第23話 命がけの報酬回収と、爆炎の脱出劇
「死ねぇッ! ゴミ屑どもが! 私のキャリアに傷をつけるな!」
ズドォォォォン!!
制御室の床が爆ぜ、巨大な機動兵器アレスが着地する。
搭乗しているゾルダーク少佐の咆哮とともに、右腕のヒート・ホークが唸りを上げた。
「ミオ、前衛だ! ヘイト (敵対心)を稼げ!」
「了解! デカい図体で敏捷が低そうね! 翻弄してやるわ!」
ミオが瓦礫を蹴って跳躍し、アレスの死角へと回り込む。
「そこっ! 背中がガラ空きよ!」
ガギィン!
「硬っ!? なによこの装甲! 魔鉄の剣が弾かれた!?」
「ガハハハ! 無駄だ! アレスの装甲は多重積層複合装甲! 物理ダメージなど通らん!」
「物理無効持ち!? 聞いてないわよ!」
「ナオト! 魔法で援護して!」
「詠唱中だ、3秒稼げ! ……よし、ライトニング・ボルト!」
バチバチッ!
ナオトの放った電撃がアレスに直撃する。しかし、巨体は揺らぎもしない。
「無駄だと言っただろう! 対魔導コーティング済みだ! 貴様らの攻撃など蚊ほども効かん!」
「魔法抵抗も完備かよ! GMの調整ミスだろこのボス!」
「終わりだネズミ共! ミンチになれ!」
ブォンッ! ドガァッ!
「ぐっ!? ……っつぅ〜!」
ミオが盾にした剣ごと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ミオ! HPは!?」
「……平気、打撲だけ! 防具が仕事したわ! でも、ダメージ0じゃ勝てないわよ! どうすんの!」
『警告。動力炉、崩壊進行中。爆発まで、あと240秒』
(……くそっ、あと4分か。落ち着け。どんな無理ゲーのボスにも必ずギミックがあるはずだ)
ナオトは目を細め、暴れまわるアレスを凝視する。
スキル発動、観察眼。
(……動きは速いが、攻撃が大振りだ。……ん? 背中の排気口から異常な熱が出ている。さらに関節部から白い蒸気?)
「ナオト! 分析まだ!? 私、もうポーションが切れるんだけど!」
「……見えたぞ、攻略法!」
「ホント!? どこ!?」
「デバフを入れる! あいつ、冷却システムが追いついてない! 自分自身の熱でオーバーヒート寸前だ!」
「なるほど! 熱暴走状態ってわけね!」
「ミオ、あいつの足を止めろ! 3秒でいい!」
「3秒!? あの暴れ牛を!? ……分かった、やってやるわよ! タンク役の意地を見せてやる!」
ミオが再び突っ込む。今度は剣を構えず、挑発スキルを発動する構えだ。
「へーい! ポンコツロボ! こっちよ! スクラップにしてあげるから掛かってきなさい!」
「小賢しいハエがぁぁぁ! チョコマカと!」
「こっちだと言ってるでしょ! ……ほらっ! 物理的目潰し!」
ミオが床に落ちていた消火器を蹴り上げる。
斧の一撃がそれを粉砕し、白い粉煙がアレスの頭部を包み込んだ。
「ぬぉっ!? 視界が! メインカメラが!」
「今よナオト! 視界奪ったわ!」
「ナイス連携! ……喰らえ、強制冷却!」
ナオトが投げたのは、化学プラントからくすねていた工業用冷却剤 (液体窒素)のタンクだった。それがアレスの真っ赤に過熱した膝関節に直撃し、破裂する。
パリーンッ!! バキバキバキッ!!
「ぐあぁっ!? 足が! 膝が砕けた!?」
「熱衝撃による装甲破壊だ! メンテナンス不足だな少佐! 熱管理もできないハードウェアなんて欠陥品だ!」
「おのれぇぇぇ! 私の最高傑作があぁぁ!」
「ミオ、膝の装甲が剥がれた! 中の駆動系が丸見えだぞ! そこが唯一の弱点だ!」
「了解! そこに特大の一撃を叩き込んでやるわ! 魔力充填120%!」
ミオの剣が、ありったけの魔力を帯びてオレンジ色に輝く。
「や、やめろ! やめてくれぇぇぇ!」
「問答無用! これで終わりよ! 必殺・エクスプロージョン・スラッシュッ!!」
ズドンッ!! ドガァァァン!!
