第5話 ビビリな行商人と、爆竹のハッタリ
「あー……。ねえ、本当に大丈夫かね? 君たち」
「何がだ?」
「何がって、装備だよ装備! 聖都からイージスまでの護衛だから雇ったのに、君、木の棒しか持ってないじゃないか! お嬢ちゃんに至っては焦げた服を着てるし!」
「失礼なおじさんだねぇ。これは歴戦の証だよ。つい先日、聖都の幽霊屋敷を単騎で鎮圧した時の名誉あるスス汚れだっての」
「それを世間ではボヤ騒ぎと言うんだよ、ミオ。……御者のおっさん、安心しろ。安いのには訳がある。俺たちはエコノミーコースだ」
「エコノミーだか何だか知らんが、私の荷物は高級な絹織物なんだぞ! この街道は最近、ゴブリンの群れが出ると噂なんだ!」
「出たら考える」
「出る前に考えろ! ああもう、ケチらずに正規の騎士団を雇えばよかった……。おい、そこの茂み! 何か動かなかったか!?」
「風だ」
「いや、今キラッと光ったぞ! 刃物じゃないか!?」
「朝露だ。ビビりすぎだろ」
「商売人は慎重なくらいが丁度いいんだよ! ……ヒィッ!? 今度は音が!」
「今度こそ出たな」
「えっ」
「ミオ、右前方。距離20メートル」
「りょーかい。……うわ、出た。小汚いのがいっぱい」
「ヒィィィッ! ゴ、ゴブリン!? しかも群れじゃないか! 終わった、私の絹が! 私の命が!」
「うるさいなオッサン。舌噛むよ」
『ギャギャッ! 人間、荷物、ヨコセ!』
「ひぃぃ! 喋った! 武器を捨てろと言ってるぞ! お、おい君たち、早く戦ってくれ! 魔法とかドカンと!」
「無茶言うな。今の俺たちの所持金じゃ、派手な魔法は撃てない」
「はぁ!? 金がないと魔法が使えないのか!?」
「触媒が高いんだよ。……ミオ、今回はプランBだ」
「えー、あれやるの? 地味じゃない?」
「経費削減だ。ほら、準備」
「はーい。……もしもーし、そこのゴブリンさんたちー!」
『ア?』
「ここを通るなら、通行料をいただきまーす! 命が惜しかったら道を開けなー!」
「なっ!? 馬鹿なことを言うな! 逆なでしてどうする!」
『ギャハハ! 女、バカ! 死ネ!』
「あーあ、交渉決裂。……ナオト、合図して」
「よし。……耳塞いどけよ、オッサン」
「へ?」
「3、2、1……今だ」
パンッ! パパパンッ! バリバリバリバリッ!!
『ギャアアアアッ!?』
「うわああああっ!? なんだ!? 爆発!?」
モクモクと立ち込める白煙と、鼻をつく火薬の匂い。
『ナ、ナンダ!? 雷魔法カ!?』
『見エネエ! 耳ガ痛ェ!』
「うわあ! すごい音! ナオト、何個投げたの!?」
「10連爆竹を3セットだ。安上がりで助かる」
「ば、爆竹ぅ!? 祭りの道具じゃないか!」
「ゴブリンは聴覚がいい。不意打ちの大音量には弱いんだよ。……ミオ、追撃 (ハッタリ)だ」
「オッケー! ……コホン。我が名は爆裂の覇者! 次の一撃で森ごと消し飛ばしてあげるから覚悟しなさい!」
『ヒィッ!? コイツラ、ヤベエ!』
『逃ゲロ! 黒焦ゲニサレルゾ!』
ガサガサガサッ……。
「……行ったか」
「ふー、喉痛い。どう? 私の演技力」
「威圧の判定成功ってとこだな。悪くない」
「…………」
「どうしたオッサン。口開けっ放しにして」
「……き、君たちは、一体何なんだ? 今の轟音、ただの火薬にしては音が大きすぎなかったか?」
「火薬の調合比率をちょっとイジっただけだ。企業秘密な」
「そ、そうか……。いや、助かったよ。疑ってすまなかった」
「分かればいいさ。で、追加報酬は?」
「えっ」
「今の戦闘で、貴重な特製爆裂魔石 (ただの爆竹)を3つも消費したんだ。請求書回していいよな?」
「そ、そういう契約だったかね……?」
「命と絹織物、どっちが大事だ?」
「……うぐっ。わ、分かったよ! 昼飯くらいは奢らせてもらうよ!」
「よし交渉成立! 聞いたかミオ、昼飯ゲットだ」
「やったー! オッサン太っ腹! 大好き!」
「調子のいい娘だなぁ……。まあいい、さっさと宿場町まで行こう。この辺りはオーガが出るなんて噂もある」
「オーガ?」
「ああ。人食いの大鬼だ。さすがに爆竹じゃ逃げないぞ」
「……ねえナオト。今の聞いた?」
「聞いた」
「オーガの角って、聖法国の市場でいくらだっけ?」
「状態にもよるが、金貨50枚は下らないな」
「…………」
「…………」
「お、おい? なんで君たち急に目を輝かせてるんだ?」
「オッサン、ちょっとスピード落とそうか」
「は?」
「もっとゆっくり、こう、獲物を見つけやすく……いや、安全運転でいこう」
「ひぃぃっ! 君たちの目が怖いよ! 御者くん、飛ばせ! 全力で宿場町へ逃げ込むんだ!」
「あっ、ずるい! 逃げるな獲物ー!」
「おい待てオッサン! 金貨50枚から逃げる奴があるか!」




