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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
鉄戦国ドルグ編

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第21話 巨大要塞砲と、非人道的な燃料

「……寒い」


「寒い」


「……ねえナオト。ここ、冷蔵庫の中?」


「いや、冷凍庫だ。吐く息が凍って前が見えん」


 ガタン……キキーッ。


 ナオトとミオを乗せた軍用列車は金属が軋む音と共に停車した。

 窓の外には見渡す限りの雪原と、切り立った氷の断崖絶壁が広がっている。

 ここはドルグ帝国の最北端。国境地帯にある第零実験場だ。


「……到着したぞ。降りたまえ」


 向かいの席で優雅にコーヒーを飲んでいたゾルダーク少佐が立ち上がる。


「少佐、一つ質問いいですか」


「なんだね?」


「契約書には宿泊施設完備って書いてありましたが、まさかこの雪原で、かまくら作って寝ろとか言いませんよね?」


「安心したまえ。地下に広大な基地がある。暖房も効いているし、食事もレーションではないものを用意させてある」


「ならよし! 行くわよナオト! 早く暖房のそばに行きたい!」


 二人は寒さに震えながら、列車からホームへと降り立った。

 そして、そこで『それ』を目にした。


「……え?」


「……うわ。デカッ」


 二人の視線の先。巨大な格納庫の中に黒光りする鉄の塊が鎮座していた。

 それは列車だ。だが、ただの列車ではない。

 先頭車両から後方へ向かって、信じられないほど長い砲身が伸びている。


「全長80メートル。口径800ミリ。超弩級魔導列車砲。コードネームはニーズヘッグだ」


 少佐がまるで我が子を自慢するかのように両手を広げた。


「列車砲……! ナチスのグスタフかよ。実在したのかこんなバケモノが」


「グスタフ? なにそれ?」


「俺たちの世界に昔あった、史上最大の巨砲だ。……だが、こいつはサイズが違う。見てみろあの砲身、中に人間が入って整備できそうだぞ」


「うわぁ……。男の人って、なんでこういう『大きいことはいいことだ』的な発想になるのかしら。コンプレックスの裏返し?」


「ロマンと言え。……しかし少佐、これだけの巨砲、何を撃つ気です? 山でも消し飛ばすとか?」


「山ではない。……標的は、ここから50キロ先にある聖法国の首都、その大聖堂だ」


「「……は?」」


 二人は顔を見合わせた。

 聖法国の首都。大聖堂。つまり、ドルグへ来る前、ミオとナオトが滞在していた、あの美しい石造りの街だ。


「ちょ、ちょっと待ってください! 首都を狙うって……戦争ふっかける気ですか!?」


「戦争ではない。浄化だ。あの忌々しい宗教国家を一撃で焦土に変えれば、我々ドルグの覇権は揺るぎないものとなる」


「……」


(うわ、ガチのタカ派だ。思考回路が独裁者シミュレーションゲームのプレイヤーだ)


「(ナオト、これヤバいやつじゃない? 私たち、大量破壊兵器の片棒担ぐの?)」


「(シッ、静かに。今は話を合わせろ)」


 ナオトは務めて冷静な顔を作り、少佐に向き直った。


「……なるほど。壮大な計画ですね。ですが、技術的な疑問があります」


「ほう?」


「これだけの質量弾を50キロ先まで飛ばすエネルギーです。火薬じゃ無理だ。魔導兵器だとしても、通常の魔石エンジンじゃ出力が足りない。……一体、何を燃料にしているんです?」


