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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
鉄戦国ドルグ編

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第16話 鉄を食うネズミと、ブラック工場の安全神話

 ガガガガガガガガガガッ!!

 キュイイイイイイイイッ!!

 ドガァン!! ドガァン!!


「……うるさぁぁぁぁぁい!!」


「ミオ、もっと腹から声を出せ! プレスの音で聞こえんぞ!」


「だからうるさいって言ってるのよぉぉ! 鼓膜が破れるわよ! なんなのこの職場環境は!」


「製鉄所だからな! 騒音・粉塵・高温、3Kのフルコースだ!」


「帰りたぁぁぁい! 事務職に戻りたぁぁぁい!」


 二人が訪れたのはドルグの工業地区でも最大規模を誇る、第4製鉄プラント。

 溶けた鉄が川のように流れ、巨大なハンマーが絶え間なく振り下ろされる地獄の釜の底のような場所だった。


「おい、そこの派遣ども! 手を動かせ、口を動かすな!」


 頭上から怒鳴り声が降ってきた。

 キャットウォークの上から、葉巻を咥えた太った男――工場長のガンツが見下ろしている。


「工場長! ちょっと相談があるんですが!」


 ナオトが口元に手を当てて叫び返す。


「あぁ!? なんだ! 賃上げ交渉なら聞かんぞ!」


「違います! 安全確保についてです! メタル・ラット駆除の間だけでも、生産ラインを止めてもらえませんか!?」


「はぁ!? 寝言を言うな! ラインを止めたら1分間にいくらの損失が出ると思ってる!」


「しかし、稼働中のベルトコンベアの上で戦うのは危険すぎます! 労働安全衛生法的にアウトです!」


「ここはドルグだ! そんな軟弱な法律はない! 『死なない程度に頑張れ』、それが社訓だ! ヨシ!」


「全然ヨシじゃないですよ! 指差し確認してくださいよ!」


「つべこべ言うと報酬を減らすぞ! いいからネズミを狩れ! あいつらが配線を齧ってショートさせたら、それこそ大損害なんだ!」


「……クソッ。典型的な、現場の命より納期優先の上司だ」


「ねえナオト。あのおっさんを先に駆除していい?」


「我慢しろ。依頼主を殺したら報酬がもらえん。……来るぞミオ! 前方、コンベアの上から反応あり!」


 ガリガリガリ……!

 

 不快な咀嚼音と共に鉄くずの山から無数の影が飛び出した。

 体長50センチ。その体毛は金属光沢を放ち、目は赤く発光している。


「出たわね、鉄食いネズミ! メタル・ラット!」


「数は10、いや20匹か。気をつけて戦えよ。ここの床は動くからな!」


「分かってるわよ! ……うわっ、足元が!」


 ウィィィン……。

 

 二人が立っているベルトコンベアが、容赦なく奥のプレス機へ向かって流れていく。


「ちょ、ちょっと! これ流れてるわよ!? 奥に行ったらペチャンコよ!?」


「だから、逆走しながら戦うんだ! ルームランナーだと思え!」


「そんな命がけのダイエットしたくないわよ! ……ええい、邪魔よネズミども! そこを退きなさい!」


 ミオがコンベアを逆走しながら、迫りくるネズミに向かって剣を振るう。


 キンッ!!


「……硬っ!?」


「メタル・ラットの名前は伊達じゃないな。鉄を食って育ったから、皮膚が金属化してるんだ」


「私の魔鉄の剣が弾かれたんだけど!? これ、装甲値いくつよ!」


「関節を狙え! あと腹だ! 背中は硬い!」


「注文が多いわね! ……えいっ! ファイア・スラッシュ!」


 ジュッ!


 ミオが剣に熱を持たせ、ネズミの腹を切り裂く。

 一匹撃破。だが、残りのネズミが一斉に飛びかかってきた。


「キシャァァァッ!」


「うわ、噛みついてきた! 放して! 私の新しいブーツを齧らないで!」


「ミオ、ジャンプだ! プレス機が来るぞ!」


「えっ!?」


 ドォォォォォン!!


