だいじゅうろくしゅ ほそあめの しらいとうむは じひなれば ふりたるかさね てんいむほうと
第十六首
細雨の 白糸績む(生む)は 慈悲なれば 振りたる(降りたる)襲(笠音) 天衣無縫と
天衣無縫。天女の衣には縫い目が全くない様。転じて、詩歌にわざとらしい技巧やひっかかりがなく、自然と読めてその内容がすっと心に入るような、そんな素晴らしい作品を指す言葉。
細い白糸のような雨は、草木の成長を促す天の恵み。
その糸の滴は、あるいは木の幹を伝って地面に沁み込み、あるいは川の流れに混じっていく。宙に降る時は糸筋も見えるけれど、流れに織り込まれれば縫い目も見えず、どれがその糸なのか判別も付かない。
そして袖を振られる襲のように、たおやかな流れに乗って、どこかへ、いつしかは海へと向かうのだろう。
地面に眠る雨水は草木を育て、草木は動物たちの糧となり、つまりは、この雨が地球の命を支えてくれている。ありがたい、とても深い天の慈悲。
雨の中。
傘を差して立ってみれば、雑踏の音も遠く、途絶えることない雨音が包み込んでくれる。
静かな、わたしだけの世界。
それが、ふたりだけの世界なら、もっと素敵ね。
聞くところによると、雨の中で傘を差して、二人で寄り添ったそこが一番きれいな音が響く場所らしい。雨音が声を反射して、傘が声を集めてくれる。ささやきがおすすめだって。
うん、よくわかる。
ほそあめの しらいとうむは じひなれば ふりたるかさね てんいむほうと