 ナオトの問いに少佐はニヤリと口角を吊り上げた。


「鋭いな。よもや、エネルギー効率に目が行くとは」


「ええ。コストパフォーマンスは重要ですから」


「いいだろう。君たちはもうチームの一員だ。この兵器の心臓部、エンジルームへ案内しよう」


 ◇ ◇ ◇


 列車砲の内部は配管と計器がひしめく迷宮のようだった。

 通路を進むにつれて、鉄錆の匂いとは違う、どこか生臭いような、甘ったるいような異臭が漂ってくる。


「……なんか、変な匂いしない?」


「ああ。消毒液と……血の匂いか?」


「……到着だ。ここが動力炉だ」


 少佐が重厚な扉を開ける。その先には広大な空間が広がっていた。

 中央には巨大なタービンが回転し、紫色の魔力光を放っている。

 そして、そのタービンを取り囲むように無数のガラスのカプセルが並んでいた。


「……なに、あれ」


 ミオが息を呑む。

 カプセルの中は緑色の液体で満たされている。そして、その中には――。


「……人?」


「…………」


 人が入っていた。いや、正確には人だったもの、か。

 全身にチューブを繋がれ、痩せ細り、虚ろな目で液体の中に漂う人間たち。

 ある者は聖法国の騎士の鎧を身につけ、ある者はエルフのような長い耳を持ち、ある者は獣の特徴を持つ亜人だった。


「……これ、は……」


「聖法国の捕虜、および国境付近で捕獲した亜人たちだ」


 少佐は平然と言い放った。


「彼らは信仰心が強い。魔力保有量も高い。その生体エネルギーを強制的に抽出し、増幅して砲撃のエネルギーへと変換する。……素晴らしいリサイクルシステムだろう?」


「リサイクル……だと?」


「そうだ。敵国の兵士が我が国の勝利のために命を燃やして貢献するんだ。これほど美しい皮肉はない」


 カプセルの中の騎士が、ピクリと動いた気がした。

 その顔は苦悶に歪み、口から泡を吐き出している。

 チューブが脈動するたびに、彼らの体から紫色の光が吸い上げられ、タービンへと送られていく。


「……オエッ」


 ミオが口元を押さえ、その場に膝をついた。


「……ミオ!」


「……無理。これ、無理。気持ち悪い……」


「……少佐。これは燃料ですか?」


「そうだ。生体魔導炉(バイオ・リアクター)と呼んでいる。通常の魔石の100倍の出力が出る。使い捨てだが、材料はいくらでも補充が効くからな」


 ナオトは拳を握りしめた。爪が食い込むほど強く。

 現代日本で育った彼らにとって、これは許容範囲を遥かに超えていた。

 ブラック企業だの、借金だの、スライムに服を溶かされるだの、そんな笑い話レベルの不幸ではない。

 これは明確な悪だ。TRPGのアライメントで言えば、混沌・悪カオティック・イービルの所業だ。


「……素晴らしいシステムですね。合理的だ」


 ナオトは震える声を押さえ込み、無表情で言った。


「おや、理解してくれるか?」


「ええ。数字の上では完璧です。……それで、テストというのは?」


「明日、正午に行う。実際に一発撃つ。ターゲットは廃村だが、威力を見れば聖法国も震え上がるだろう」


「……楽しみですね」


「うむ。君たちには制御室の警備を頼むよ。……顔色が悪いな、お嬢さん。医務室で休むといい」


 少佐は上機嫌で背を向け、カプセルの列を眺めながら歩き去っていった。


 ◇ ◇ ◇


「……ナオト」


「……喋るな。部屋に戻るまで我慢しろ」


 あてがわれた個室 (コンクリート打ちっぱなしの独房のような部屋)に戻るなり、ミオはベッドに倒れ込んだ。


「……ハァ、ハァ……。見た? あれ」


「見た。嫌でも目に焼き付いた」


「人が……電池みたいに……。あの中には私たちが聖法国で会ったことある人もいるかもしれないのよ?」


「ああ。騎士団の演習場にいた連中とか、ドブさらいの時にすれ違った街の人とか……」


「……できない」


 ミオが顔を上げ、涙目のままナオトを睨みつけた。


「この仕事、できない。お金なんかいらない。借金まみれでもいい。あんなのの手伝いをするくらいなら、一生ドブさらいしてた方がマシよ!」


「……同感だ」


 ナオトも椅子に座り込み、天井を仰いだ。


「俺も社畜根性は染み付いてるが、さすがに大量虐殺と人体実験に加担する趣味はない。SEとしてのモラル以前に、人間としてのラインを超えてる」


「じゃあ、どうするの? 契約破棄して逃げる?」


「逃げられるか? ここは雪山だぞ。外に出れば凍死。基地内には強化兵士がうじゃうじゃいる。それに……」


「それに?」


「逃げたとして、あいつらは明日、あの砲を撃つ。聖法国の街が消える。……俺たちが見なかったことにして逃げれば、数万人が死ぬぞ」


「…………」


 ミオが黙り込む。彼女はただのOLで、ナオトはただのSEだ。

 世界を救う勇者でもなければ、正義の味方でもない。だが。


「……嫌よ」


「ん?」


「私が美味しいご飯を食べられなくなるのは嫌。でも、あんな機械で人がすり潰されるのを知ってて食べるご飯は、きっと砂の味がするわ」


「……そうだな。飯が不味くなるのは俺たちのポリシーに反する」


「ナオト。……壊そう」


 ミオの目に、敵を見る時の、狂暴で、しかし真っ直ぐな光が宿った。


「あの悪趣味な列車砲、スクラップにしてやるわよ。どうせ私たちは悪党で指名手配犯なんでしょ? だったら盛大に暴れて、全部台無しにしてやるわ!」


「……ハッ。言うと思ったよ」


 ナオトはニヤリと笑い、懐から契約書を取り出した。


「契約条項、第99条。『想定外の事態が発生した場合、甲は乙を切り捨てる』……だったな」


「それが?」


「逆もまた真なり、だ。俺たちが想定外の事態を引き起こせば、この契約は破綻する。……違約金なんて知るか。俺たちがGMになって、シナリオを書き換えてやる」


 ビリッ!


 ナオトは分厚い契約書を真っ二つに引き裂いた。


「プランX、背任行為を開始する」


「いいわね、その響き! で、具体的には?」


「明日のテスト稼働時、俺が制御システムに侵入して、エネルギーを逆流させる。いわゆる自爆シークエンスってやつだ」


「私は?」


「お前は俺がハッキングしている間、迫りくる警備兵どもを片っ端から吹き飛ばせ。……全火力を使ってな」


「了解! 久しぶりに全力が出せるわね! あの少佐のすました顔、恐怖で歪ませてやるわ!」


「ああ。ついでに金庫から金貨30枚も頂いていこう。……慰謝料としてな」


 雪に閉ざされた密室で、二人の共犯者たちは固く手を握り合った。

 それは借金返済のためでも、保身のためでもない。

 ただ、気分の悪い寝覚めを回避するための、意地とプライドを懸けた反逆の狼煙だった。


 決戦は明日正午。

 ターゲットは超弩級魔導列車砲ニーズヘッグ。

 社畜冒険者たちの、最後にして最大の業務妨害が始まる。

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