だいごしゅ きみさりて ひぐらしなきたる みちすがら ひとりをしれば よるはさみしき
第五首
君去りて 蜩鳴きたる 道すがら 独りを知れば 夜は淋しき
これは、家族が田舎に帰って家にいない間に、恋人を連れ込んで、幾日か過ごした後。
その人を駅まで送り、独り、元来た道を帰る頃に、ひぐらしの物悲しい声が辺りに木霊する季節でして。
きみさりて ひぐらしなきたる みちすがら ひとりをしれば よるはさみしき
ひぐらしの声は好きですとも。夏の盛りでも、秋が足音忍ばせる涼やかな風情を報せてくれるのですから。
夏は夜。月の頃はさらなり。まして、ほっそりとしたペーパームーンは、わたしの生まれた日と同じ形の月。透明な月猫ルシカが、すらりとした姿を見せているのです。
それでも。
ええ、それでも。
幾日、あなたと過ごしたと思いますか。それが、どれだけ幸せだったか。
幾日、あなたと待ったと思いますか。恋焦がれて、指折り数え、数えては次の日付まで、消し去りたいとまで思ったのです。
ああ。
明日また会えるというのが、揺るぎようもない事実だとしても。
この時、この道のりの間、暗く頼りない細月にしか見守られない夜空の下。
わたしの隣にあなたはいないのです。
さみしいと思うことくらい、許してください。
それも出来ないのなら、あのひぐらしだって、伴侶を求めて鳴くことはおかしいのではありませんか。
あのように、やたらめったに声を上げないだけ、わたしはお淑やかだと言ってもいいのではないですか。