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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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89/207

水瀬本家にて3

 夜も深まり、古風な屋敷の大広間に淡い灯が灯る頃。

 重い扉が開き、当主が帰宅した。


 「――来客か」


 声は低く、冷たく、空気ごと重く圧し潰すようだった。

 玄弥は自然と背筋を伸ばし、深く頭を下げる。


 「失礼いたします。西園寺玄弥です」


 しかし、当主は一瞥しただけで、眉をひそめ、威圧的な態度を崩さなかった。

 部屋の空気が一気に緊張に包まれる。


 「……なぜここに来た?」


 その一言だけで、玄弥の胸の奥に冷たい緊張が走る。

 言葉を選びながらも、トウヤが口を開いた。


 「当主様、この者に危害はありません。無害です」


 当主は鋭い目を玄弥に向け、眉をさらに吊り上げる。

 その視線には、納得する気配が全くなかった。


 「無害、とな……?」


 威圧的な空気は緩まない。

 玄弥は自分が見下されているのではなく、

 存在そのものを疑われていることを痛感した。


 「……私は事実を申しております」

 トウヤが説明を試みる。

 しかし、当主は頑なに首を振る。


 「……話は聞こう。だが、信じるかどうかは別だ」


 玄弥はわずかに息を整える。

 威圧的で、冷徹。だが、眼光の奥には単なる疑念だけではなく、経験から来る警戒心が見え隠れする。


 トウヤもまた、当主の態度に苦渋の表情を浮かべる。

 「……くれぐれも、この者に手出しはしないでください」


 だが当主は無言のまま、厳しい視線を向け続ける。

 玄弥は一歩も引かず、礼を崩さず、静かに立っていた。


 沈黙の中、広間の空気は張り詰めたまま。

 玄弥と当主、そしてトウヤの間に、言葉ではない緊張が流れた。


 沈黙が広間を支配する。


 当主は低く、重い声で言った。


 「……お前は知っているのか、四家が西園寺家に何をしてきたか」


 玄弥は一瞬、言葉に詰まる。

 自分も、トウヤも、過去のことを詳しくは知らない。

 噂や断片的な事実は耳にしたことがあるが、全貌はわからない。


 「……知りません」

 玄弥は素直に答えた。

 しかしその声は、かすかに震えていた。


 当主は一歩近づく。

 その存在だけで、空気が締め付けられる。


 「……知らぬとは、無知もいいところだ」

 鋭い視線が玄弥を射抜く。

 「だが、事実は残酷だ。お前の一族は、我ら四家の手で蹂躙され、徹底的に排除された」


 玄弥はただ黙るしかなかった。

 聞くしかない。理解するしかない。


 「……お前は、何をしに来たのだ」

 当主の声には威圧と疑念が混じる。


 玄弥はゆっくりと答える。


 「……無害であることを示すためです。誤解を解くために来ました」


 当主はじっと玄弥を見据える。

 トウヤも、ただ黙ってその場に立つ。

 過去の真実を知らぬまま、若き末裔が今、目の前にいる。

 その緊張が広間を支配していた。


 当主は玄弥をじっと見つめたまま、問いかける。


  当主は玄弥をじっと見据え、重い口調で言った。


 「……お前は、四家の悲願を知っているか?」


 玄弥は首を横に振る。

 「……いいえ。知りません」


 当主は静かに息を吐き、重みのある声で続ける。


 「我ら四家の悲願――それは、妖怪の王を討つことにあった」

 「だが、王の力はあまりに強大で、討つことは到底叶わぬ」


 少し間を置き、当主は語調を変えた。

 「そこで、西園寺の家の者は代々、王を封じる“器”としての役目を担ってきた」

 「封印は完全には解かれず、今なお維持されている」


 玄弥は問いかける。

 「……じゃあ、それで何が?」


 当主は視線を鋭くした。

 「封印が維持され続けたため、西園寺家は不要と判断された」

 「表向きは壊滅――だが、実際には封印の礎としての役目だけが残されていた」


 玄弥は沈黙するしかなかった。

 知らなかった一族の宿命。

 不要とされ、抹消された過去。

 そして今も続く、果てしない使命。


 「……僕には、何ができるのでしょうか」

 小さな声で尋ねる玄弥に、当主は答えずただ視線を注いだ。


 当主は玄弥をじっと見据え、低く重い声で続ける。


 「……西園寺の家は、元々“霊力を持たぬ者”として生きていれば問題はなかった」

 「霊力が弱いままなら、ただの器として封印の礎を担うだけで済む」


 玄弥は息を呑む。


 「だが、お前は想定を凌駕するほど強くなってしまった」

 「……それは非常にまずい」


 当主は少し間を置き、視線をさらに鋭くする。


 「西園寺の身体は、妖怪の王を封じる“器”として永き時を過ごす運命にある」

 「もし封印が解かれた状態でその力を持ってしまえば――その霊力はすべて、王へと流れ込む」

 「器が暴走すれば、封印は崩れ、王の力は現世へ解き放たれる。想像以上の災厄が待つのだ」


 玄弥は自分の胸を押さえ、視線を落とす。

 「……俺のせいで」

 言葉にならない重みが胸にのしかかる。


 当主は静かに頷き、しかし続けた。

 「だからこそ、四家は西園寺家の動向を厳重に監視している」

 「そして必要なら――封印のために行動するしかないのだ」


 その言葉の重さに、玄弥は息が詰まる。

 自分の力の意味、そして存在の危うさを、初めて真正面から突きつけられた瞬間だった。


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