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エレクトロニック・シンドローム  作者: 東四郎
第1章 そこはゲーム世界
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第1話 その男女、お急ぎにつき

 某高校の一学生、鈴岡琢海はこの『エリシング・ウォー』に魅せられた一人であった。元々オンラインゲーム好きな彼はファンタジーからシュミレーションまで幅広い作品を嗜んできたが、今はこの作品にどっぷり浸かっている。何せ学校では授業以外はゲームの研究や世界観についての考察と友人たちと交わし、家に帰れば宿題と復習、食事諸々を除けばは全てこれに費やしている。今日も今日とて特急下校しようと、いそいそと準備をしていた。


「よっ、タック」


 琢海のそばに颯爽と現れた女性は軽やかにタップを踏みながら彼の周りをぐるぐると回っていた。彼女は芝ミキ。琢海の同級生で無類のロボット好きである。ロボットの出る作品を見ると、ストーリーそっちのけでロボットそのものを堪能する。更にはスローモーションと編集を駆使して余計な人間や背景を消し去り、ゆっくりとしたロボットの動きをカルピス片手に鑑賞しながらウットリするのである。

 黒髪の長髪で眼鏡をかけたボーイッシュな彼女は男子学生諸君からの人気も高いが当の彼女は人間など興味もないらしく、デートの誘いも恋文も、甘い文句さえも全てその場で蹴っていた。そんな彼女も『エリシング・ウォー』の信奉者である。


「早く帰ろうよ」


「もちさ」


 昼休みにゲーム内でチームを組み、何処を攻めるかどういう作戦か綿密に打ち合わせを済ませていた2人は腹の音を聞きながら廊下を歩いていた。ちょうどもよおした琢海は化粧室へ行こうとするが、そわそわするミキが目に入った。


「先に帰るのかい?」


「ええ、キッドが待ってるから」


 キッドというのは彼女がゲームで使っている愛機である。今夢中な恋人らしくクラス中に触れ回っており、周囲から外人の恋人がいるらしいと噂されていた。真実を知るのは2人だけである。


「素敵な外人さんだよね。体は頑強だし力もある。背も高いし頭もいい」


「……はぁ。早く会いたい」


 そんなことを言いながら彼女は先に帰っていった。琢海は嫌味や皮肉に対して怒ることも返すこともしない彼女がちょっと苦手だ。

 とりあえず用を済ませた琢海はすぐ帰宅しようと上履きを下駄箱に放り投げ、外靴を履いて走り出した。


「よお鈴岡。あの話、どうなんだよ?」


 急ぐ琢海の足を止めさせたのは長身な小麦肌のスポーツマンであった。琢海はまたかと露骨な呆れ顔を見せた。


「ラーメンは醤油に限るね」


「馬鹿。その話じゃねぇよ。バスケ部のことだよバスケ部の」


「またその話か……」


 琢海は後ろで縛った髪を弄りながら苦笑した。このスポーツマン、大和野健一はことあるごとに彼にバスケットボールを勧めている。身長も高く、鍛えさえすればよいと考えているらしく、幾ら断っても四六時中時間があれば同じことを聞いてくる。琢海が幾ら皮肉や嫌味を言っても、気にしないのか馬鹿なのか意に介さず根気よく説得を続けるのであった。やはり彼も琢海が苦手とする相手であった。


「この腕じゃボールを持っただけで折れちゃうよ。僕はコントローラーより重いものは持ったことがないんだ」


「鍛えりゃ大丈夫だっての」


「鍛え上げる前に棺桶に入っちゃうよ」


「じゃあ棺桶にバーベル入れといてやるよ。あの世でも筋トレ出来るようにな」


 健一は嫌味のない笑みを浮かべた。


「君の方こそ僕が進めたゲームはやってるのかい?」


 琢海の方も健一に負けず劣らずオンラインゲームを勧めたりしていた。健一はスポーツというゲーム全般は好きだが、電子ゲームはこの限りではない。曰く思った通りの操作が出来ず、ストレスが溜まるのだという。要は下手糞なのである。そんな彼に対して琢海は同じように懇々とゲームのよさや操作のコツなど教え、そちらの世界へ引き込もうと画策していた。


「部活忙しいからな。徹夜まで加わっちゃ死んじまうよ」


「じゃあ君の棺にゲームセット一式入れてあげるよ。地獄でもゲームが出来るようにさ。代金は香典から引いとくよ」


 健一は怒りもせずに笑うばかりであった。


「『エリシング・ウォー』はどうなったのさ。あれだけ色々教えてあげたのに」


「あのポンコツは駄目だ。それより海賊だよ海賊! 『遥か遠き大陸』海賊か通商か、探検に漫遊! いざ夢とロマンが待ち受ける大海原へ!!」


 健一は珍しくスポーツ以外の話題を熱く、手を振り回しながら語っていたが、気付けば琢海は遥か遠くの方を必死に走っていた。


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