 二人のすぐ後ろで、巨大な鉄のハンマーが振り下ろされた。コンベア上の鉄くずが一瞬で鉄板に変わる。


「ヒィィィッ! あぶなぁぁぁい! 今、髪の毛の先が巻き込まれそうになったわよ!」


「センサーがないからな。人間だろうがネズミだろうが平等に潰す仕様だ」


「設計ミスでしょ! リコール対象よ!」


「愚痴ってる暇はないぞ! 次が来る! ……俺が援護する。お前は落とすことに専念しろ!」


「落とす?」


「ああ。無理に斬る必要はない。コンベアから蹴り落とせば、下の溶鉱炉にドボンだ」


「なるほど! 地獄送りね! それなら得意よ!」


「いくぞ! ……ウィンド・ブラスト!」


 ナオトが巻物を使い、突風を発生させる。

 空中に跳び上がったネズミたちの体勢が崩れた。


「ナイスパス! ……そこっ! サヨナラホームランッ!」


 ミオが剣の腹を使い、ネズミを次々と横へ弾き飛ばす。


「チューッ!?」


 ジュワワワワ……。


 ネズミたちは哀れ、真っ赤に煮えたぎる溶鉄の川へと落下し、一瞬で溶けて消えた。


「ふふん! ターミネーターごっこは楽しかったかしら?」


「よし、雑魚は片付いたな。……だが」


「だが?」


「おかしいと思わんか。なんでこんなにネズミが湧いてるんだ?」


「え? 工場だからじゃないの? ゴミがいっぱいあるし」


「それにしても多すぎる。それに、こいつら普通のメタル・ラットより狂暴で、変な色の涎を垂らしてた。……何か原因があるはずだ」


「原因って……。まさか、もっと奥に行けって言うの?」


「行くぞ。根本を断たないと、追加報酬が請求できないからな」


 ◇ ◇ ◇


 工場の最深部。

 そこは表の生産ラインとは隔離された、薄暗い廃棄物処理エリアだった。


「……くっさ。なにこの刺激臭」


「化学薬品と……重金属の匂いだな。目がチカチカする」


「ねえ見て。あのドラム缶の山」


 ミオが指差した先には、『危険・廃棄不可』というラベルが貼られたドラム缶が無造作に積み上げられていた。

 しかも、いくつかは腐食して中身が漏れ出し、床にドロリとした緑色の液体溜まりを作っている。


「……うわぁ。これ、完全にアウトなやつじゃん」


「産業廃棄物の不法投棄だな。処理コストをケチって地下に溜め込んでたわけだ」


「最低ね、あのタヌキ親父 (工場長)。……ってことは、この変な液体を舐めたネズミが?」


「変異したってことだ。……来るぞ、親玉が」


 ズズズズズ……。


 ドラム缶の山が崩れ、その奥から巨大な影が姿を現した。


「グルルルル……ッ!!」


「……デカっ。牛くらいあるじゃない」


 現れたのは全身に鉄くずやボルト、さらにドラム缶の蓋まで融合させた、醜悪な巨大ネズミだった。

 口からは緑色の毒ガスを吐き出し、背中の毛は針金のように逆立っている。


「ボス・ジャンク・ラットってところか。……ミオ、毒ガスに気をつけろ。吸ったら肺が溶けるぞ」


「そんなのどうやって避けるのよ! マスクなんて持ってないわよ!」


「口を布で覆え! ……弱点はたぶん、あの背中の緑色の腫瘍だ。あそこに毒液が溜まってる」


「あんなキモいの斬りたくないんだけど!」


「文句言うな! やるぞ!」


「キシャァァァッ!」


 ボスネズミが突進してくる。その巨体に見合わぬスピードだ。


「速い! ……くっ、受け止めきれない!」


 ガギィィン!


 ミオが剣で牙を受け止めるが、重さに押されて後ろへ滑る。


「ミオ、離れろ! 力比べじゃ分が悪い!」


「分かってるわよ! でも離れたらガスを吐いてくるのよ!」


「……チッ。なら、現地の設備を利用させてもらうか」


「設備?」


「上を見ろ。アレだ」


 ナオトが指差したのは天井に設置された巨大なスクラップ用電磁クレーンだった。強力な磁石で鉄くずを持ち上げるための重機だ。


「ミオ、あいつをあそこの丸い枠の中に誘導しろ!」


「丸い枠って……あの床のマーク? 何があるの?」


「いいから走れ! 俺があのクレーンを操作する!」


「また無茶振りをぉぉ! ……ヘイ! こっちよデブネズミ! お前の母ちゃんリサイクル品~!」


「グオオオオオッ!!」


 ミオの挑発に乗り、ボスネズミが猛然と追いかける。ナオトはその隙に壁の操作盤へと走った。


「……くそっ、このドルグ語のマニュアル、分かりにくい! ええい、元SEの直感入力を舐めるなよ!」


 カチャカチャカチャッ! ターンッ!


