表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
大陸東部・無法地帯編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

第30話 砂漠の蜃気楼と、精神汚染の幻覚

「……暑い」


「……奇遇だな。俺もだ」


「……ねえナオト。ここ、地獄? それとも私の日頃の行いが悪いから送られた刑務所?」


「いいや、地獄の方がまだエアコンが効いてるはずだ。ここは灼熱の砂海バーニング・オーシャン。気温50度、地表温度は目玉焼きが3秒で焦げるレベルだ」


「……水」


「……あと一口分だ。大事に飲めよ。蒸発しないように口の中で回してから飲み込め」


「……んぐ。……ぷはぁ。……ぬるい。お湯……いや、これ熱湯じゃない!?」


「贅沢言うな。煮沸消毒済みだと思えばありがたいだろ。腹を壊したら即死だぞ」


「死ぬぅ……。干からびるぅ……。ねえ、私の肌見て。カサカサよ。ドライフルーツみたいになってる」


「大丈夫だ、ミイラになっても蘇生魔法(リザレクション)で生き返らせてやる。包帯が似合うぞ」


「アンデッドとして蘇るのは御免よ! 美容液……ヒアルロン酸……コラーゲン……」


「うわ言が具体的すぎるぞ。……おい、しっかりしろ。SAN値 (正気度)チェック入ってるぞ」


「……あ! ナオト! 見て! あそこ!」


「なんだ、今度は。サソリか? それとも流砂か?」


「違う! コンビニ! セブンイレブンが見える! アイスコーヒーの旗がなびいてる!」


「……重症だな。あれはただの岩だ」


「違うもん! 店員さんが手を振ってるもん! ナナコカードでポイント貯めるんだもん!」


「おい、ミオ! 目を覚ませ! この世界に電子マネーは実装されてない!」


「うぅ……。なんでよぉ……。なんで私たちはこんな所を走ってるのよぉ……」


「ゼルトへ行く最短ルートだからだ。迂回してたら燃料が尽きる。……我慢しろ、あと半日の辛抱だ」


「半日!? 無理! 3分も持たない! ……あ、また何か見える」


「今度はなんだ。ファミマか?」


「ううん……お花畑」


「はいはい、幻覚乙」


「違うの! ホントに咲いてるの! 見て! 紫色の絨毯!」


「……あ?」


 キキィッ!


「痛っ! 急ブレーキ踏まないでよ!」


「……マジだ。おい、なんだあれ。こんな砂漠のど真ん中に群生地?」


「わぁ……綺麗……。紫色のサボテン? お花がいっぱい……」


「待てミオ、降りるな。色がヤバい。自然界の警告色(アラート・カラー)だぞ」


「いいじゃない……。ちょっと休憩しましょ……。日陰もあるし……」


「おい、聞け! マップ情報と照合する。……鑑定スキル。対象:紫色の花」


「クンクン……。ねえナオト、いい匂いがする」


「は? 匂い?」


「うん。甘い匂い……。バニラエッセンス? それとも……ホットケーキ?」


「バカ、吸い込むな! 未知の植物だぞ! 状態異常(デバフ)判定が入る!」


「だってぇ……お腹空いたんだもん……。あ、見て。花から粉が出てる。キラキラしてて……ティンカーベルの粉みたい……」


「粉塵!? 花粉か! ミオ、口を覆え! ガスマスク……クソッ、荷台の奥だ!」


「……ふわぁ……。気持ちいい……。ねえナオト、ここ天国?」


「天国なわけあるか! ここは致死率Sランクのデス・エリアだ! ……ッ!? うっ……」


「……ナオト?」


「……なんだ、このめまいは。視界にノイズ……。平衡感覚が……」


「……どうしたの? 顔色が悪いわよ?」


「……意識レベル低下。……これは、幻覚か……?」


「幻覚? 変なの。私は平気よ? ……あれ? ナオト?」


「……なんだ。俺はここだ」


「……嘘。ナオトじゃない」


「は? 何を言って……」


「その黒い翼……。頭に生えた角……。そして、溢れ出る禍々しいオーラ……」


「……はい?」


「間違いないわ。あんた……魔王ね?」


「……はぁ?」


「やっぱり! いつか正体を現すと思ってたわ! その低音ボイスで世界を呪う呪詛を吐いているでしょう! 残業とか納期とか仕様変更とか!」


「それは俺の口癖だが、呪詛じゃない! ただの社畜の怨嗟だ!」


「問答無用! 勇者ミオ、ここに推参! 魔王を倒して世界の平和と永久就職 (玉の輿)を手に入れるのよ!」


 ジャキィィン!!


「ちょ、待て! 抜くな! 本気か!? 目が座ってるぞ!」


「覚悟しなさい魔王! あんたの首は金貨100億枚の価値があるわ! それを元手にホストクラブに通い詰めるのよ!」


「欲望が具体的かつ俗物的すぎるだろ! ……クソッ、完全に混乱状態(コンフュージョン)だ! あの花粉か!」


「喰らえぇぇぇ! 聖なる剣 (ただの魔鉄剣)!」


「うわっ! 危ねぇ! 本気で首を狙ってきやがった!」


「逃げるな卑怯者! 正々堂々と私に殺されなさい!」


「理不尽な要求をするな! ……クソッ、視界が歪む……。俺の方もヤバい……。ん? なんだ?」


「……?」


「……ミオ? お前、どうしたんだその姿」


「は? 何よ。ビビった?」


「……美しい……」


「えっ?」


「その純白のドレス……。背中に生えた白鳥の翼……。そして頭上に輝く天使の輪……」


「……は?」


「間違いない。君は……女神様か?」


「……何言ってんのコイツ」


「おお、女神よ……。こんな汚れた大地に降り立つとは。俺を迎えに来てくれたのか……」


「気味悪いこと言ってんじゃないわよ! 死ねェェェッ! 魔王ォォッ!」


「なんて美しい歌声(シャウト)だ……。俺の魂を浄化してくれるというのか……」


「ウインド・スラッシュッ!!」


 ブンッ!!