ミオの一撃が脆くなった関節を貫き、内部で炸裂した。
アレスの巨体がバランスを崩し、轟音と共に崩れ落ちる。
「ギャアアアアアッ!?」
ズシンッ!
「はぁ、はぁ……。やった? 倒した?」
「……メインシャフトが折れてる。再起不能だ。……チェックメイトだな」
『警告。爆発まで、あと120秒。総員、直ちに退避してください』
「ナオト! 勝ったわ! あと2分しかない! 逃げるわよ!」
「待て。まだ仕事が残ってる」
「えっ? トドメを刺すの?」
「違う。報酬の回収だ」
「はぁぁぁ!? ちょっと正気!? あと2分よ!? カップ麺すら作れない時間よ!?」
「2分あれば十分だ! あそこの奥、執務スペースに金庫があるのを確認済みだ! 俺たちは金貨30枚のために命を張ったんだぞ! タダ働きなんて死んでも御免だ!」
「この守銭奴! ……でも、その意地汚いところ、嫌いじゃないわ! 1分で開けて!」
「任せろ!」
ナオトは金庫の前に滑り込む。
カチャカチャ……。
(……メーカーはアイアン・ロック社。4桁のダイヤル式か。物理破壊は無理だな)」
「ナオト、早く! 天井が崩れてきてる!」
(……落ち着け。ゾルダークのようなNPCの思考ルーチンを読め。自己顕示欲と単純さの塊だ)
「ねえ、まだ!? あと90秒よ!」
(……自分の誕生日……違う。アレスの開発コード……違う。……くそっ、裏をかいてきたか?)
「ナオトォォォ! 瓦礫が降ってきてる! 私、ここで埋まるのは嫌よ!」
(……待てよ。あいつ、階級に執着してたな。さっきのパスワードは将軍 (GENERAL)だった。なら、こっちは……元帥 (MARSHAL)か?)
カチャリ。
「……開かない。チッ、英語のスペルじゃなくて数字か」
「あと60秒! もう置いていくわよ!」
(……数字。階級。……まさか、これか? 0001)
カチャリ。 ……ガチャッ!
「開いた!」
「うわ、パスワード単純すぎ! セキュリティ意識どうなってんの!」
「自分は組織のナンバーワンだっていう、肥大化した自尊心の表れだな! ……あったぞ! 金貨袋!」
「中身は!?」
「ジャラジャラ音がする! 間違いなく金貨だ! よし、ボーナス確定! 撤収だ!」
『警告。爆発まで、あと50秒』
「逃がさん……! 逃がさんぞ貴様らぁ……!」
「うわっ、生きてた! ゾンビかよ!」
「瓦礫の下から手が出てる……! ホラー映画のラストシーンね!」
「お疲れ様でした少佐! 地獄で始末書でも書いててください!」
「あばよ! 二度と会いたくない上司ナンバーワン!」
ダダダダダダッ!!
「出口はどっち!?」
「正面ゲートは遠すぎる! 地下の搬出路だ! あそこなら外に繋がってる!」
「地下!? 埋まらない!?」
「賭けるしかない! 走れ!」
ゴゴゴゴゴゴ……!!
「揺れが酷くなってきた! 立ってられない!」
『爆発まで、あと40秒』
「ここだ! 資材搬入口!」
「なによこれ、トロッコ? こんなので逃げるの!?」
「いや、走ってじゃ間に合わない! 足が必要だ! ……あれだ! 軍用蒸気トライク!」
「バイク!? 3輪車のデカいやつ!」
「鍵は!?」
「ついてない! 直結する! スキル機械修理……判定成功!」
キュルル……バチッ!
(……配線はこうで、魔導回路をバイパスして……繋がれッ!)
