第4話 格安物件の幽霊と、除霊の追加料金
「――高い」
「お客様、これでも破格のお値段なんですよ? 聖都の相場をご存じで?」
「相場は知らないけど、私たちの財布事情は知ってるでしょ。金貨1枚なんて逆立ちしたって出てこないよ。ねえナオト」
「ああ。今の俺たちの全財産は金貨1枚と銀貨が少々。初期費用でそれが消えたら、明日から何を食べて生きればいい?」
「霞でも食ってろと?」
「そこまでは申しておりませんが……。しかし、ご予算が銀貨10枚となると、紹介できるのは馬小屋か、あるいは……」
「あるいは?」
「……いえ、やめておきましょう。あれは人が住む場所ではありません」
「もったいぶらないでよ店主さん! 屋根と壁があれば何でもいいの! どんな物件?」
「ええっと、部屋数は10、広大な庭付き。元貴族の別邸ですが……家賃は銀貨10枚です」
「安っ!? 桁間違ってない!?」
「その代わり、先客がいらっしゃいます」
「先客? シェアハウスってこと?」
「いえ、実体がないタイプの先客が」
「……幽霊物件か」
「退治すれば住み放題だそうです。いかがします?」
「やります! 即決! 行こうナオト、私たちの愛の巣へ!」
「語弊がある言い方をするな。……まあ、下見だけな。危険そうなら即撤退だぞ」
◇ ◇ ◇
「……うわぁ、ボロッボロ」
「築50年ってところか。蔦が絡まって外壁が見えん」
「なんか臭くない? カビと、あと何かが腐ったような……」
「換気がされてないからな。お邪魔します、っと」
ギギィ……。
「うわ、ドアの音だけでホラー映画撮れそう。……ねえ、本当にここ住むの?」
「掃除すればマシになるだろ。構造自体はしっかりしてる」
「そうかなあ。なんか視線を感じる気が……」
『デテ……イケェ……』
「ひゃあっ!? なんか聞こえた! 今、耳元で『出て行け』って!」
「気のせいだ。風の音だろ」
「風はあんな怨念籠もった声出さないよ! 絶対いるって!」
ガタガタガタッ!!
「うわあ! 食器棚が揺れてる! あ、皿が飛んできた!」
「伏せろミオ!」
パリンッ! ガシャーン!
「危なっ!? 高そうな皿が粉々に!」
「物理干渉型のポルターガイストか。姿が見えない分、厄介だな」
「どうすんの!? 斬りようがないよ!」
「よく見ろ。皿が飛んでくる軌道、全部『あそこ』を守るように動いてる」
「あそこ? 暖炉?」
「その上だ。あの趣味の悪い老婆の肖像画、あれが怪しい」
「なるほど! あいつが本体か! ……って、うわわ! 今度はナイフ飛んできた!」
「ちっ、数が多いな! ミオ、俺がナイフを叩き落とす。その隙にあの絵を燃やせ!」
「燃やすの!? ここ木造だよ!?」
「表面を焼くだけでいい! 霊的な繋がりを断て!」
「OK、微調整ね! 任せて! ……えいっ、着火!」
ボッ。
『ギャアアアアアッ!!』
「出た! お婆ちゃんの幽霊! 燃えてる燃えてる!」
「よし、霊核の破壊に成功したな。これで成仏するはず――」
「やったー! 完全勝利! ……あれ? ナオト、なんか火の勢いすごくない?」
「……おい」
「え?」
「なんで微調整って言ったのに、壁紙まで燃え広がってるんだ?」
「あ、あれぇ? おかしいな、最小出力だったはずなのに……乾燥しててよく燃えるねえ」
「感心してる場合か! 消せ! 井戸水だ!」
「あちちっ! 無理だよナオト、火回るの早い! これ全焼コースだって!」
「馬鹿野郎! 逃げるぞ!」
◇ ◇ ◇
「――で?」
「……はい」
「『幽霊は退治しました』じゃないんですよ。なんで屋敷まで退治しちゃってるんですか?」
「いやあ、あの、あまりに悪霊の力が強大でして……ねえ、ナオト?」
「……弁明の余地もございません」
「全焼ですよ、全焼。大家さんが泡吹いて倒れましたよ」
「そ、そこをなんとか……。私たちも命がけで除霊をしたわけで……」
「ええ、その報酬と、屋敷の弁償代を相殺させていただきます。……足りませんけどね」
「へ?」
「足りない分は、今回は目をつぶりましょう。その代わり、あなた方は要注意人物として登録しておきますから」
「そんなぁ……」
「ほら、さっさと出て行ってください! 二度とウチの敷居を跨がないで!」
バタンッ!
「……追い出されちゃった」
「塩まで撒かれたな」
「ひどいよ店主さん……。あ、お腹すいた」
「奇遇だな。俺もだ」
「ねえナオト。今日の寝床、どうする?」
「そうだな。さっきの屋敷、焼け跡なら暖かいかもしれないぞ」
「……笑えない冗談はやめて」
「じゃあ野宿だ。行くぞ、橋の下へ」
「うわあああん! マイホームが遠のいていくぅぅぅ!」




