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エレクトロニック・シンドローム  作者: 東四郎
第1章 そこはゲーム世界
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第2話 ゲームの裏側

 家に着いた琢海は手だけ洗うと学生服のまま部屋へ飛び込んだ。両親は共に出張中で1週間はいない。食事も冷蔵庫の中のもので適当に作れるので、後は寝るまでほぼゲーム三昧である。パソコンが起動するまでに机の中から素早くノートを出し、ゲームが起動するまでには読み終える。書いてあるのは今日攻める場所の情報と戦略についてである。

 早速オンラインゲームの世界へ飛び込んだ琢海の意識は、椅子に座ってパソコンのディスプレイに向かっている物体には既にない。自身の愛機、大型ロボットのグローリーに移っている。そうしてこの機体を己の手足のように操るのである。早速チームを組む約束をしていたミキを探すが、なかなか見つからない。


 突如として彼の意識はディスプレイの前の物体に戻った。ディスプレイは真っ暗で写っているのは己の気の抜けた腑抜け顔だけである。パソコン本体の電源は入っているし、ディスプレイの電源も落ちていない。琢海はとりあえずディスプレイを軽く叩いた。昭和のテレビ宜しく、これでたまに直るのである。ところが今回はそうもいかないようだった。相変わらず画面は暗いまま。写っているのは冴えない男。

 琢海は途方に暮れてとりあえず背伸びをするが、突然の爆音に椅子から転げ落ちた。腰を擦りながら爆音の発生源を見ると、それは先程まで真っ黒だったディスプレイ。思わず顔を近づけると、画面は先程と同じ戦場だが自身の機体の姿は無い。ただこれまで聞いたことが無いような爆音や銃声が鼓膜をばちでぶち叩いたように響くだけである。耳を塞ぎながら怪訝な顔をしていると、いきなり愛機の顔が写った。


「---! --!!」


 何か叫んでいるようだが雑音が邪魔をして全く聞き取れない。とりあえず音量を下げようとリモコンを操作するが、何故か音量は下がらない。


「いいから早く来い!」


 ようやく聞き取れたと思うと、琢海の目の前には巨大な手があった。3D映画よりも鮮明で、まるで本物のような質感である。冷静に考えているうちに彼は頭を掴まれ、そのままディスプレイの中に引きずり込まれた。





■ ■ ■ 





 眼を覚ますとそこは一面真っ白な空間であった。壁も天井も地平線も何もない、広がるのはただ白い北国のような世界であった。ただ一つ、目の前にいるロボットを除いては。ゲーム内ではベーシックな人間サイズのロボットで別段珍しくもないが、彼の知り合いにこんなロボットはいない。


「……誰だい?」


「忘れたのか?」


 聞き覚えのあるハスキーボイスで琢海はハッとした。愛機グローリーである。


「話しやすいように機体を変えた」


 目の前にいるのは先程の大型ロボットと違って人間サイズのロボットである。単眼モノアイで、全体的にガスマスクを被ったような顔だ。着込まれた軍服は歴戦の強者つわものといったところ。容姿は異なるが少し掠れ気味の低い声は変わっていない。今更ながら柄の悪い声だと、琢海は心の中で呟いた。


「こんなところに連れ込んで……何を考えてるんだい?」


「お前に課せられた任務は敵の排除だ」


「……ああ、共和国の敵を排除せよってことね」


 琢海がプレイしているのは2つの世界のうちの一方、バンリディア共和国で西側世界の陣営である。東西冷戦のように西側が資本主義というわけではない。同じく東側世界のワレド連邦は社会主義ではない。連邦というのは単なる偶然だろう。


「違う。」


 グローリーは首を横に振った。


「第一あれは芝居だ。本当に戦っているわけではない」


 琢海は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。いきなり公式設定全否定である。


「ゲームを初めてする時は最初にランダムで決められた機体が人間に操られて行動する。無論相手を完全に破壊しないように加減や注意をしながらな。あっ、給料も貰えるぞ」


 琢海はただ口を開けて呆然としている。


「これが意外と楽しい。特に操作の上手い奴や行動・考えが面白い奴に当たるとな。逆に下手糞な奴だとさっさと辞めてくれと思うがな」


 グローリーは豪快に笑いながら話を続ける。要約すると、彼等はこの『エリシング・ウォー』の世界で暮らしている。そして見返りや理由はよく分からないが、人間の娯楽のために機体を操作され行動する。人間たちは未開の地へ行ったり、戦ったり、通商してこのゲームを楽しむが、ロボットたちからすれば至極当然のことであり、遊びのようなものであるらしい。つまり人間に操作されるという遊びをロボットたちは楽しんでいるらしい。


「……つまり、君たちにとっては戦闘は遊び、冒険は散歩、通商は何時ものことだっての? ミサイルやレーザーを食らってもかすり傷程度だっての?」


「俺たちがミサイルやレーザー如きで死ぬと思っているのか? お笑いだな。そんなやわな体はしていない」


 目の前で腹を抱えて笑っているグローリーを前に、琢海は開いた口が塞がらなかった。公式設定では二つの大国に分かれたロボットたちが日夜壮烈な戦闘を繰り広げており、自分はそんな戦場にいる臨場感と緊張感を味わいながら日々プレイしているというのに、当のロボットたちは戦争ごっこ程度の感覚で遊んでいるというのだ。その証拠にグローリーの遥か後ろでは、共和国の輸送ロボットと連邦の要塞列車が談笑しながら仲良く併走しているし、空では両国の最新機がアクロバット飛行に興じている。


「ついてきな。面白いものを見せてやろう」


 そういうとグローリーは琢海を背負って飛び立った。


「いったい何処へ行くんだい?」


「侵入禁止エリアさ」


 侵入禁止エリアはプレイヤーが入れないエリアである。そこは将来のアップデートで新エリアとなったりする場所で、このゲームだと全体の3分の2のエリアはこの状態である。

 ふと気付くと、既に先程の空間から飛び出して、見たことも無い光景が広がっていた。そこにはゲームの謳い文句のような機械都市、摩天楼があった。まさしく機械が踊り、工場が歌う世界。鋼鉄と機械が支配する近未来。


「お前らがプレイしてるのはこの世界のほんの一部だ。そこだけは本物の戦場らしく残骸などを置いている」


「でも開発が進めば何れ残りのエリアも……」


「同タイプのオンラインゲーム『遥か遠き大陸』はサービス開始7年目だが、2800エリア中プレイ場として使用しているのは1200エリア。『メルヘン王国大冒険』は4年目で2100エリア中700エリア。15年間の長きに渡り運用された『幻の大陸』は4700エリア中、終了時点で2500エリア。……結論を言えば、エリア数の多いものに限定するとどれだけヒットしようがプレイエリアを広げようとしようが、人員や時間の関係上上手くはいかない。特にこの会社ならなおさらだろう」


 ゲームの裏側を垣間見た琢海はすっかり気分を落としていた。


「何だか映画世界の裏側を垣間見た気分……夢も希望も無いな」


「その映画もゲームも、そんな裏側でお前らを喜ばせ、夢を持たせ、希望を作ってるがな」


 そう言うとグローリーはニッと笑った。


「……それはそうと、最初に言ってた排除する敵ってのは?」


「ああ、それはな……」


 排除すべき敵を聞いた琢海は目が点になった

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