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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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水瀬次期当主との戦い

 最初の一合で、勝負ははっきりした。


 剣だけなら、勝ち目はない。


 玄弥の霊装刀が弾かれ、火花が散る。

 トウヤの剣は無駄がなく、速く、正確だった。


「っ……!」


 受けるたびに、手が痺れる。

 技量の差が、はっきりとある。


「剣術は教わっていないな」


 トウヤの声は冷静だった。


「型が甘い。踏み込みも浅い」


「……分かってるよ」


 玄弥は距離を取る。


「だから――」


 地を蹴る。


 霊力が、足元で爆ぜた。


「力で、埋める」


 玄弥は一度、深く息を吐いた。


 次の瞬間。


 霊力が、溢れた。


 白装束が完全に顕現し、霊装刀が淡く光を帯びる。

 周囲の空気が、明確に重くなる。


「――っ」


 トウヤの表情が、わずかに強張った。


 これは妖力じゃない。

 純度の高い、人の霊力。


 だが――量が異常だった。


「……これほどか」


「俺も最近、実感してる」


 玄弥は踏み込む。


 今度は、押し負けない。


 剣がぶつかるたび、衝撃が走る。

 トウヤの腕に、確実に負担が溜まっていく。


「く……!」


 技で捌いている。

 だが、力の差がじわじわと効いてくる。


 霊力の供給量。

 霊装の安定性。


 どれも、玄弥が上だった。


「……なるほどな」


 トウヤが、短く笑う。


「剣では勝てる。だが――」


 一歩、後退。


「総合では、もう追い越されている」


 次の一撃。


 玄弥の斬撃が、トウヤの結界を正面から砕いた。


「――っ!」


 地面に膝をつく。


 呼吸が乱れる。

 霊力切れではない。


 身体が、ついてこない。


 玄弥の霊装刀が、トウヤの喉元で止まる。


 静寂。


 夜風だけが吹き抜けた。


「……終わりだ」


 霊装刀を下ろした、その瞬間だった。


「……待て、玄弥」


 トウヤの声が、低く響く。


 玄弥が視線を上げると、トウヤはゆっくりと左手を地面に添えていた。


「ここからは――個人じゃない」


 霊力の質が、変わった。


 冷たい。

 だが澄み切っている。


「水瀬家当主代理として、お前を止める」


 地面に刻まれた術式が、淡く青く光る。


「――来い」


 次の瞬間。


 水音が、した。


 何もないはずの空間から、水が噴き上がる。

 川のように流れ、渦を巻き、形を成していく。


 四肢を持つ獣。

 鱗のように波立つ体表。

 瞳はなく、代わりに水そのものが意思を宿している。


「……契約霊か」


「水獣だ」


 トウヤは静かに告げた。


「我が家に代々仕える、戦闘用の霊」


 水獣が一歩踏み出した瞬間、地面が濡れた。

 いや――濡れただけじゃない。


 足元の水が、玄弥の動きを縛る。


「っ!」


 踏み込めない。


 水が意思を持って絡みついてくる。


「霊力の量で押す相手じゃない」


 トウヤが言う。


「こいつは、霊力を“流す”」


 次の瞬間、水獣の前脚が振り下ろされた。


 玄弥は霊装刀で受ける。


「――重っ!」


 衝撃が腕に走る。

 水のはずなのに、岩のような質量。


 後退。


 その隙を逃さず、水獣が周囲の水を操る。


 横から、後ろから、上から。

 水の刃が、同時に襲いかかる。


「……くそっ」


 斬っても斬っても、水は形を変えて再構築される。


 霊力は十分にある。

 だが――削れない。


「これが……契約霊……」


 息が荒くなる。


 トウヤは前に出ない。

 剣を構えたまま、霊との連携だけで追い込んでくる。


「お前は強い」


 トウヤの声が、雨音の向こうから聞こえる。


「だが、“戦場”に慣れていない」


 水獣が咆哮する。


 その瞬間、周囲の水が一斉に動き、玄弥の足を掴んだ。


「――っ!」


 体勢を崩す。


 水の重圧が、霊装越しに体を締め付ける。


 初めて――

 押されていると、はっきり分かった。


(……マズい)


 霊力量では勝っている。

 でも、使い切れない。


 トウヤは“戦い方”を知っている。


「……玄弥」


 トウヤが、少しだけ声を落とす。


「ここで倒れろ。そうすれば――」


 その先は、言わなかった。


 玄弥は歯を食いしばる。


「……冗談じゃない」


 霊装刀を、強く握り直す。


 白装束が、微かに震えた。


 ――まだ、切り札は残っている。


 水獣が、再び牙を剥く。


 玄弥は、前を睨んだ。


 足元を縛る水の圧が、さらに強まる。


 水獣が咆哮し、全身を波で覆った瞬間――

 玄弥は、静かに息を吸った。


「……葛葉」


 応えはない。

 だが、背中の奥がわずかに熱を帯びる。


 次の瞬間。


 白い尾が、空気を裂いて顕現した。


 同時に、霊力の質が変わる。

 鋭く、速く、そして――雷性。


 紫の電光が、霊装刀に走った。


「……っ!?」


 トウヤの目が見開かれる。


「尾……だと……?」


 水獣が即座に反応する。

 水を高圧で圧縮し、盾を形成。


 だが――


「遅い」


 玄弥が踏み込んだ。


 紫電が地面を走り、足元の水を一瞬で蒸発させる。


 拘束が消えた。


 次の刹那、玄弥は間合いに入る。


 霊装刀が振るわれた――

 斬ったのは水ではない。


 水獣を束ねている“霊力の流れ”。


 紫電が、その一点を貫いた。


 ――バチン、と空気が弾ける。


 水獣の体が、崩れた。

 意思を失った水が、ただ地面に落ちる。


「な……っ」


 トウヤが後退する。


 だが、もう遅い。


 玄弥の尾が、地面を叩いた瞬間、

 霊力が一気に跳ね上がる。


「水瀬トウヤ」


 名を呼ぶ声は、静かだった。


「これ以上、俺は止まらない」


 トウヤは剣を構える。

 だが、霊力の供給が追いついていない。


 玄弥は、正面から踏み込んだ。


 剣術――トウヤが上。

 だが、速度と威力が違う。


 紫電を纏った一閃が、剣を弾く。


 二閃、三閃。


 最後は――柄打ち。


 鳩尾に、叩き込む。


「……ぐっ!」


 トウヤの体が宙を舞い、地面を転がった。


 霊力が、完全に途切れる。


 玄弥は、霊装刀をトウヤの喉元で止めた。


 ――切らない。


「……討伐完了だ」


 トウヤは、荒い息のまま、苦笑した。


「……やっぱり、か」


 視線を天に向ける。


「西園寺……お前は、もう……」


 言葉は続かなかった。


 意識が、落ちる。


 紫電が消え、尾も霧散する。


 玄弥は一人、立ち尽くした。

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