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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
聖法国ヴァルドリア編

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第6話 城塞都市の検問と、ヘドロ塗れの掃除屋さん

「……首が痛いわ」


「口が開いてるぞミオ。顎が外れる」


「だって見てよこれ! 壁っていうより、もう崖じゃない! 頂上が霞んで見えないわよ!」


「目測50メートルってところか。さすがは聖法国が誇る絶対防衛線、城塞都市イージスだな。石積みの精度も聖都の比じゃない。隙間にナイフ一本通らないぞ」


「へえ、詳しいのね。……って、うわっ! なにあれ! 上の方でバチバチいってるわよ!」


「指を差すな。あれは対空迎撃用の自動魔法陣だ。空を飛ぶものがあれば、ワイバーンだろうがグリフォンだろうが、あの雷撃で黒焦げの焼き鳥にされる」


「ひえぇ……。触らなくてよかったわ。セキュリティ厳しすぎでしょ」


「北の国境最前線だからな。ほら、前が空いたぞ。進め」


「はーい。……ねえ、なんかここの衛兵さんたち、みんな顔怖くない? すっごいこっち睨んでるんだけど」


「鏡を見てみろ。髪はボサボサ、服は煤まみれ、俺に至っては木の棒を持った浮浪者同然だ。睨まれない方がおかしい」


「うぐっ……。だ、だって! 屋敷が燃えたり、野宿したりで忙しかったんだから! 早くお風呂入りたいわよ!」


「静かにしろ。目が合った。来るぞ」


「次! そこの薄汚い二人組! 前に出ろ!」


「ほら言わんこっちゃない。愛想笑いで乗り切るぞ」


「りょ、了解!」


「身分証を出せ」


「はい、こちらです。冒険者ギルドの登録証です。お勤めご苦労様です、隊長さん」


「……Fランク? 一番下っ端か。して、入国の目的は?」


「観光と、あと仕事探しです。聖都の方から来まして」


「聖都から? その格好でか?」


「ええ、まあ。道中で野盗に襲われましてね。命からがら逃げてきたんですよ。怖い怖い」


「嘘をつくな。ゴブリン程度に襲われて生き延びたにしては、血の匂いがしないな。本当は密入国者か、あるいは指名手配犯じゃないのか?」


「失礼ね! 善良な市民よ! 私たちがすっごく逃げ足が速いだけよ!」


「怪しい奴には通行税として金貨2枚を払ってもらう。身元引受人がいないなら、それがルールだ」


「き、金貨2枚ぃ!? ぼったくりでしょ! 相場は銀貨5枚じゃない!」


「払えないなら帰れ。ここは遊び場じゃない」


「……ねえナオト。どうするの? 金貨2枚なんて持ってないわよ。強行突破?」


「馬鹿言え。対空迎撃魔法の餌食になりたいか? ……仕方ない、プランCだ。合わせろよ」


「……了解。女優モード、起動」


「……隊長殿。あまり公にはしたくなかったのですが。ご覧ください、この教会の印章を」


「あ? なんだその紙切れは」


「声が大きいですよ。……我々は聖都の大聖堂より、極秘の任務を帯びてこの地へ派遣された特務調査員なのです」


「はぁ? 特務……なんだって?」


「この街の地下水路に、未知の病原菌を撒き散らす変異種が発生したとの予言がありましてね。我々はその調査のために、あえて身分を隠し、このような薄汚い格好で潜入しようとしていたのです」


