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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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因縁の戦い

広場の中央。

妖怪は教師の身体を器にし、生徒を前へ突き出した。


「動くな。斬れば、この子の命は――」


玄弥は一歩も引かない。

ただ、刀を静かに構え直す。


(……霊装の制約)

(“妖力以外は切れない”)


この刀は、人を斬れない。

肉体も、魂も、命も――切断対象にならない。

切れるのは、妖怪が発する“妖力”だけ。


葛葉の声が落ち着いて響く。

『怯むでない。

 その刀は妖力にしか反応せぬ。

 人を盾にする策は、すでに破綻しておる』


「……ああ」


玄弥は踏み込む。

だが、狙いは生徒でも教師でもない。


視界の中で、妖怪の妖力だけが浮き上がる。

血管のように走る黒い流れ。

生徒の身体を覆うように絡みつく、異物。


(――そこだ)


一閃。


刃は、生徒の身体をすり抜け、

教師の肉体にも一切触れず、

ただ――妖力だけを断ち切った。


「――がっ!?」


悲鳴は、喉からではなく、空気そのものから漏れた。

切断された妖力が暴走し、黒い火花となって弾ける。


妖怪は慌てて妖力を引き戻そうとする。

だが、玄弥は止まらない。


二太刀目。

三太刀目。


切るのは常に同じ一点。

妖力、妖力、妖力。


生徒を覆っていた力が削がれ、弾かれるように後方へ転がる。

――無傷。


「な、なぜだ……!

 人質が……効かぬ……!?」


「当然だ」


玄弥は刀を正眼に戻す。


「この刀は、

 お前の力しか斬れない」


葛葉が低く笑う。

『制約とは枷ではない。

 “対象を誤らぬための線引き”じゃ』


妖怪の妖力が限界を迎え、教師の身体から剥がれ落ちる。

実体を保てなくなった妖怪は、地に落ちてなお悔しげに歪んだ。


最後の一閃。


霊装は静かに応え、

残存する妖力だけを、完全に断った。


妖怪は霧散する。

人は誰一人、傷ついていない。


広場に残ったのは、

刀を収める玄弥と、呆然と立ち尽くす生徒たちだけだった。


『……よい戦い方を覚えたの』

葛葉が満足げに言う。

『それが、おぬしの“戦い方”じゃ』


玄弥は息を整え、夜空を見上げた。


夜の広場。

妖怪を斬り伏せた直後――安堵が生まれる、その一瞬。


胸の奥が、軋んだ。


『……来るぞ、玄弥』


葛葉の声が低く、鋭くなる。


空気が裂けた。

夜空が不自然に歪み、影が“落ちてくる”。


重たい着地音。


現れたのは、鵺。

虎の胴は半分が霧に溶け、翼は欠け、輪郭は不安定。

だが――放つ圧は、先ほどの妖怪とは比べものにならない。


「……供給が、止まったなぁ」


重なり合う不快な声。


「気になってきてみたら‥いや」


影が膨らむ。


「この前の小僧じゃねぇか」


次の瞬間、鵺が消えた。


――速い。


反射で刀を構えるが、間に合わない。

横腹に衝撃。


「ぐっ……!」


吹き飛ばされ、地面を転がる。

呼吸が一瞬、止まる。


『玄弥! 無理に立つでない!』


鵺の分体は距離を詰め、影の刃を放つ。

玄弥は転がりながら躱すが、肩口をかすめた。


(まずい……)


以前、玄弥はこの妖怪に完敗している。

尾も出せず、霊装も間に合わず、抗うことすらできなかった相手。


だが今は違う。


白装束が静かに顕現し、

霊装の刀が、最初からその手にあった。


二本の尾が、無理なく背後に揺れている。


呼吸は安定している。

恐怖も、もう足を縛らない。


『……ほう』


鵺の声が、広場全体に響いた。


『前は何もできずにやられたというに、

 ずいぶんと様変わりしたものだな』


「一回負けてるからな」


玄弥は刀を構える。


「お前のやり方は、もう分かってる」


影が蠢き、鵺の妖力が濃くなる。

姿は一つだが、圧は以前と同等――いや、それ以上。


妖力の奔流が押し寄せる。


玄弥は、逃げない。


踏み込み、斬る。

狙うのは肉体ではない。


霊装の制約を解き、刃に紫電を纏わせる。


一太刀で流れを切り、

二本の尾で反動を殺し、次へ繋げる。


「……っ!」


鵺が距離を詰める。

重い一撃。


だが、玄弥は受け流した。


尾で地面を叩き、体勢をずらす。

白装束が衝撃を分散し、致命を防ぐ。


「前と同じだと思うなよ」


連撃。

以前は“量”と“圧”に押し潰された。


だが今は違う。


妖力の供給が、視えている。


『……小賢しい』


鵺が妖力を強める。

だが、その瞬間――流れが太くなる。


「そこだ!」


玄弥は、供給の“節”を斬る。


一度、妖力が途切れる。

鵺の動きが、僅かに鈍った。


『……ほう、やるねぇ』


鵺が低く笑う。


影が荒れる。

力任せの攻撃。


だが、もう粗が多い。


玄弥は一歩踏み込み、

二本の尾で跳躍。


空中で、刀を振り下ろす。


妖力のみを断つ、最大出力の一閃。


――断絶。


鵺の影が、内側から崩れ始める。


『おっと、今日はここまでか』


声が、夜に溶ける。


『今日はお前の勝ちにしてやるよ、次は覚悟しておけや』


影が霧散し、広場に静寂が戻った。


玄弥は、ゆっくりと息を吐く。


刀を収め、白装束が解ける。

尾も、自然に消えた。


『勝てた‥』


「……ああ。今度は、ちゃんと」


以前は何もできなかった。

今回は、鵺を退かせた。


小さな差だが、確かな前進。


玄弥は夜空を見上げる。


「次は、本気の鵺だな」


もう、その声に迷いはなかった。

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