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エレクトロニック・シンドローム  作者: 東四郎
第1章 そこはゲーム世界
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第5話 チートと暴走

 目を開けるとそこは倉庫のようなところであった。木箱やドラム缶が雑然と置いてあり、外からの赤い光に照らされている。チート能力を手に入れた気は全くしない。なにせ見た目は学生服のままだし、姿形が変わったわけでもない。とりあえず頬を抓ってみるが、痛くて床を転げまわるだけだった。


「あいつ! 肝心のチート内容を教えてくれなかった!!」


 どちらかを選べとは言われたが、詳細については教えられていない。何故聞かなかったのだろうと悔やんでも遅い。先程までいたグローリーは影も形もなく、いるのは自分1人である。


 とりあえずチートを確認するにはメニュー画面からステータス画面を開く必要があるが、ゲームの中にいるのに一体全体どうやって開けばいいのか。当然コントローラーなど何処にもない。


「メニュー画面!」


 とりあえず叫んでみるが声は倉庫内に空しく響くだけである。琢海は誰に聞かれたわけでもないのに顔を真っ赤にした。目の前に何かが現れたのはその時であった。プロジェクターで投影されたような画像は、ゲーム中に幾度となく見るメニュー画面であった。


「ステータス!」


 もう1度叫ぶと今度はステータス画面が現れた。このゲームの能力にはそれぞれ戦闘、防御、整備、操縦、運などがある。見るとそれらは全てカンスト、つまり上がるところまで上がってしまっている。ただ1つ、存在すら失われた操縦項目を除いては。


 とりあえず能力を確認し終えた琢海はメニューを画面を閉じ、持ち物を確認することにした。現れた画面は閉じろと叫べばそうなるが、やはり恥ずかしい。対策を考えておかねばと思いながら背負っていたリュックの中を確認する。ライフル型の組立式レーザー銃、ライフル用のバッテリーパック、液晶画面がついた小型端末、無線機、ノートパソコン、ガスマスク、そして食料。オンラインゲームの中でパソコンとは何ともシュールだ。ガスマスクは被って顔を隠せということか。食料は四角形のパンらしきものが20枚ほど入っているが、お世辞にも美味しそうとは思えない。それから胸ポケットには見慣れないペンがある。見た目はごくごく普通のボールペンだが、上の方に8つほどボタンがある。


 レーザーライフル以外は全てリュックに戻し、早速組立を始めた。ところがなかなか上手くいかず、日が暮れてもまだ完成しない。腹も鳴り出したのでパンを一枚取り出してかじり付くが、固い上に味がない。文句を言いながら手を動かしていた琢海は、ようやく銃を完成させた。


 その時であった。喜ぶ間も無く琢海のいた倉庫は爆音と共に崩れ落ちた。


「……うへ、酷い目に遭った。……トタン食った方がマシだ」


 瓦礫の山と化した倉庫から這い出した琢海は口に入ったトタンを吐き出した。体には傷1つなく、服も破れていない。体だけでなく服もチートらしい。遠くでは金属同士がぶつかる音や銃声が鳴り響いている。ようやくチート能力を体験できた琢海は周辺が戦場になっていることに気がついた。遠くには大量のロボット兵や大型ロボットが見える。


 琢海は瓦礫の中からどうにかレーザーライフルとリュックを見つけ出したが、運悪く流れ弾に当たってしまった。しかし痛みもないし服にも傷1つ無い。これからどうすべきか残骸の上に座り込んで考えている時に大型ロボットから発射されたレーザー砲を浴びるが、これも無事。やがて周辺は雨霰あめあられと弾丸やレーザー降り注ぐ地獄と化すが、そんな中を琢海は暢気に歩いていた。


「ようやく実感したなぁ。さて、次は……」


 琢海はリュックからガスマスクを取り出すと早速装着した。これでネットで晒される心配はないと、安心して最前線へ歩いて行く彼の前に大型ロボット数機が立ち塞がった。レーザー砲や銃を乱射してくる彼等に対し、琢海はレーザー銃を構え的確に相手の動力部や手足の関節を打ち抜いていく。


「おぉ、百発百中。イーストウッドも真っ青だ」


 最早目的を忘れているらしい琢海は攻撃してくるロボット兵の頭部へ鉛玉を打ち込み、大型ロボットを撃ち倒しながら進んでいく。きっと今頃画面の前のプレイヤー諸君は腰を抜かしているだろうと、琢海は内心ほくそ笑んだ。


