だいろくしゅ ゆきうみに おるるしらとり はねやすめ きよきそのみに けがれはしらず
第六首
雪海に 降るる白鳥 羽休め 清きその身に 穢れは知らず
高校生の頃か、中学生の頃か。
猪苗代湖の方へ抜けていく途中、車の窓の外、雪で真っ白になった畑に白菜が捨てられたの。
それはもう、投げ捨てられたと言わんばかりの薄汚さで。
なんで、白菜が投げ捨てられてるのか。
へんなの。
食べきれなくて、出荷できなくて、畑に還そうと思ったのか。
ひどく傷んでいたのか。
「白菜が動いた」
お母さんがそんなことを言って。
風で転がったのかと思ったけれど。
いやいや、そんな、白菜が転がるほどの風って、どれだけ強いのさ。
「は?」
やっと追いついた思考は、さっきの言葉から五秒くらい遅れて、白菜へ意識のピントを合わせて。
白菜が歩いてた。
いや、歩いてたんですって、本当に。
泥まみれでぼろぼろの白菜が、のそのそと。
「……はくちょう?」
遅れに遅れて、わたしの記憶の書架から、よく見慣れた冬の風物詩の情報が出てきて。出てきたら、照合まで五秒もかからず。
うん。白い体。白菜くらいの大きさ。黄色い嘴の縁に黒いライン。
ハクチョウだ。薄汚れて、見る影もなくなったハクチョウだ。
「白菜にしか見えなかった!」
「汚れすぎでしょ!」
みんなで笑いましたとも。
十羽か二十羽か、それほどいたのに、どれも「白菜」。
これ以来、我が家でハクチョウの愛称に「白菜」が加わり、何年経っても変わることなく、笑いを引き出してくれるのです。
さてさて。
雪の海みたいに、白く広がる田畑。
そこに、疲れた羽を休めるハクチョウの穢れることのない白い姿の、なんと清らかで素晴らしいことか。
ゆきうみに おるるしらとり はねやすめ きよきそのみに けがれはしらず
イメージ優先、イメージ優先。
くすくす。