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一人百首  作者: 奈月遥
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だいにじゅうきゅうしゅ てんぜうの うたげにてんにょ まふそでが てんかちらせば さちとふるかな

第二十九首

天上の 宴に天女 舞ふ袖が 天花散らせば 幸と降るかな


 ふわり、ふらりと。

 風もないのに、空気に揺らされて。

 綿雪が空から降ってくる。

 見上げてみれば。

 あちらが降ってきているというのに。

 こちらが天にも昇る感覚。

 幻想は、いつも現実と重なったフィルム。

 そのフィルムを、気付かないうちに取り払ってしまうのか。

 それとも、無意識によって飛ばされないように押さえておくのか。

 それだけで、感じる世界がまるで違う。

 わたしにとって、人のいう現実はいつも、テレビを見てるような実感の伴わない情報の塊でしかなくて。

 わたしの現実は、小さなささやきを耳元に感じる幻想風景。

 無理やり引っぱりださないで。

 いっしょにいたいと言ってくれるなら。

 あなたも、こっちに来てほしい。

 こっちのほうがたくさんの意味と本当があるんだから。

 ふわふわと。

 心に羽。

 浮かんでく心地。

 胸の内にあった想いが溢れて、逆にわたしを包み込んでくれる。

 このまま、このまま。

 夜空まで、雪の散らされた園まで辿り着いてしまったら。

 どれくらいかかるだろう。

 手のひらを、そっとかざして。

 冷たい六花が、触れる。

 とけないくらいに、つめたい。

 息を吹きかけて。

 花が消えて、夢のよう。

 唇を寄せて。湿らせる。

 雪は天上の花が散って、ここまで降ってくるらしい。

 こんなにも、天花が散るのなら、きっと楽しい宴が開かれてるに違いない。

 その天花が咲ききり、散る頃に。

 美しい天女が舞い踊り、指先を天花に触れて、舞わせるのだろう。

 そのまま白い純潔の花を手繰り寄せて、天女はその舞に合わせて、散った花を纏うに違いない。

 触れて溶けた滴に濡れながら、艶やかな色香を増しながら。

 そうして降った天花が、雪と散るのだから。

 こんなにも綺麗で、こんなにも心満たされて、こんなにも幸せになるの。


てんぜうの うたげにてんにょ まふそでが てんかちらせば さちとふるかな


 いつか、わたしもあなたに天花を散らし、幸せを降り注ぎたい。


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