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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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新たな決意

 執務室の前で、ナギサは足を止めた。


 中から、父の声が聞こえたからだ。


 「……心から感謝している」


 相手は、西園寺玄弥。


 破邪が倒され、

 母が長年続けてきた封印の役目から解放された。


 その事実は、分かっている。


 でも。


 (それと、マトリが死んだことは、別だ)


 胸が苦しくなる。


 感謝すべき相手だと分かっているのに、

 そう思いきれない自分がいる。


 ナギサは、それ以上聞かずにその場を離れた。

 胸の奥に残ったのは、

 怒りでも、悲しみでもなく。


 分からなくなってしまった、という感情だった。


 本家の広間。


 当主は、全員を見渡してから話し始めた。


 「昔、四家の間で決められていたことがある」


 「妖怪を倒す役目は、西園寺家の者」

 「封印を維持する役目は、巫女」


 当主は、はっきり区切って言う。


 「この二つは、本来セットだった」


 玄弥が眉をひそめる。


 「だが、途中で形が変わった」


 「西園寺家が弱くなり、力を失った」

 「四家は『もう必要ない』と判断した」


 ナギサは、黙って聞いている。


 「その結果」

 「巫女だけが封印を支え続けることになった」


 「その一つが、破邪の封印だ」


 空気が重くなる。


 「当主たちは間違っていた」

 「だが、どうすることも出来なかった」


 「封印を続けなければ、もっと多くの命が失われるからだ」


 玄弥が静かに尋ねる。


 「……それを、今になって話す理由は?」


 当主は、即答した。


 「お前が、想定以上に強くなったからだ」


 「そして、巫女がまだ戦える状態にあるからだ」


 ナギサの喉が、小さく鳴る。


 「このままでは何も変わらない、また、誰か一人に全てを押し付ける形になる」


 当主は言い切った。


 「西園寺家の者と、巫女が共に動き、共に戦う」


 「それが、一番犠牲の少ないやり方だ」


 沈黙。


 当主の言葉が落ちた後、ナギサの肩が小さく震えた。


 「……それでも、納得できない」

 声は抑えているけれど、震えが隠せない。

 怒りでも悲しみでもなく、ただ強い違和感がその言葉に込められていた。


 「マトリも、母も――どうして私たちだけが……!」


 玄弥の視線がナギサに向く。

 言葉を返せず、ただ胸の奥で何かが痛む。


 その沈黙を破ったのは、トウヤだった。


 「落ち着け、ナギサ」

 トウヤは前に一歩出る。


 ナギサは振り向く。

 青い瞳に怒りが混ざるが、言葉は途切れる。


 「……でも、私は……」


 「我慢するだけじゃ、何も変わらない」

 トウヤの声には静かな強さがある。

 「だから、決めるのはナギサお前だ。お前が納得できるかどうかじゃない。これからどうするかだ」


 ナギサの肩の震えが、ほんの少しだけ止まる。

 それでも心の奥底では、まだ揺れている。

 ──納得はできないけれど、逃げることもできない。


 玄弥は、ナギサの視線に気づき、静かに頷いた。

 「……俺は、行く一人でも」


 ナギサは、わずかに息を吐き、目を逸らす。

 感情を抑えようとする指先が、少しだけ震えていた。


 広間の空気はまだ重かった。

 ナギサは震える指先を握りしめ、視線を床に落とす。

 玄弥の方をちらりと見上げるが、目は逸らしている。


 「……そうなんだ‥」

 ようやく声を絞り出す。柔らかいけれど、どこか冷たさも残る。

 「……でも、あなた一人で私たちを守れるなんて、思わないで」


 玄弥は静かに頷いた。

 「分かってる。だから、守れるかどうかは俺が証明する。俺が、全員を失わないってところまで戦う」


 ナギサは小さく息を吐く。

 ──心の奥ではまだ怒りも不安も残っている。

 でも、今はそれを押し込めるしかない。


 「マトリはあなたの事が好きだった、一緒に居たいと思ってた、そんなマトリの好きだった人を見捨てるなんて私には出来ない‥」


 「私も行きます、マトリのためにも、同じ苦悩のある他の巫女のためにも」


 玄弥は深く息を吸い、肩を整える。


 当主は静かに頷き、二人を見送った。

 「……何があっても、覚悟だけは忘れるな」

 その声には、代々の当主たちが抱えてきた重みが含まれていた。


 もう迷いはない。行動するのは、今しかない。


 こうして、玄弥とナギサは共に行く事になった。


 夜


 玄弥とナギサは、本家の一室で装備を確認していた。

 夜はまだ深く、静まり返った屋敷に時計の針だけが音を立てる。


 玄弥は、霊装の刀を取り出し、柄に手をかける。

 「これで十分かな……」

 手に馴染む感覚を確かめるように、何度も握り直す。


 ナギサは一歩離れたところで、自分の衣服を整える。

 白く清楚な装いだが、動きやすいように袖や裾をしっかりまとめている。

 「……本当に、行くのね」

 声は低く抑えられている。怒りや不安を隠すように。


 玄弥は頷き、軽く微笑む。

 「ああ。行く、これからよろしくな」

 その言葉には迷いはなく、決意だけが乗っていた。


 ナギサは目を細め、玄弥の様子を観察する。

 心の奥で、まだ怒りが残る――マトリを助けられなかった自分への苛立ちも交じる。


 だが、今はそれを置いておくしかない。行動に集中しなければならない。

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