「……よし、ハッキング完了! ミオ、今だ! 伏せろ!」


「えっ!? きゃっ!」


 ミオが地面にスライディングした瞬間。


 ブゥゥゥゥン……!!


 頭上の電磁クレーンが起動し、強烈な磁場が発生した。


「グッ!? グギャッ!?」


 ボスネズミの動きが止まった。

 いや、止まったのではない。全身に鉄くずを纏っているせいで、強力な磁石に吸い寄せられ、体が浮き上がってしまったのだ。


「うわ、浮いた! ネズミが空飛んでる!」


「そのまま天井までご案内だ! ……そして、磁力解除!」


 バチンッ!


 天井付近まで持ち上げられたボスネズミが、磁力を失って落下する。

 その落下地点には――鋭利な鉄くずの山、スクラップ破砕機が待ち構えていた。


「サヨウナラ!」


 ズドォォォォン!!


 グシャリ、という生々しい音と共にボスネズミは破砕機の中に飲み込まれ、鉄くずと共にミンチにされた。


「……うわぁ。エグい」


「産業事故だな。……よし、駆除完了だ」


 ◇ ◇ ◇


「……おい、どうなってるんだ! なんで廃棄エリアに入った!」


 騒ぎを聞きつけた工場長のガンツが、顔を真っ赤にして駆けつけてきた。


「無断侵入だぞ! 報酬はやらん! 警察に突き出してやる!」


「おや、工場長。まずは『ありがとう』でしょう?」


 ナオトが涼しい顔で、ドラム缶の山を背にして立つ。

 手には先ほど採取した緑色の液体が入った小瓶を持っていた。


「……あ? なんだそれは」


「この工場の裏帳簿みたいなものですよ。産業廃棄物の不法投棄、及び有害物質の垂れ流し。……これ、国の環境局……いや、ライバル企業に持ち込んだら、どうなるでしょうね?」


「ッ!? き、貴様……!」


「ドルグは力と金が法律なんでしょう? このネタ、高く売れそうだなと思って」


「……脅す気か」


「いえいえ、正当なコンサルティング料を請求するだけです」


 ナオトがニッコリと笑う。その笑顔は完全に悪徳商人のそれだった。


「基本報酬の銀貨5枚に加えて、危険手当として金貨3枚。……口止め料込みで、金貨5枚でどうです?」


「金貨5枚だと!? ふざけるな! そんな金……」


「おや、いいんですか? 操業停止になったら、損害は金貨100枚じゃ済まないでしょうに」


「……ぐぬぬ……!」


 ガンツは歯ぎしりし、脂汗を流しながら財布を取り出した。


「……持ってけ! このドブネズミ共が!」


「ありがとうございます。毎度あり」


 チャリン。


 ナオトは金貨の袋を受け取り、中身を確認してから懐に入れた。


 ◇ ◇ ◇


「……はぁ。疲れた」


「鉄くずまみれよ。髪がギシギシする」


 工場の外に出た二人は夕日を浴びながら大きく伸びをした。


「でも、ナイス交渉だったわよナオト。まさか金貨5枚もふんだくるとはね」


「これくらい貰わないと割に合わん。あの廃棄物の毒ガス、吸い込んでたら治療費の方が高かったぞ」


「で、借金は?」


「昨日の残りが金貨9枚。今回稼いだのが金貨5枚。そのうち4枚を返済に回すとして……残り金貨5枚の借金か」


「おお! 半分返した! すごいじゃない!」


「手元に残る金貨1枚で、今日の宿と飯だ。……ようやく人並みの生活に戻れそうだな」


「ステーキ! 今夜こそステーキ食べるわよ!」


「ああ。鉄板焼きでも食うか」


「鉄板は見たくない! 網焼きにして!」


 二人は笑い合いながら、煤けた街へと歩き出した。

 ブラックな現場も、命がけの残業も、終わってしまえば酒の肴だ。

 ただし、明日の筋肉痛だけは避けられないだろうが。

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