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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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水瀬本家地下にて1

 封印された妖怪の攻略を翌日に控えた夜。


 水瀬本家の広間には、重い沈黙が落ちていた。

 灯りは落とされ、卓の上に広げられた古い地図と封印図だけが、淡く照らされている。


「――西園寺玄弥を、監視します」


 その沈黙を破ったのは、ナギサの声だった。


 はっきりと、迷いのない口調。


 当主たちの視線が、一斉に彼女へ向く。


「ナギサ、それは危険だ」


 年長の当主が即座に首を振った。


「明日の相手は、封印下とはいえ“王格”の妖怪だ」

「前夜とはいえ、異変が起きれば巻き込まれる」


「まして、西園寺玄弥は――」


 言葉が続く前に、ナギサが一歩前に出た。


「だからです」


 短く、しかし強い。


「玄弥は、今もっとも妖怪に近い位置にいる」

「九尾と契約している以上、前兆が出るなら必ず彼からです」


 当主たちは顔を見合わせる。


 理屈としては、否定できない。

 だが――


「それでも危険すぎる」

「若い者を、囮のように使うわけにはいかん」


 その時。


「じゃあ、俺も行きます」


 少し軽い調子で、しかし一歩も引かない声。


 トウヤだった。


 場の空気が、微かに揺れる。


「トウヤ……」


「監視役が一人なのが問題なら、二人にすればいい」

「俺は戦闘要員にもなるし、最悪、逃がす役にもなれる」


 肩をすくめる。


「玄弥一人放り出すより、よっぽどマシでしょ」


 当主の一人が、深く息を吐いた。


「……お前が付くなら、話は別だ」


 別の当主も、渋々ながら頷く。


「条件付きだ」

「異変があれば即座に撤退」

「接触は最小限に抑えろ」


「承知しました」


 ナギサは即答した。


 その表情に、迷いはない。



 廊下を歩きながら、トウヤが小声で言う。


「……随分、踏み込むな」


「必要なことです」


「心配、って顔じゃないな」


 ナギサは、ほんの一瞬だけ足を止めた。


「心配ですよ」


 静かな声。


「でも、それ以上に」

「“見逃せない”だけです」


 トウヤは、それ以上聞かなかった。


 玄弥の部屋の前に立つ。


 中からは、気配が一つ。


 静かだが、確かに――何かが、うずいている。


 ナギサは扉に手をかけながら、胸の奥で呟いた。


(……マトリ)

(私は、ちゃんと見ている)


 前夜の監視は、

 ただの見張りでは終わらない。


 そのことを、

 この時点で理解していた者は、まだ少なかった。


 地下へ続く階段は、思った以上に深かった。


 石段を下るたび、空気が冷えていく。

 湿り気を帯びた空気に、かすかな鉄の匂いが混じっていた。


「……ここまで来るのは、久しぶりだな」


 トウヤが低く呟く。


 ナギサは答えず、結界の状態を確認していた。

 符が幾重にも貼られ、封印陣が床から壁、天井へと連なっている。


 そして。


 最奥。


 巨大な柱状の結界の中に、

 それは在った。


 妖怪。


 姿は、はっきりと定まっていない。

 影の塊のようであり、霧のようでもある。


 だが――

 そこに「意志」があることだけは、否定しようがなかった。


 玄弥は、一歩前に出た。


「……聞こえてるよな」


 ナギサが、ぴくりと反応する。


「西園寺玄弥、むやみに――」


「大丈夫」


 短く答え、視線は外さない。


「俺は、敵として来てない」


 結界の内側が、微かに揺れた。


 空気が、ざわりと逆立つ。


 次の瞬間。


 ――音にならない声が、地下に満ちた。


 耳ではない。

 頭の奥に、直接流れ込んでくる。


 悲鳴にも、怒号にもならない。

 ただ、圧だけがある。


「……っ」


 トウヤが歯を食いしばる。


 ナギサは即座に陣を展開し、玄弥の前に半歩出た。


「下がれ!」


 だが玄弥は、動かなかった。


 胸の奥が、強く引かれる感覚。


 恐怖ではない。

 拒絶でもない。


 ――呼ばれている。


「……苦しいんだな」


 思わず、そう口にしていた。


 結界の内側で、影が大きくうねる。


 再び、声にならぬ声。


 今度は、先ほどよりも近い。


 ナギサの表情が、険しくなる。


「……これは、警告じゃない」


「うん」


 玄弥は、静かに頷いた。


「助けを、求めてる」


 トウヤが、信じられないという顔で玄弥を見る。


「おい、待て……封印された妖怪だぞ」


「分かってる」


 それでも、玄弥は目を逸らさない。


「でも、こいつは」

「ただ暴れたいだけじゃない」


 結界が、きしりと鳴った。


 封印符の一部が、淡く発光する。


 ナギサは、背中越しに玄弥へ告げた。


「……前夜に、ここまで反応するのは異常です」


「だよな」


「明日、必ず何かが起きる」


 その言葉に応えるように。


 声にならぬ声が、最後に一度だけ響いた。


 ――まるで、

 “選んだ”と告げるかのように。


 地下の空気が、ゆっくりと静まっていった。


 だが、誰もが分かっていた。


 この沈黙は、

 嵐の前のものだということを。


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