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婚活全敗の50歳窓際社員ですが、昔フラれた同級生と地下アイドルに通ってたら人生がちょっとだけマシになった件  作者: 雪だるま
第1章

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 春。


 少し暖かくなった夜。


 新宿ライブハウス街。


「うおおおおおおおお!!!!!!」


 ロブスターの亡霊ワンマンライブは、今日も地獄みたいな熱気だった。


『♡甲殻類パラダイス〜♡』


 爆音。


 レーザー。


 赤い照明。


 跳ねる観客。


 海老ジャンプ。


 そして。


「のだぁあああああ!!!!!!」


 伊藤レイ。


 完全覚醒。


 今日もロブスターTシャツ。


 今日もペンライト二刀流。


 今日も異様に元気。


「ぴぴるぅぅぅぅぅ!!!!!!」


 周囲の若いオタクたちが笑っている。


「古参ロブおじ今日もいるwww」


「甲殻類の王なのだぁ!!!!!!」


「何それwww」


 レイはもう完全にライブ名物だった。


 最初は浮いていた。


 五十歳。


 腹出てる。


 声デカい。


 でも。


 毎回来る。


 全力。


 コール完璧。


 マナーも妙に良い。


 さらに最近は。


 ライブ初心者を助けたり、塩飴を配ったりしている。


 結果。


 なぜか一部若手オタクに好かれていた。


「おっさん今日最前いけそう?」


「うむ!」


「腰大丈夫?」


「昨日ストレッチしたのだぁ!」


 妙に馴染んでいる。


 一方。


 少し後ろ。


 高橋美咲はその光景を見ながら苦笑していた。


「……」


 数ヶ月前。


 ロブスターの亡霊なんて意味不明だった。


 今もまあ意味不明である。


 でも。


 もう普通にライブへ来ている自分がいる。


 しかも。


 今日は自然に赤系の服を選んでしまった。


 完全に影響されている。


「のだぁあああ!!!!!!」


 レイが跳ぶ。


 周囲も跳ぶ。


 床が揺れる。


「ぴぴるぅぅぅぅ!!!!!!」


 美咲は少し笑った。


 本当に。


 レイはここだと幸せそうだった。


 会社で空回りしてる時とも。


 見栄を張ってる時とも違う。


 ただ好きなものに夢中な顔。


 高校時代。


 レイは“目立ちたい人”だった。


 今は。


 少し違う。


 “好きだから騒いでる”。


 その違いは大きかった。


『次の曲いくよぉぉぉ!!』


 歓声。


『♡ボイル!ボイル!恋心♡』


「うおおおおおお!!!!!!」


 会場爆発。


「のだぁあああああ!!!!!!」


 レイ、限界突破。


 ペンライト高速回転。


「甲殻類に栄光あれぇぇぇぇ!!!!!!」


 周囲爆笑。


 だが。


 美咲も少し笑いながら手拍子していた。


 数ヶ月前なら考えられない。


 人生、本当にわからない。


 ライブ終了後。


 夜風。


 熱気の残る会場前。


「はぁ……」


 レイは満足そうだった。


「今日のぴぴるちゃんは神を超えてたのだぁ……」


「毎回言ってない?」


「今日は特別なのだぁ!」


「はいはい」


 人波が駅へ流れていく。


 ライブ帰りのオタクたち。


 赤いペンライト。


 笑い声。


 春の夜。


「のだぁ〜♡」


 レイはまだ上機嫌だった。


「新曲のクラブミックス最高だったのだぁ!」


「甲殻類でクラブミックスって何」


「深海EDMなのだぁ!」


「余計わからない」


 歩きながら。


 ふと。


 レイが少し速度を落とした。


「……のだ」


「ん?」


「足大丈夫なのだぁ?」


「大丈夫よ」


「押されてたのだぁ」


「慣れてきたから平気」


「うむ!」


 レイは安心したように頷いた。


 そして。


 次の瞬間。


 妙に自然に。


 手を差し出した。


「……」


「……のだぁ?」


 昔のレイなら。


 もっと変に格好つけただろう。


 妙に下心全開だっただろう。


 でも今は。


 本当に自然だった。


「迷子防止なのだぁ」


「もう迷子にならないでしょ」


「吾輩がなるのだぁ」


「そうだった」


 美咲は笑った。


 そして。


 そのまま手を繋いだ。


「のだっ♡」


 レイがちょっと嬉しそうになる。


 でも。


 昔みたいに騒がなかった。


 ただ。


 少し照れていた。


 駅までの道。


 二人で歩く。


 周囲には若いカップルもいる。


 大学生くらいの恋人たち。


 肩を寄せ合って笑っている。


 昔なら。


 レイはそういう連中に妙な対抗心を燃やしていただろう。


 だが今日は違った。


「……のだぁ」


 手の温かさ。


 夜風。


 ライブ帰りの疲労感。


 全部が妙に心地いい。


「疲れたのだぁ?」


「ちょっと」


「吾輩もなのだぁ」


「さっきまで暴れてたじゃない」


「全力甲殻類した代償なのだぁ」


「何それ」


 美咲は笑う。


 レイも笑う。


 派手じゃない。


 若い頃みたいな激しさもない。


 でも。


 変に安心する時間だった。


「……のだ」


「ん?」


「高校の時ぃ」


「うん」


「吾輩、美咲にめちゃくちゃ嫌われてたのだぁ?」


「かなり」


「のだぁ!」


 レイはショックを受けた。


「怖かったのよ」


「吾輩、純情少年だったのだぁ!」


「急に机の上立って変なギャグやる人は怖いの」


「若気の至りなのだぁ……」


「あと距離感おかしかった」


「のだぁ……」


 レイはしょんぼりした。


 しかし。


 美咲は少しだけ目を細める。


「でも」


「のだ?」


「今はそこまで嫌いじゃないわよ」


「……」


「……」


「のだぁ?」


 レイが止まった。


「……今なんて?」


「聞こえてるでしょ」


「のだぁぁぁぁ……」


 レイは急に顔を覆った。


「吾輩ぁ……今日死ぬのだぁ……?」


「大げさ」


「ロブスターの亡霊ライブ後にこんなイベントあるのだぁ……?」


「知らないわよ」


 レイは照れまくっていた。


 五十歳なのに。


 本当に。


 五十歳とは思えないくらいわかりやすい。


 美咲はそんなレイを見て少し笑う。


 そして。


 繋いだ手を、少しだけ握り直した。


「のだっ」


 レイがまた固まる。


 夜の新宿。


 ネオン。


 人混み。


 ライブ帰りのざわめき。


 その中を。


 二人はゆっくり歩いていく。


 昔思い描いていた人生とは、たぶん全然違う。


 キラキラした成功でもない。


 完璧な恋愛でもない。


 ロブスターの亡霊だし。


 甲殻類だし。


 意味はよくわからない。


 でも。


 まあ。


 これはこれで。


 悪くないのかもしれなかった。


 遠くで。


 誰かのスマホから聞き慣れた曲が流れてくる。


『♡ボイル!ボイル!恋心〜♡』


 レイは鼻歌交じりに歩く。


「のだだだ〜ん♪」


 美咲は呆れながら笑った。


 そのまま。


 二人の手は、駅までずっと離れなかった。

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