「ナオトォォォ! 早くぅぅぅ!」
「エンジン始動!」
ドロロロロロッ!!
「かかった! 乗れミオ! 後ろでしがみついてろ!」
「振り落とさないでよ! 私、ノーヘルなんだから! 事故ったら保険降りないわよ!」
「神様に祈っとけ! 行くぞッ!!」
キュルルルルッ!! ブォンッ!!
『爆発まで、あと20秒』
「速っ! これ何キロ出てんの!?」
「メーター読みで120キロ! 壁にぶつかったら即死だ!」
「ヒィィィッ! 安全運転してよぉ!」
「無理言うな! ……トンネルに入るぞ! 舌噛むなよ!」
ゴォォォォォォッ!!
『10……9……8……』
「ナオト、後ろ! バックミラー見て!」
「……ッ!? 火球が来てる! 爆風が追いついてきた!」
「呑まれる! 焼かれる! もっとスピード出して!」
「アクセルは床まで踏んでる! ……くそっ、これを使うしかないか!」
「なに!?」
「ニトロ噴射だ! 魔力タンクを暴走させて加速する!」
「そんな機能ついてんの!? 爆発しない!?」
「今、俺が即興で改造した! イチかバチかのダイスロールだ!」
ボシュゥゥゥッ!!
「うぎゃああああっ!? Gが! 首がもげるぅぅぅ!」
「しがみつけぇぇぇ! 出口だ! 光が見えた!」
『3……2……1……』
「道がない! 崖よ!」
「関係ないっ! 飛べぇぇぇぇッ!!」
ブワッ!!
カッッッ!!!!
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「キャァァァァァァっ!?」
背後の山が吹き飛ぶのと同時に、トライクは空へと躍り出た。
衝撃波が背中を押し、二人の体は雪原へと投げ出される。
ズザザザザザッ!! ドサッ! ゴロゴロゴロ……。
……。
…………。
「……ッ、……うぅ……」
「……あいたたた……。腰が……」
「……ミオ。生きてるか。HP残ってるか?」
「……あー……。なんとか。雪がクッションになったみたい。……残りHP1ってところね」
「……見てみろ」
「……うわぁ」
ゴオオオオオオ……。
「山が……消えてる。マップが書き換わったわね」
「派手にやったな。巨大なクレーターだ」
「最高のざまぁみろだわ。……で、肝心のドロップアイテムは?」
「……これか?」
ジャラッ。
「……無事?」
「ああ。俺の腹の下に入れて守った。金貨30枚。……確認済みだ」
「……ほんとに?」
「ほんとだ。これで、借金完済だ」
「やったぁぁぁ! 終わったぁぁぁ! 私たちの借金生活が終わったぁぁぁ!」
「おい、抱きつくな! 痛い! あばら骨が!」
「嬉しいんだもん! もう明日から、トイチの利子に怯えなくていいのね! 泥水をすすらなくていいのね!」
「ああ。やっとプラスマイナスゼロの生活に戻れる」
「……でもナオト。私たち、これで完全にお尋ね者よね?」
「間違いなくな。軍の秘密基地を一つ消し飛ばしたんだ。国家反逆罪、器物損壊、強盗、その他もろもろでA級戦犯だ。この国にはもういられない」
「次はどこへ行くの? まさかまた荒野?」
「東だ。このトライクも無事だし、一気に国境を越える。……目指すは魔法と学術の国、賢国ワイズダム」
「ワイズダム……。そこなら、美味しいご飯あるかな?」
「学食のカレーか、購買部のパンくらいはあるだろ」
「また微妙なラインね……。ま、いいわ! 借金がないなら何でも美味しいわよ! ステーキだって食べ放題よ!」
「そうだな。……行くぞ。次のシナリオが始まる前に、セーブポイント (安全地帯)まで移動だ」
「了解! さらばブラック国家ドルグ! 二度と来ないわ!」
ドロロロロロッ……!
二人は黒煙を上げるクレーターを背に、新たな冒険の地へと走り出した。




