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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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決意、そして

玄弥は一度、深く息を吸った。

胸に沈んだ重さを、言葉にして吐き出すように口を開く。


「……器としての役目は、理解しました」


当主の視線を、真正面から受け止める。


「けど、それでも俺は――

身の回りの仲間も、家族も、誰一人として失いたくない」


静かな声だった。

だが、そこに迷いはなかった。


「守るために戦います。

封印のために生きるだけじゃなく、

俺の意思で、俺の力で」


その言葉に、当主はすぐには応じなかった。

しばしの沈黙の後、低く、冷たい声が落ちる。


「……愚かだな」


玄弥の覚悟を否定するようでいて、どこか諭す響き。


「器でありながら、すべてを救おうとする道は――

茨の道だ」


一歩、当主が近づく。


「守れば守るほど、失う覚悟を迫られる。

力を得れば得るほど、王に近づく。

その矛盾を抱えたまま進むことになる」


視線が鋭く、重く突き刺さる。


「それでも進むと言うのか。

誰も失わず、誰も犠牲にせず、

封印の器であり続けながら戦うなど――」


一拍置いて、当主は言い切った。


「最も過酷な選択だ」


玄弥は、わずかに唇を引き結び、頷いた。


「……それでも、俺はその道を選びます」


逃げない。

折れない。

失わないと決めたからこそ。


当主は、玄弥を見据えたまま、ゆっくりと目を細めた。


「ならば覚えておけ」


その声は、警告であり、試練だった。


「その覚悟を最後まで貫けぬ時――

最初に切り捨てられるのは、お前自身だ」


当主は、ふっと小さく息を吐いた。

その視線が、玄弥からわずかに外れる。


「……では、一つ聞こう」


淡々と、感情を削ぎ落とした声。


「マトリのことを、どこまで知っている?」


突然出た名前に、玄弥は言葉を失った。

胸の奥が、わずかにざわつく。


「……関係ない、とは言わない顔だな」


当主は、玄弥の反応だけで察したように続ける。


「マトリはな、お前と同じ“器”だ。

いや――正確には、器になれなかった存在だ」


空気が、重く沈む。


「力を得る前に壊れ、

守ろうとしたものを守れず、

そして――自分自身を失った」


当主の視線が、再び玄弥に戻る。


「理想を掲げ、誰も失わぬと願い、

結果としてすべてを失った」


一歩、また一歩と近づきながら。


「それがマトリだ」


玄弥は歯を食いしばった。


「……それでも――」


言いかけた言葉を、当主は容赦なく遮る。


「同じだと言っている」


声が、鋭く断ち切る。


「お前が辿ろうとしている道は、

マトリが通った道と、何一つ変わらん」


静かだが、決定的な言葉が続く。


「そんなお前なんぞに、できるわけがない」


その一言は、刃だった。

希望を否定し、覚悟を切り裂く断言。


「救うだの、守るだの、戦うだの――

すべては力を制御できてこそだ」


当主は、冷然と言い放つ。


「お前はまだ、器として未完成。

そして何より――」


わずかに目を細め、


「マトリよりも、危うい」


沈黙が落ちる。

それでも玄弥は、俯かなかった。


拳を握りしめ、震えを抑えながら、当主を見返す。


沈黙が、限界まで張り詰めていた。


玄弥は、俯いたまま動かなかった。

肩が、わずかに震えている。


「……同じだって?」


低く、押し殺した声。


「マトリと、俺が?」


次の瞬間――

玄弥は、顔を上げた。


その瞳には、迷いも怯えもなかった。

あるのは、怒りと、悔しさと、決意だけ。


「ふざけるな」


初めてだった。

ここまで、感情を露わにしたのは。


「俺は、失ったことをなかったことにするつもりはない。

マトリが死んだことも、俺が助けられなかったことも――

全部、背負って生きる」


言葉が、部屋の空気を震わせる。


「だからこそ、俺は止まらない」


一歩、踏み出す。


「皆を守りたい。

仲間も、家族も、誰一人欠けさせたくない」


拳を、強く握り締める。


「それが茨の道だって言うなら――

俺は、その道を選ぶ」


当主を、真っ直ぐに見据えた。


「逃げない。

器としても、人としても」


そして、はっきりと言い切る。


「――俺は、証明する」


一瞬、部屋が静まり返った。


当主は、玄弥を見つめたまま、微動だにしない。

やがて、ゆっくりと口角を上げた。


「……ほう」


感心でも、嘲笑でもない。

ただ、事実を確認するような表情。


「言葉は立派だな」


当主は、くるりと背を向ける。


「ならば、証明してみろ」


その声が、石の床に反響する。


「水瀬本家の地下には、妖怪が一体封じられている」


トウヤが、思わず息を呑んだ。


「父上……あれは――」


「黙れ」


短く制され、当主は続ける。


「名を、破邪はじゃという」


空気が、明らかに変わった。


「人の信仰、恐怖、殺意を喰らい、

“討たれるほど強くなる”厄介な妖怪だ」


淡々と、だが冷酷に。


「本来なら、陰陽部隊でも複数人がかりで対処する存在」


当主は振り返り、玄弥を見る。


「それを――」


一拍置いて。


「単独で倒してみせろ」


玄弥の背筋に、冷たいものが走る。

だが、視線は逸らさなかった。


「できれば認める。

できなければ――」


当主の声が、低く沈む。


「お前は“危険な器”として処理される」


それは、試練ではない。

裁定だった。


「逃げることも、助けもない」


当主は、最後にそう告げた。


「それが、西園寺玄弥に課された――

最初で最後の機会だ」


玄弥は、静かに息を吐く。


(証明してやる)


誰のためでもない。

自分自身のために。


「……分かった」


短く、だが揺るぎない返答。


「やる」


その瞬間、

運命は、後戻りできない場所へと踏み込んだ。



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