月前でそこから永京の言葉に詳しい

ケイが資料を黙々と読み解いていったってわけだ。資料は女の父親、新田正治が書いたものなんだと」

「富岡タエの父ですか。女や酒に溺れたと聞きますが」

「ああ、狂う前に集めたものか、それとも狂いながら集めた者かもな」


 ごちそうさん、と空のカップを置くとキャンディの入る独房の方から足跡が近づいてくる。

 そこには顔に引っ掻き傷を付けたケイが息を切らしながら走ってきていた。


「ダレス! ああ、ロイも一緒か。丁度いい、また鎖が外れてしまった。カユが止めているが我らでは抑えが利かぬ。手伝ってはくれないか?」

「おかしいな、猫の血の中和剤は打っている筈なんだけど暴れ出す期間が短いな……」


 ダレスは首を捻って呟いた。


「ダレス、今は考える暇なんてないみたいですよ。さあ、行きましょう」


 ロイはケイと共に走り出す。


「おい、待てよ!」


 ダレスも急いで後を追った。

 独房内に入ると、鎖で無造作に縛られたキャンディの姿と息を切らしているカユの姿があった。


「ケイ……なんとかキャンディは抑えたぜ」


 カユの頬は自分の血で真っ赤に濡れていた。


「カユ、大丈夫であったか!?」

「ああ、なんとか……近距離での間合いの取り方、分かってきたし。こうやって一人で抑え込めた。それでな、今日は俺の目を見て少し怯んだんだ」


 赤く濡れた顔は嬉しそうに笑っていた。あの夜の悔しそうな顔はもうなかった。この期間にカユは自分の弱さと情けなさを捨てたようだった。それは強くなったとも、冷静になったとも言えた。


「お前、もう少しで目を抉られるところじゃねえの」


 呆れたようにダレスが言うと、カユは更に無理やり口角を上げた。


「そう、この目が怖くて気に入らないみたいなんだよね」


 その後に続けてこう言った。


「……俺もだよ」


 ダレスとケイはなにも答えられず俯いた。

 そんな中、ロイはカユに近づき、赤く濡れた頬に触れる。


「私はあなたの目、嫌いじゃないですよ。満ちた月のようで綺麗でしょう? 早くその傷、治してしまいなさい。今は飢餓状態なんですから、おいしそうな血を流すものではありませんよ」

「そう、だよな」


 ポケットからハンカチを取り出し、丁寧に血を拭くと大きな瞳から涙を落とす。

 その涙は傷に触れると、蒸発するように音と煙を上げ、見る見るうちに傷をなくしていった。


「さあ、キャンディを椅子に固定してしまいましょう」


 久しぶりに見るキャンディは、栄養を投与されているのか骸骨のような容姿ではなくなっていた。だが、痩せ細っているのには変わりなく軽々と持ち上げられ、あっという間に椅子に固定される。

 最後の鎖の錠をかけて、檻を閉めるとキャンディの瞼が開いた。

 虚ろな視線は、ロイを捕えると熱を帯びる。


「なんでそこにいる? 本当は君がここにいるべきなんだ! 何故平然とそこにいる? 答えろロイ! 次は仕留めるぞ。悪魔……悪魔はミッド家の名において必ず僕が!」


 擦り切れそうな声で精一杯の叫びが独房内に響いた。


「ロイ、お前は先に行け。ケイ、口を固定するものと睡眠剤持ってこい!」

「了解した」


 ダレスの言葉でケイは走り去っていく。

 その叫びに呆気にとられ、固まっているロイの手をカユが引いた。


「ロイ、早く行くぞ」


 カユの手に引かれるままにロイは独房を出る。

 扉の向こうではダレスが何か怒鳴る声と破壊音がする。


「あとはダレスたちに任せよう」

「キャンディは、いつもあのような感じなのですか……?」

「うん、何ヶ月か前に喋れるようになってからはずっと、だよ」


 カユはそういうと逃げるようにルーザの元へ報告に行ってしまった。

 残されたロイは独房の扉をただただ見つめていた。





 あの時、彼は再度私を殺すつもりだった。

 血の付いた爪を小指程度伸ばして、鎖の中足掻いていた。

 彼を見て、滑稽だ、と思った自分にまた心が凍りつく。

 この心が溶けるまで、私はきっと“悪魔”と呼ばれるのだろう。

 血に濡れたその身体は食事にしか見えなかったのだから。


――Blood ROSE 櫻薬編 ロイ・ルヴィーダン手記より抜粋

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