「な……予言だと? 聞いていないぞそんな話は」


「だから極秘なのです。騒ぎになれば市民がパニックになりますからね。もしここで我々を足止めし、その間に市内で疫病が蔓延したら……隊長殿、責任取れますか?」


「そ、それは……」


「ああ、ナオト上級調査員! 大変よ! 手元の魔力探知が反応してるわ! もう街の地下で邪悪な気配がビンビンよ!」


「何だとミオ調査員! 急がねば手遅れになるかもしれん!」


「聞いたでしょう、隊長殿。通行税のやり取りで時間を浪費している場合ではないのです。……通していただけますね?」


「ぐぬぬ……。し、しかし……ええい、行け! ただし、妙な真似をしたら即刻牢屋行きだぞ!」


「感謝します。神の御加護があらんことを」


 ◇ ◇ ◇


「……ふぅ。心臓止まるかと思ったわ」


「説得のダイス判定、ギリギリだったな。だが、これで中に入れた」


「入れたのはいいけど……見ろよこの街並み。灰色一色で、みんな腰にナイフ差してるじゃない」


「軍事拠点だからな。治安がいいんだか悪いんだか。……あ、お腹すいた」


「奇遇だな。俺もだ」


「ねえ、あの屋台の串焼き……すっごいいい匂いがするわ」


「見るな。今の所持金は銀貨数枚だ。串焼きを2本買ったら、今夜の宿代が消える」


「うぐぅ……。じゃあどうすんの? また野宿なの?」


「この街で野宿は浮浪罪で即牢屋だ。まずは金だ。ギルドへ行くぞ」


 ◇ ◇ ◇


「うわぁ……。ギルドっていうより作戦会議室みたいね、ここ」


「掲示板も殺伐としてるな。『オーク討伐隊』『城壁修復』『矢尻生産』……ガテン系ばっかりだ」


「うわ、どれもハードそう……。もっと楽なのないの? 『迷子の猫探し』とかさぁ」


「この要塞都市で猫が迷子になったら3分後には何かの胃袋の中だ。……お、これならどうだ。『求む:外堀のヘドロ除去』」


「……えっ、ドブさらい?」


「臭いから誰もやりたがらないんだ。だから単価が高い。スライム1体で銀貨5枚だぞ? 10体倒せば金貨5枚だ」


「……10体で金貨5枚? 意外と美味しいかも?」


「だろ? それにスライムなら、お前の魔法で焼くなり、俺が塩漬けにするなり、やりようはいくらでもある」


「うーん……。背に腹は代えられないかぁ。よし、やるわよ! 稼いで美味しいご飯食べるんだから!」


 ◇ ◇ ◇


「……くっさ!!」


「大声出すな。口の中に臭いが入ってくる」


「だって、これ想像以上よ!? 鼻が曲がるってレベルじゃないわ! 目が痛いんだもの!」


「鼻栓しろ。あと、足元に気をつけろよ。沼みたいになってるからな」


「うぇぇ……。私のブーツがぁ……。まだ買って一ヶ月なのにぃ……。で、スライムどこ?」


「そこだ」


「えっ? ただの水たまりじゃない?」


「ほらよ」


「あ、石投げた……って、うわわっ! 水が盛り上がった!」


「緑色の『アシッド・スライム』だな。酸を飛ばしてくるタイプだ。装備を溶かされたくなかったら、接近戦は避けて魔法でやれ」


「了解! 汚いのは消毒よー! ファイア・ボール!」


「よし、直撃。水分が蒸発して消し炭になったな」


「一丁上がり! 楽勝じゃない!」


「よし、その調子だ。俺は回収係をやる。お前はどんどん焼け」


「任せて! お小遣いが湧いてくるわ! えいっ! やあっ!」


「……順調だな。もう20体目だ。これなら今夜は宿屋のベッドで寝られるぞ」


「ステーキも追加してよね! ワインもボトルで!」


「ああ、いいぞ。今日くらいは――」


「……ん? ねえナオト。なんか水位下がってない?」


「水が引いてる? ……いや、違う! 水そのものが集まってるんだ!」


「えっ? どういうこと?」


「下だ! 足元から来るぞ! 跳べ!」


「ひゃあっ!?」


「うおっ! 危ねえ! 地面ごと盛り上がりやがった!」


