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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 11 すべてをglacageに映して
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帰還

――シュッ


「ァアアアアアアアアアアア!」


 何かが空を切る音と誰かの叫び。その叫びはキャンディの物だった。

 音を追うと、そこにはケイが東国の剣である刀を構え直していた。


「馬鹿者! 今の状況を認識しろ。このままではお前も死ぬぞ!」


 ケイの刀先はキャンディの右腕を仕留めたようだ。キャンディのシャツには血が滲んでいる。


「ケイ! 俺たち、仲間じゃないか! なのになんで……」

「お前も仲間だ。仲間が仲間を殺すところを見たくはない。しっかりしろ、任務は生け捕りにすることだぞ!」


 低い声がカユを奮い立たせる。

 カユは下唇を噛みしめ立ち上がった。締め上げられていた首が急に機能し始め、むせ返る。

 キャンディは自分を攻撃したケイに狙いを替える。ゆらりゆらりと斬られた腕を庇うことなく距離を縮めていく。


「ケイ……痛イ痛イ。ヒヒッ、痛イヨウ」

「……ッ」


 一瞬刀を構えることを躊躇(ためら)った隙に、銀色のナイフがキャンディの腕から光る。


「ケイモ摘モウ……」

「……ッ!」

 (かわ)しに入った瞬間、糸が切れたようにキャンディが床に倒れる。


――カラン


 床にはキャンディのシルバーナイフが落ちる。

 ケイの付けた右腕の傷には新たに投げナイフが刺さっていた。


「キャンディ!」


 ケイは思わず警戒を解きキャンディの元に駆け寄る。

 キャンディの右腕に深く刺さった小型のナイフは、床を血で染め上げている。


「……しばらく、眠っていてもらおう」


 ナイフを投げたのはダレスだった。

 彼は倒れたキャンディを横目に素早く証拠品を押収していく。


「ダレス。生け捕りという任務はどうした?」

「ダレス! ナイフを投げるなんてどういうことだよ? アンタこいつの遠縁なんだろ?」


 ケイが怒り、カユもキャンディに駆け寄りダレスを睨む。

 ダレスはそんな二人に見向きもせずに自分の作業を進めた。


「安心しな。そいつはシルバーのナイフじゃあない。睡眠薬を塗った銅のナイフだ。……俺がこうしなきゃお前さんたちはヘタすりゃ死んでたよ」

「だけど仲間だろ。なんでこんなこと……」


 落胆するカユをダレスは鋭く睨んだ。それはいつもの飄々とした彼のものではない“副団長”としての威厳だった。


「俺たち吸血鬼はみんな家族のようなもんだ。大切な友であり仲間でもある。でもな、キャンディは仲間である前に犯罪者だ。輪を乱す奴には制裁をしないといけねえ」


 ダレスは淡々と言い、トランクを静かに閉めると扉の前にいるロイの元へ向かう。


「ロイ、どうだ? 出来そうか?」

「ええ、もう少しですよ」


 ロイはダレスが持ってきた赤のペンキで絵を描いていく。一輪の薔薇とその上には大きな満月。そして薔薇の下に“BR”と。

 これが集会所への扉に繋がるようになる。略式で書くためにこの扉は一回しか使えないが、もう夜は明けていて外を歩くよりも確実な移動手段だろう。さすがに吸血鬼でも日中死体2体と吸血鬼を担いで全速力では走れない。

 ダレスはごくろうさん、とロイの肩を叩くとキャンディの元に行き彼を肩に担ぎあげた。


「随分、軽いな」


 小さく呟くと、また扉の前に戻っていく。


「ケイ、カユ、帰るぞ。任務は終了だ。ケイはその女を、カユはその男を運んでくれ。証拠品だ」


 ケイは返事もなしに無残な姿になったタエを担ぐ。カユも命令には従いぼろ布のようになったタカナシを背負った。


「カユ、帰ったら、お前さんの傷も手当てしないとな」

「いい、勝手に治る」


 カユは頬を数回擦った。“治癒の涙”の効果で傷口がどんどん治っていく。


「そうか、そんじゃあ帰ったらその力でキャンディの見える傷だけでも治してやってくれ」


 ダレスの言葉にカユは下を向いたまま小さく頷いた。


「お疲れ様です、ダレス」

「ああ、ロイもお疲れさん。まだこれからが忙しいけどな」


 ロイとダレスは疲れ切った表情を形だけ緩める。

 ダレスは作ったばかりの扉を開けて先に進んでいった。ケイは黙ってそれに続く。


「カユ、お疲れ様でした」


 ロイは呆然と立ち尽くすカユに声をかける。カユは声を振り絞って小さな怒りを彼にぶつけた。


「ロイは、何とも思わないのかよ……」

「思うことは数えきれません。ですが私は長い時間生きています。悲しい別れはこれだけではないですよ。あなたの倍以上は生きていますから、感じる悲しみはあなたの倍以上に薄くなっているのかもしれません」


 そういうとロイもダレスとケイの後を追う。

 ロイが作った扉の道は暗く、じめじめしていた。それは今ここを歩いている者の気持ちをすべて具現化したような陰気な地下道だった。

 誰も一言も声を発しないまま、黙々と足を進めていく。

 4人分の足音だけがそこに存在していることを示した。


 キャンディ・ハロウィーン・ミッド、四ヶ月ぶりの集会所は罪人としての訪問となった。


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