序章
【la nuit 00.5 今宵はaperitifをゆっくりと】
この古い歴史図書館には数えきれない本がある。不思議な本、綺麗な本、悲しい本。
その中に特に分厚い一冊の本がある。【Blood ROSE】――赤い革の表紙に金の糸でタイトルが刺繍してあり、その姿は本であるのに息をしているような、怪しい風格あるものだった。
この本は美しい吸血鬼たちの日々が今も綴られ続ける、ページが増える不思議な本だ。
さて、ページを一枚めくってみよう。
今宵、あなたにはこのお話をお届けする。
人間に恋する吸血鬼、キャンディ・ハロウィーン・ミッドのお話。
綿菓子のような髪に、名前の通りキャンディのような大きな瞳。
愛を重んじ、誰よりも皆の幸せを大切にしている。彼はとても優しく誠実な少年だ。それ故に招いた悲劇。
さあ、行こうか。春に魅せられたハロウィーンの王様に会いに……
あなたは綺麗な花に埋もれていった
手を伸ばしても届かない
私に向ける微笑みは花と云う花に埋め尽くされる
その優しい微笑みの意味も分からぬまま、私は紅色の海へと堕ちていく
嗚呼、もしも日々が戻るというのなら
この白く透き通る右腕を差し出しても構わない
季節は幾度とめぐり今年もまたやってくる
私はまだ緋色の春を好きにはなれないでいる
――Blood ROSE 第五章 櫻薬編 ロイ・ルヴィーダン手記より抜粋
aperitif=食前酒