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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: テラトンパンチ
水瀬家編

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新しい環境での再開

 学園を背に、玄弥は家へ向かって歩き出した。


 胸の奥に残る後悔は、まだ消えない。

 それでも――学生たちが夏休みだったことを思い出し、わずかに息をついた。


「……最悪は、免れたか」


 その時。


 空気が沈む。

 視界の端で、黒い影が次々と姿を現した。


 下級妖怪。

 数だけは多く、かつては一体ずつでも厄介だった存在。


 玄弥は足を止めない。


「顕在」


 短く告げると、白い霊装が身体を包み込む。

 同時に、右手に一本の刀が現れた。


 《無垢》。


 余計な装飾のない、ただの刀。

 だが今は、玄弥の意思そのものと化している。


 妖怪たちが一斉に襲いかかる。


 玄弥は踏み込み、抜刀した。


 ――一閃。


 最初の一体が、抵抗する間もなく斬り伏せられる。


 二体目、三体目。

 動きは静かで、速い。


 斬るべき場所が、自然と“分かる”。

 迷いがない。


「……遅い」


 呟きと同時に、刀が走る。


 連続する斬撃。

 血も悲鳴も長くは残らず、妖怪たちは次々と霧散していく。


 数十秒後。


 そこに立っていたのは、玄弥一人だけだった。


 刀を下ろし、周囲を見渡す。

 霊力の消耗は軽微。息も乱れていない。


 ――以前なら、考えられなかった光景だ。


 玄弥は静かに納刀した。


「……これが、修行の成果か」


 誰に言うでもなく呟き、再び歩き出す。


 もう、下級相手に足を止めることはない。

 次に向き合うべきは、もっと“上”だ。


――


 学園本部、臨時会議室。


 かつて整然としていたはずの空間は、今や応急処置の痕跡で満ちていた。

 壁の補強材、割れたままの結界装置、修復途中で止まった床。


 ――学園は、完全に襲撃を受けた後だった。


「現状、校舎の三割が使用不能です」


 淡々と報告される数字とは裏腹に、空気は重い。


「結界の再構築には、早く見積もっても数か月」

「霊脈の安定化が終わらない限り、実技授業は不可能でしょう」


 誰かが言葉を継ぐ。


「……つまり」


 学園長が静かに結論を下した。


「夏休み明けの授業再開は不可能です」


 沈黙。


 それを破ったのは、別の理事だった。


「そこで提案です。

 姉妹校――全寮制霊術学院への一時的に転校するのはどうでしょうか」


 資料が配られる。


 学園機能が停止している間、学生を分散受け入れする。

 寮生活を前提とし、最低限の座学と訓練は継続可能。


「期間は未定。短くても一年」

「戻れる保証はない、ということですね」


「ええ。ですが、学びを止めるわけにはいかない」


 反対意見は出なかった。

 出せる状況ではなかった。


 学園は――崩壊している。



 夜。


 玄弥が茶の間に入ると、母はテレビを消してこちらを見た。

 昼間から、何度もニュースで学園の話題が流れていた。


「……今日、連絡が来たわ」


 母は静かに切り出す。


「学園、すぐには戻れないんですってね」


 玄弥は頷く。


「姉妹校への一時転校、って話もあるそうよ全寮制で大半はそちらに移るみたい」


 一拍、間を置いて。


「玄弥は……どうする?」


 責める声ではない。

 だが、軽くもない。


 全寮制。

 知らない環境。

 そして、これ以上“日常”から離れる選択。


 母は続ける。


「無理にとは言わないわ。

 家にいて、別の道を探すこともできる」


 玄弥を、ちゃんと選ばせる声だった。


 玄弥は俯き、少し考える。


 頭に浮かぶのは、崩れた学園。

 妖怪。

 自分がいなかった時間。


 そして――もう、止まれないという感覚。


 ゆっくり顔を上げる。


「……行くよ」


 短く、しかしはっきりと。


「まだ、足りない」


 母はしばらく玄弥を見つめてから、小さく息を吐いた。


「……そう」


 それ以上は言わなかった。


 ただ、少しだけ表情を緩める。


「準備、手伝うわ、後ちゃんと連絡寄越すなよ」


 こうして夏休み明けは姉妹校に行く事になった。

――


姉妹校・全寮制霊術学院


 山を一つ越えた先。

 霧の濃い土地に、その学院はあった。


 白壁の校舎、整えられた結界柱、手入れの行き届いた中庭。

 ――外見だけなら、何もおかしくない。


「ここが……姉妹校?」


 玄弥は無意識に周囲を見回した。


 静かすぎる。


 夏休み中とはいえ、人の気配が薄すぎた。

 風が吹いても、草木がざわめかない。

 音が、吸われているような感覚。


「歓迎する。西園寺玄弥君」


 声をかけてきたのは、出迎えの教師だった。


 背筋の伸びた男。

 穏やかな笑み。

 学園側の資料にも載っていた、指導主任・鷹宮。


「長旅だったろう。今日は寮に案内する」


 その瞬間――


 玄弥の背筋が、ぞくりとした。


 霊力の“質”が違う。

 人間のそれではない、何かが混じっている。


(……?)


 だが、表情には出さない。

 周囲の生徒たちも、同じ教師に案内されている。


 彼らは気づいていない。

 あるいは――慣れてしまっている。



校内


 廊下は異様に広く、天井が高い。

 結界術式は高度だが、どこか古い。


 そして――所々、妖気の痕跡が残っている。


 封じた跡。

 いや、違う。


(共存……?)


 壁に刻まれた術式は、排除ではなく「調律」に近い。


「この学院は、実戦主義だ」


 歩きながら、鷹宮が語る。


「妖怪を恐れるだけでは、呪いには勝てない」

「理解し、利用し、制御する。それが我々の教育方針だ」


 言葉自体は、理屈として通っている。


 ――だが。


 玄弥の視界の端で、一瞬。


 鷹宮の影が、人の形を逸脱した。


 尾のようなものが、揺れた気がした。


 次の瞬間には、元に戻っている。


(……今のは)


 霊装は顕在させていない。

 だが、感覚だけは修行前とは比べものにならないほど鋭い。


 間違いない。


 この教師は――

 妖怪と繋がっている。


 契約か、憑依か、あるいはもっと別の形か。


「何か?」


 鷹宮が振り返る。


「いえ」


 玄弥は短く答えた。


 今は、踏み込む時じゃない。



寮の前


 寮は校舎とは別棟。

 外見は普通だが、玄関に貼られた札だけが異質だった。


 封印ではない。呼び水だ。


(ここ……妖怪が“来る”前提で作られてる)


 背後で、誰かが小声で呟いた。


「……この学校、変じゃないか?」


 だが、その声はすぐに掻き消される。


 鷹宮が、にこやかに言った。


「安心しなさい。ここは安全だ」

「――正しく扱えば、ね」


 玄弥は、心の中で確信する。


 この姉妹校は、

 妖怪を排除する場所じゃない。


 そして。


(……たぶん)


 ここは、

 何かを“試す”ための場所じゃないのかと感じた。


 新しい異常が、日常として始まろうとしていた。


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