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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 07 困惑とcannelleをふりかけて
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報告

【la nuit 07 困惑とcannelleをふりかけて】




 一方、北国ベルレネディアではロイが本と向き合う日々を過ごしていた。

 実家であるルヴィーダン家に戻ってからは毎日、寝る間も惜しんで書に筆を走らせた。

 図書館内の整理もふた月かけて終わり、後は空いている歴史書を書き足す作業を進めるのみだった。しかし、この作業が一番厄介で、ロイは参考文献を読みながら慎重に文をまとめていった。


(……なんとか、終わりましたか)


 ロイは乾ききった双眼(そうがん)を擦ると、綴った書物を(まと)めた。これからBlood ROSEの集会所に出向き、団長のルーザに書物の申請を出さねばならないのだ。

 息つく間もなくマントを着込み外に出る。空は真っ赤に染まっていて、その毒々しい色に目を潤ませながら、ロイは足早にそして日が当たるところを避けながら歩いた。


 ベルレネディアは赤の国と呼ばれていて、一日のうちほとんど空が赤に染まっているように見える不思議な国だ。夜と昼の狭間の国とも言われていて、その幻想的な光景を見に来る客も多いという。今は正午を過ぎたばかりだが、日は落ちかけの位置で止まり、動かない。

 空腹状態のロイからすれば、空の赤でさえも血を連想させて気持ちを苛つかせるだけだった。

 長い時間歩き続けて集会所への扉に来たころには空の赤は、藍色と混ざり禍々しい雰囲気を(かも)し出していた。その扉は古い空き家の玄関で今にも屋根は崩れ落ちそうになっている。ロイは幻想的な空に見向きもせずゆっくりと軋む扉を開けた。


 入り組んだ通路を迷うことなく進み、赤色の扉を通じて集会所に入る。

 広い室内には団長のルーザ、そして後ろのバーにはジャックがいた。


「ルーザ、おはようございます。歴史書の書き足した部分を読んでいただきたいのですけれど……」


 ロイはすぐに“友の歴史書”という瑠璃色の本を差し出した。ルーザはそれを受け取ると数ページぱらぱらと捲り、満足げに閉じる。


「ご苦労。数日中にはすべて目を通そう。丁度今お前にコウモリを飛ばそうと思っていたところなのだ」


 そう言うルーザの左肘にはコウモリがぶら下がっていた、黒い使い獣を指で2度撫でると空高く飛び立ち、排気口に姿を消していった。


「何かあったのですか?」

「少し話したいことがあるのだ。待っていろ、今ダレスを呼んでくる……三役で会議だ」

「また急ですね」


 ルーザはメガネをあげなおすと(きびす)を返し、団長席の傍にある紫色のドアを数回ノックした。

 ロイは先にバーカウンターに行って二人を待つことにした。


 カウンターに座ったと同時にジャックは微笑むとすぐにロイの好きなローズティーを出す。


「お茶でよろしかったですか?」

「ええ」


 疲れたロイを察して準備してくれていたのだろう。ロイはさっそく温かい紅茶に口を付けた。

 しばらく紅茶を堪能する。

 久しぶりの休息だ。その静かな時間と紅茶の香りを堪能していると、ダレスを連れたルーザがロイの隣に着席した。ロイはダレスも腰を落ち着けたところを確認するとルーザに本題を求めた。


「いきなりどうしたのですか? まだ仕事がありますので手短にお願いします」

「例の殺害事件のことだ。残念ながら犯人の有力な手掛かりはつかめていない」


 では何故……そう問いただそうとした時ダレスが静かに割って入る。


「まあまあ、俺も今の今まで検死や解剖をしてたんだ。 んで、色々わかったこともあるから伝えておこうと思ってな」


 ダレスはいつもの(ごと)く得意げ言い、ジャックが注いだ紅茶を飲んだ。

 ルーザもカップに口をつけ、低い声で淡々と語りだす。


「現在のところ被害者は25人、全員がシルバーのナイフによる失血死だ。皆、人間相手に仕事をしているのも共通点だ」


 ルーザが持っていた資料には被害者の名前と所属している団体、職業などが書かれていた。そこにはBlood ROSEに所属している者も何人か見られる。


「5ヶ月で25人は多すぎる気もしますね……」

「ああ、まさしく奇妙な事件だろ? そんで俺が検死したらもっとおかしなことが分かったのさ」


 ダレスは胸のポケットから一枚のくしゃくしゃになったメモを取り出した。


「まず検体に共通する点を挙げる。紫の薔薇の睡眠薬を全員が飲んでる……そしてもうひとつ、人間様の睡眠薬と変な薬が胃の中に残っていた」


 ダレスの言葉を聞いたルーザは眉をひそめた。ダレスは珍しく神妙な顔で続ける。


「未確認の薬は二種類見つけたんだ。一つは溶けきっちまってて形は分からないが血液中に成分だけ検出された。たいしたことのない薬だ。だけども正直、もう一つ、形が残ってたヤツはどんなものかも考えたくもなかったよ。なんかヤバイ感じがする」

「ダレスにでも何の薬かはわからないのですか?」


 ロイは尋ねた。


「人間様はすごいスピードで様々な薬を開発する。俺はその流れについていくことはできないのさ。なんていったって表向きは音楽家だからね。まあ、何の薬かは今分析中ってとこさ」


 ダレスのメモには細かい字で色々と書かれていた。彼からの報告は終わりのようでゆっくりと紅茶を啜った。

 ルーザはゆっくりと足を組み替えて話し始める。


「それでは俺から、カユが集めてきた情報を話しておこう。こちらもおかしな報告だった」

「被害者が人間界でどのような死因になっているか、だ。皆一様に、自殺ということになっていた」

「え……?」


 ロイは思わず声を上げ、ダレスは大きく目を見開いた。以前の報告でカユは首を深くナイフで刺していたと言っていた。どう考えても他殺にしか見えないだろう。


「シルバーのナイフには被害者の指紋しか検出されてないようだ」


 フッと笑う息使いが聞こえる。その主はダレスで、顎に指を添え、その顔は自信に溢れている。


「ククッ……なんとなく見えたな」

「ダレス、なんだ?」


 ルーザは(いぶか)しげにダレスへ視線を送った。


「俺は今までナイフでの殺害だと思っていたんだ。だから犯人に結びつかなかった。今回の死因はナイフじゃあない。どちらかというと服毒殺害だな」


 ダレスの通る声が集会所内に低く響いた。

 ロイとルーザは尚もダレスから目を逸らさなかった。

 ダレスの口角があがる。それは勝ちが決まったチェスのチェックメイトを待っているような笑顔だった。

cannnelle=シナモン

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