「な、なにあれぇぇぇ!? スライム!? あんな大きいの聞いてないってば! 見上げて首が痛いわよ!」


「高さ10メートル……。キング・ヘドロ・スライムか! 長年放置された汚れが集合体になりやがったんだ!」


「ブモオオオオオオオ……ッ!!」


「うわ、鳴いた! なんか飛んできたわよ!」


「避けろッ! 酸の塊だ!」


「キャー! 草が溶けた! 地面がシュワシュワ言ってる!」


「あんなの食らったら骨まで溶けるぞ! ミオ! 最大火力で焼き尽くせ! 核ごと蒸発させるんだ!」


「無理無理! あんなにデカいと、表面を焦がすだけで中まで熱が通らないわよ! 水分多すぎだもの!」


「チッ、相性が悪いか……! どうする? 逃げるか?」


「逃げたら依頼失敗になっちゃうでしょ!? 違約金取られるわよ!」


「金か命か、選べ!」


「どっちも欲しいわ!」


「強欲な奴め……! よし、なら化学の実験だ! ミオ、あいつを岸まで引きつけろ! 俺が準備するまで30秒稼げ!」


「30秒!? 死んじゃうわよ!?」


「死ぬ気で避けろ!」


「鬼ぃぃぃ! ……へーい! こっちよゴミお化け! お風呂入ってないでしょ臭いんですけどー!」


「よし、いいぞミオ! もっと挑発しろ! こっちで袋の準備をする!」


「ちょっとナオト! その白い粉が入った袋なに!? 小麦粉ぉ!?」


「生石灰だ! 聖都を出る時に商人のオッサンから安く買い叩いたやつだ!」


「石灰って……グラウンドに線を引くやつ?」


「そうだ! こいつは水と反応するとどうなるか、理科の授業で習ったろ!」


「えっと……発熱!?」


「その通り! こいつを奴の体内にブチ込んで、内側から沸騰させてやる!」


「うわ、エグい攻撃! でもそれしかないかぁ!」


「ミオ、伏せろ! 投げるぞ!」


「りょうかーい!」


「食らえッ! 特大入浴剤だ!!」


「入った! 飲み込んだわよ!」


「……反応開始だ。離れろ、爆発するぞ!」


「ブ、ブモオオオオオッ!?」


「うわわっ、なんかボコボコいってる! スライムの中から湯気が!」


「化学反応熱だ! 体内の水分が一気に100度を超えたんだよ!」


「スライム鍋だ! すっごい音! あ、崩れてきた!」


「今だミオ! 核が露出したぞ! あの胸のあたりの黒い塊だ!」


「見えた! 今度こそトドメ! フレイム・ランス!!」


「よし、貫通! クリティカルヒットだ!」


「やったぁぁぁ! 見たぁ!? 私のマイホーム資金の邪魔をするからよー!」


 ◇ ◇ ◇


「……ぜぇ、ぜぇ。疲れたぁ……」


「大金星だな。こいつの核だけで、金貨10枚の価値はあるぞ。臨時ボーナスだ」


「やったね! 今夜は宴会だわ! 最高級の宿に泊まって、お風呂入って……」


「……あ」


「ん? どうしたミオ」


「……ナオト。自分の服、見た?」


「服? ……うわ、なんだこの緑のシミ」


「ヘドロよ。戦闘の余波で、全身べっとりじゃない」


「……うっ。今気づいた。すげえ臭い」


「……私もよ。鼻が麻痺して気づかなかったけど、これ、歩く生ゴミになっちゃった……」


「……これじゃ、宿屋に入れてもらえないな」


「だよねぇ……。門前払いよねぇ……」


「……銭湯、行こうか」


「うん……。一番高い、薬草風呂のあるとこ行きましょ……」


「あと、服も新調しないとな。この臭い、洗濯しても落ちないぞ」


「私の限定ローブ……高かったのにぃ……」


「……ねえナオト。銭湯代と、服代と、あと石灰代。全部合わせるといくら?」


「……計算したくないが、報酬の8割は飛ぶな」


「…………」


「…………」


「……ま、野宿よりはマシか」


「前向きで助かるよ。行こうぜ、異臭騒ぎで通報される前に」

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