表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女の愛しき物語。  作者: 紫
2/3

再会。

「慈瑠ちゃーん!」


ザワザワと話し声が満たす教室に高く聞こえやすい声が響いた。


「夏野。どうしたんですか?」


クリクリとした愛らしい瞳が私を見つけて輝いた。

彼女の名前は花丘夏野はなおか なつの


「一緒に帰ろう?」

「すみません。今日は…」

「あーー、また図書室ー!?」

「はい。…3日前に貸りた本を返さなければならないので。」


彼女は私とは違い読書が得意ではなく、図書室自体も好まないようで、頬を膨らませ私にジトリと視線を寄越していた。

だが、しばらくすると諦めたように溜め息をついた。


「むーっ、はぁ。仕方ないか…。今度は一緒に帰ってね?」

「はい。よろこんで。」

「じゃ、バイバーイ!!」


小走りで教室を出ていく彼女に小さく手を振りながら、私は図書室へと足を向けた。


彼女は明るく快活で、可愛らしい…私とは正反対の女の子。


私は小さく溜め息を吐きながら、図書室のドアを開けた。


「あの、本を返しに来たのですが…。」

「はいはーい。月詠さんよく来るわねぇ。本好きなの?」

「はい。」

「そう。本もたくさん読んでもらえて喜ぶわ。」


ニコニコと優しげな笑みを浮かべた司書の女性の言葉に私は自然と微笑んだ。


本が好きな人が私は好きなようで、この司書さんは本を大切に扱っているのが、言動や扱い方から推測できる。


だから、本が喜ぶという表現に口元が緩んだ。


「あら?」

「?」


司書さんの不思議そうな声に顔を戻して見つめると、パソコンを開いていた司書さんは眉をしかめていた。


「3日前の6時半過ぎって開けてたかしら?」

「え…。」

「私、その日は午後から休みだったから、午前中には会ったわよね?」

「はい。確か…移動教室の際に本を返却しに来たと思います。」


そうだ。確かにあの日は司書さんが午後から休みだということをチラリと聞いた気がする。


それを残念に思いながら、放課後この前を通ると、不思議なことに開いていたのだ。


そして、彼に出会った。


「うーん…誰に貸し出して貰ったの?」

「えっと…」


そういえば、名前を聞いていない。


「彼は…美しい人…」

「え?」

「先生。犯人は僕ですよ。」


私は真後ろから、しかもすぐそばで聞こえた声に振り返った。


「あぁ、君か!」

「どうしても必要な書類があったのでここで探していたら、彼女が本を読みに来たんです。その時に僕が。言うのが遅れてしまってすみませんでした。」


品の良い笑みを浮かべてスラスラと言葉を紡いでいく人は、間違いなくあの日会った彼だった。


「そうだったのね。それじゃ、この問題は解決解決。そーだ、生徒会今大変なのよね?」

「えぇ。まぁ。」

「もうすぐじゃない?5月半ばのメインイベント!」

「そうですね。」


5月半ばのメインイベント?


聞き慣れない言葉に首を傾げると、一人黙っていた私に気付いた司書さんが声をあげた。


「あ、ごめんなさいね。すぐに返却手続き済ませちゃうわね。…よしと。じゃあ、ごゆっくりどうぞ。」


ピッという機械音のあと、ニッコリ微笑んだ司書さんに頭を下げて、私はいつものように自分の特等席へと向かった。


彼のことが気になったけれど、気になったからといってどうすれば良いのか分からなかった。


世界は私の存在で変わりはしない。

だから、ここで動いても動かなくてもきっと変わらない。


そう自分に言い聞かせて、本を手に取った。


「先生。」

「ん?なぁに?」

「彼女はなんて名前ですか?」

「ん~?月詠慈瑠つくよみ いつるちゃんよ。」


月詠慈瑠。

彼女の名前を頭の中で呟いて、僕は微笑んだ。


「今年からうちに入った子?」

「そうそう。うちの学校では珍しい高等部からの子よ。」

「そう。」


彼女の瞳が思い出される。

闇のような黒い瞳が僕だけを映している。


「先生!」

「あら、壱ノ宮君。」

「生徒の個人情報を勝手に漏らすのはやめてください。…陽も、また他人を巻き込むようなことはやめろよ?」


うるさいのがやってきたので、笑顔だけを残して退散することにしよう。


「ダメだったの?ごめんなさいね。」

「あ、もう今回はいいんです。次からは気をつけて下さい。陽も聞き出すのやめ…って陽!?」

「壱ノ宮君。図書室では静かにね?」

「あ、すいません。」


本の森を抜けると、彼女はこの前の席と同じ場所に座っていた。


けれど、この前とは違って視線は本の字を辿らずにボーッとしていた。


「何してるの?」

「!!」


驚いた彼女に笑顔を向けると、彼女は困ったように視線を反らした。


「本を読んでいました…。」

「嘘だね。君は気になることがあるから本なんて読めてなかった。…そうでしょう?」


いきなり現れた彼の口からこぼれた言葉に私は目を見開いた。


「そ…そんなことありません。」


彼の瞳は私をジッと見つめていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