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一人百首  作者: 奈月遥
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だいいっしゅ しもおりて とほきはるまつ かたきめの みどりをおもふ われもまちびと

第一首

霜降りて 遠き春待つ 堅き芽の 緑を思ふ 我も待ち人


 あれは、わたしの入学からもうすぐ一年が経とうとしている二月のこと。

 新入生を迎える作品を考えつつ、大学へ向かう道すがら。

 わたしの故郷である福島県会津若松市なら、朝には霜が降りている時期なのに、八王子はそんなこともなく、雪の白すら見えずに物寂しい気分だったのを覚えてる。

 もうすぐ訪れる新入生を迎えるために、詩策しながらも、自由詩が思い浮かばずに、考えが彷徨ってたの。

 いくつか、浮かんでいた言葉。

 期待、もしくは歓迎。待っていたこと。出逢えた喜び。

 若さの肯定、瑞々しさ。溢れる生命力。

 春の訪れ。

 大学に来て、抱いてるだろう不安を和らげたい。

 もう記憶がはっきりとはしないのだけれど。

 そんなことを思い迷っている時に、手に寒さに眠る新芽が触れた。

 わたしのクセに、道を歩きながら、塀とか、生垣とかに指で触れて、こするようにすることがあるの。その時は、大学の植木に触れていて、手の届く範囲というと、おそらくはドウダンツツジの新芽だったと。

 春には、芽吹くのかと思い。

 春に見た緑を思い浮かべながら、茶色く眠る、わたしの背より低い木を見たのを、なんとなく覚えてる。

 早く、芽吹けばいいのに、と。

 生き生きとした息吹を伝えてくれたらいいのに、と。

 春を待っているその新芽が開くのを、わたしも待ってた。

 そう、素直でひたむきに創作に向き合う新入生が部活に訪れて、その作品を芽吹かせるのを待つように。


しもおりて とほきはるまつ かたきめの みどりをおもふ われもまちびと


 花開くのを待つか。

 緑が息づくのを待つか。

 すこし、迷った。

 けれど、生きる強さを感じるのは、葉の緑だった。

 すこしだけ軽くなった心を弾ませて。

 もう一度、堅い芽を撫でてから、わたしは部活へと足を向けた。

 これから来るだろう春に、若い芽が開くのを期待しながら。


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