「……ッ!? 痛っ!?」


「あれ? 避けた? さすが魔王、HPが高いわね! 物理耐性持ち?」


「……い、痛い! 頬が切れた! ……待て、これは幻覚だ! こいつは女神じゃない! バーサーカーだ!」


「ミオ、やめろ! 俺だ! お前の借金を肩代わりしてやったナオト様だぞ!」


「借金……? フフフ、魔王を倒せば借金なんてチャラよ! ドロップアイテムで豪遊するの! 焼肉食べ放題よ!」


「食い意地が張りすぎだろ! 完全に敵対的NPCの思考ルーチンになってやがる!」


「必殺・エクスプロージョン・スラッシュの準備動作に入るわ! 詠唱開始!」


「マズい! ここで撃たれたら俺もトライクも蒸発する! ネタじゃなくてガチの魔法だ!」


(……どうする!? 説得は不可能! 物理で止めるにはスペック差がありすぎる! 状態異常を解除するには……)


(……ショック療法だ! 強い刺激を与えて正気に戻すしかない!)


「ミオ! こっちを見ろ!」


「覚悟ォォォ! 闇に還れぇぇぇ!」


「食らえ! 目潰し(ブラインド)・改め・激辛覚醒剤ッ!」


 バッッッ!!


「ぶふっ!? ……んぐっ!? ……ぎゃあああああっ!!」


「よし、命中(ヒット)! カプサイシンと硫黄のダブルパンチだ!」


「痛い! 熱い! 目が! 鼻がぁぁぁ! 燃えるぅぅぅ! 顔面が火事ぃぃぃ!」


「すまんミオ! これも治療のためだ! 耐えてくれ!」


「誰よこれやったの! 魔王!? いや、この卑怯で陰湿でセコい手口は……」


「……おい。言い草が酷くないか」


「……うぅ……涙が止まらない……。鼻水も……」


「ほら、水だ。顔を洗え。貴重な飲み水だが特別だぞ」


「……ありがとう……。うぅ、沁みるぅ……。……って、あれ? ナオト?」


「よう。おはよう。いい天気だな。気温50度だけど」


「……あんた、私に何したの? 顔面をバーベキューにされた気分なんだけど」


「正気に戻したんだよ。お前、幻覚を見て俺を殺そうとしたんだぞ。魔王だとか言って」


「幻覚……?」


「周りを見てみろ。ここはミラージュ・カクタス (幻覚サボテン)の群生地だ。あの花粉を吸い込んだせいで、お互いにバッドステータスの混乱が付与されてたんだよ」


「……あ。思い出した。私、ナオトが……」


「魔王に見えたんだろ?」


「……ううん。すっごいイケメンの石油王に見えたの。結婚すれば一生働かなくていいって、アラブの宮殿が見えたの」


「……俺の命を金と天秤にかけたわけか。傷つくなぁ。しかも石油王って、欲望がダダ漏れだぞ」


「だってぇ……無職は嫌だもん……。楽して暮らしたいんだもん……」


「安心しろ、俺たちは今、無職じゃなくて自営業(フリーランス)だ。……俺の方も危なかった。お前が慈愛の女神に見えて、うっかり抱きつこうとしたところだった」


「は? 女神? 私が?」


「ああ。背中に翼が生えて、後光が差してた。……今思えば、あれは死神の鎌の輝きだったのかもしれんが」


「……ふふっ。ナオトったら、疲れてるのね。眼科行った方がいいんじゃない?」


「お互い様な。……さて、長居は無用だ。花粉を吸い続けたら、今度こそ殺し合いになる」


「早くここを出ましょう。もうお花畑なんて見たくない。吐き気がする」


「同感だ。次は岩と砂だけの殺風景な場所がいい。……乗れ」


 ドロロロロ……!


「……はぁ。酷い目に遭ったわ。ねえナオト」


「ん?」


「私が女神に見えたって話、詳しく聞かせてよ。どんな風に美しかった? 具体的に300字以内で」


「……言っとくがな、あれは脳が見せたバグだ。現実のお前は鼻水垂らして剣を振り回すバーサーカーだったぞ」


「うっさいわね! そこは『普段から可愛いけど、更に輝いて見えた』とか言うところでしょ! 気が利かないわね!」


「はいはい。……まあ、剣の腕だけは女神級だったよ。避けるのに必死で寿命が縮んだ。あんな鋭い踏み込み、シラフじゃできんぞ」


「ふふん。褒めても何も出ないわよ。……あ、でも」


「なんだ」


「ナオトも、ちょっとだけカッコよかったわよ。魔王バージョン」


「……そうかよ。角が生えてたんだろ?」


「ううん。なんかね、すごい頼りがいのある背中をしてた。俺についてこい的なオーラが出てたわ」


「……へぇ」


「……今のナオトみたいにね」


「……なんだと? エンジン音で聞こえん」


「なんでもないわよ! バーカ! ……もう寝る!」


「おい、寝るなよ。また変な夢見るぞ」


「見ないもん! 次は札束のプールで泳ぐ夢を見るの!」


「……やれやれ。行くか。魔王と女神の珍道中だ」


 ドロロロロ……。


 夕日が沈み、砂漠が赤から群青へと色を変えていく。

 二人の乗ったトライクは蜃気楼の向こうへと消えていった。

 その先には、地図から抹消された廃墟都市、灰色の王都の影が亡霊のように揺らめいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