 こうして最早動く標的でしかないロボットたちを撃ち続けていた琢海は、建物らしき残骸の中に何かを見つけた。打ち捨てられた大型ロボットであった。ゲーム内では既にロスト扱いで、乗ることは出来ない。但し先程のグローリーの言葉が正しいとすれば、この機体は実際のところ大したダメージは受けておらず、まだ十分使えるかもしれない。


 敵兵を撃つのに飽きてきていた琢海は早速ロボットへ乗り込んだ。本来乗れないという表示が出るのだが、バグである琢海には関係ない。操縦席は無数のレバーやボタンが支配する空間であった。無論彼は操縦方法など知らない。


「操縦できないっていったって、まぁ何とかなるさ」


 早速レバーを前に引くと、機体の目には再び光が蘇り、立ち上がる。そそてそのまま……バックして岩に足を取られ、沼へ突っ込んだ。


「くそっ! 後ろか」


 レバーを逆に引けば何故か踊りだす。タンゴにルンバ、安来やすき節、フォックストロットチャールストン。また前に引くと今度は何故か前に向かって走り出す。後ろに引けば側転バック転宙返り。琢海は吐き気を催しながらも破れかぶれにレバーやボタンを弄くるが、お手上げ状態になってしまった。


 正座したまま蟹歩きをしたり、ワルツを踊りながら東京音頭を踊ったりともうしっちゃかめっちゃかである。どうも、操縦が全く出来なくなるというのは本当らしい。何せもう止めようとしても、止められないのである。


「うえっ、どうすりゃいいんだ!?」


 すると今度は大空へ向かって飛び立ち、更に空中で回転し始めた。回転しながら飛行するなんて熟練プレイヤーでも不可能である。周辺のロボットたちは先程からの暴走にただ唖然とするばかり。


「あああーーー!!!」


 情けない叫びと共に、機体は遥か遠くへと消えていった。後には呆然とする他のプレイヤーを残して。





■ ■ ■





 ふくろうの泣き声1つ聞こえない、暗闇に支配された森の中。既に草木も眠りに着いた頃、彼等を無理やり起こすように暗闇を照らす眩しい光。後ろで結んだ髪を弄りながら、ペンから出ている明かりを頼りにリュックの中を探る琢海である。真っ暗闇の中、ふと触った胸ポケットのペンが光りだしたのである。どうやらこのペンには様々な機能がついているらしい。この明かりを頼りにリュックの中を調べているが、懐中電灯はありそうにない。


 後ろでうつ伏せになっている大型ロボットの目は既に光を失い、冷たい鋼鉄の塊と化していた。移動手段も失い、此処がどこかも分からない。辺りは静まり返っており、死の世界にでも来た気分である。聞こえるのは心臓の鼓動音と荒い息遣いだけである。


 このどうしようもなく途方に暮れるだけの琢海をショック死させるほど驚かせたのは、突如鳴り響いたアラーム音であった。ロボットの中かららしく、耳障りこの上ない。ペンの明かりを頼りにロボットの周囲を周っていると、どうも操縦席かららしい。恐る恐る操縦席に入ってみると、操縦盤の一角にある赤いランプが点滅しており、その下の画面には接続せよと表示されている。画面の下にあるポートに繫げということらしい。


 琢海はリュックから液晶のついた小型端末を取り出すと、早速接続した。赤いランプが周囲の無機質な機械類や自分の体を照らす。既にアラーム音は止み、ここも静けさに支配されていた。心臓の音だけがドクドクと何時もより早めに聞こえる。


「下手糞、下手糞! 運転技術ゼロ、才能ゼロ!」


 小型端末からは静寂を破る、耳を塞ぎたくなるほど小うるさい声が飛び出した。声は小型端末からだが、中から飛び出してきそうなほどの殺意を感じる。思わず後ずさりしながら、琢海は目を丸くさせていた。


「な、何だこりゃ!?」


「お前か! 僕を操縦したのは! 下手! すぐヤメテ帰れ!」


 怒鳴り散らす端末を落ち着かせようと琢海は平身低頭、操縦について謝罪する。次に土下座し、泣き崩れ、百回謝罪の言葉を口にするがそれでも収まらない。仕方なくロボットについて褒めてみると随分機嫌がよくなった。これと謝罪を上手く合わせたところようやく落ち着いた。ただ後でロボットを回収し、修理することを約束させられたが。


 彼はこの大型ロボットの意思である。大型ロボットには基本的に意思があり、ゲーム上はプレイヤーと協力する。先程端末を繫いだことによって彼の意思はこの小型端末に移ったわけである。琢海は大型ロボットに意思があったことを今更思い出していた。因みに先程の暴走時に何の反応もしなかったのは、ロストしたため寝ていたらしい。この世界のロボットはちゃんと睡眠も取るのだ。


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