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霊力ゼロの陰陽師[★毎日更新★]  作者: テラトンパンチ
新たな出会い、妖獣 八岐大蛇 特訓編

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八岐大蛇との契約、新たな霊装

 草原に、結界が張り巡らされる。


 逃げ場はない。

 最初から、そのつもりだった。


「――最後だ」


 八岐大蛇が一歩、踏み出す。

 人の形をしていても、圧は災厄そのものだった。


 玄弥は刀《無垢》を抜く。

 紫電が、微かに走る。


 霊力は満ちている。

 九尾との繋がりもある。


 それでも――

 勝てる気がしない。


「来い」


 その一言で、世界が弾けた。


 次の瞬間、視界が反転する。


 ――首が、飛んだ。


 自覚するより早く意識が暗転し、

 次に目を開けた時には、地面に転がっていた。


 身体は再生している。

 八岐大蛇が蘇生させたのだと、分かる。


「遅ぇ」


 再び、斬り結ぶ。


 紫電を纏わせ、全力で踏み込む。

 だが、八岐大蛇は受けない。


 避け、殴り、砕く。


 肋が潰れ、肺が裂け、

 呼吸が途切れる。


 ――死。


 何度目かも分からない。


 起き上がるたび、

 身体は動くが、心が摩耗していく。


 斬撃は届かない。

 技は読まれ、力は叩き潰される。


「本気を出してるか?」


 八岐大蛇は、嘲らない。

 だが、容赦もしない。


 次の瞬間、拳が腹を貫いた。


 視界が白くなり、

 地面に叩き伏せられる。


 ――死。


 それでも、立つ。


 剣を握る。


 紫電が走る。


 だが、八岐大蛇は倒れない。


 逆に、

 玄弥の攻撃を正面から受け止め、

 力でねじ伏せてくる。


 骨が砕ける音がした。


 霊力が霧散し、

 意識が遠のく。


「まだだ」


 八岐大蛇の声が、遠くで響く。


「これが全力だ」


 次の一撃で、

 玄弥は塵のように吹き飛ばされた。


 ――死。


 何度殺されても、

 八岐大蛇は手を抜かない。


 それが、試練だからだ。


 真剣勝負。

 命を賭けた、最後の修行。


 玄弥は立ち上がる。


 震える腕で、刀を構える。


 勝てない。

 まだ、届かない。


 それでも――

 ここで折れるわけにはいかなかった。


 何度目の死か、もう分からない。


 叩き伏せられ、

 斬り裂かれ、

 打ち砕かれ――そのたびに、地面に転がる。


 立ち上がる速度だけが、少しずつ早くなっていった。


 最初は、構える前に殺された。

 次は、踏み込んだ瞬間に潰された。

 やがて、一合だけ剣を交えられるようになる。


 だが、それでも――


 八岐大蛇は、常に一歩先にいる。


「遅い」


 その一言と共に、玄弥は吹き飛ばされる。


 ――死。


 再生。


 また、立つ。


 紫電を纏う《無垢》が、以前よりも静かに鳴っている。

 力を振り絞るのではない。

 身体が、霊力の流れを覚え始めていた。


 八岐大蛇が踏み込む。


 拳が来る。

 ――見える。


 避けるには遅い。

 だが、合わせることはできる。


 刀を振る。


 弾かれる。

 それでも、姿勢は崩れなかった。


 次の瞬間、反撃が来る。


 胸を貫かれ、視界が暗転する。


 ――死。


 起き上がる。


 呼吸を整える。


 今の一瞬、

 確かに“見えた”。


 次は、もう半歩。


 何十回、何百回と倒されるうちに、

 八岐大蛇の動きが、少しずつ輪郭を持ち始める。


 力じゃない。

 速さでもない。


 間だ。


 踏み込みの癖。

 肩の沈み。

 視線が逸れる一拍。


 その瞬間を、逃さない。


 八岐大蛇が来る。


 玄弥は、逃げなかった。


 正面から踏み込む。


 紫電が走る。

 《無垢》が、意志に完全に応える。


 刃を――振る。


 金属音。


 弾かれない。


 刃が、八岐大蛇の胴を掠めた。


 ほんの一太刀。

 血も出ない。

 致命傷には、程遠い。


 それでも。


 八岐大蛇の動きが、止まった。


「……」


 一瞬の沈黙。


 玄弥は、その場に膝をつく。

 全身が軋み、視界が揺れる。


 だが、倒れない。


 八岐大蛇が、ゆっくりと笑った。


「ようやくか」


 それは嘲りではない。

 初めて向けられる、対等な視線だった。


「今のは――届いた」


 玄弥は息を整え、刀を握り直す。


 まだ勝てない。

 だが、もう“無力”ではない。


 この世界で、

 初めて前に進んだ瞬間だった。


「……もういい」


 その言葉に、玄弥は思わず構え直したまま動けなくなる。


「終わりだ」


「……は?」


 息が乱れたまま、問い返す。


 八岐大蛇は、初めて背を向けた。


「これ以上は、やる意味がねぇ」


 沈黙。


 玄弥が口を開く前に、低い声が続く。


「合格だ」


 その一言が、胸に落ちるまでに、少し時間がかかった。


 ――合格。


 何に?

 いつから?


 そう思った瞬間、九尾の声が脳裏をよぎる。


「……気づいてないのか」


 玄弥は、ふと違和感を覚えた。


 身体は若いままだ。

 疲労も、痛みもある。


 だが――


「ここに来てから、どれくらい経ったと思う」


 八岐大蛇の問い。


 玄弥は、答えられなかった。


 季節は変わらない。

 空も、草原も、同じまま。


「……八百年だ」


 淡々と告げられる。


「この異界で、八百年余」


 言葉が、理解に追いつかない。


 三百年。

 それだけの時間、殺され続け、立ち上がり続けてきた。


 八岐大蛇は振り返る。


「もう、俺が教えることはねぇ」


 そして、はっきりと言った。


「これからは――対等だ」


 空気が変わる。


 圧ではない。

 威圧でもない。


 意思だ。


「契約する」


 八岐大蛇が、そう告げる。


「俺はもう、試す側じゃねぇ」


 地面に拳を突き立てる。


 霊力が、世界を震わせる。


「お前が死ぬ時は、俺も一緒だ。

 お前が立つ時は、俺も立つ」


 それは主従ではない。

 守護でもない。


 盟約だった。


 玄弥は、刀を地面に突き立て、頭を下げる。


「……頼む」


 それだけで、十分だった。


 八岐大蛇は笑う。


 豪快に、だがどこか楽しそうに。


「上等だ」


 次の瞬間、霊力が重なり合う。


 血ではない。

 言葉でもない。


 存在そのものを結ぶ契約。


 胸の奥に、確かな重みが生まれる。


 それは新しい力であり、

 同時に、帰るべき場所の印だった。


「行け」


 八岐大蛇が言う。


「外は、随分うるさくなってる」


 玄弥は、顔を上げる。


 もう迷いはなかった。


 八百年。


 それは修行の時間であり、

 人であることを捨てなかった証でもあった。



 契約が完全に定着した、その直後だった。


 玄弥の内側で、これまでとは質の違う霊力が蠢く。


 熱でも、冷気でもない。

 圧力――ただ存在するだけで、空間を歪める感覚。


「来るぞ」


 九尾の声が落ちる。


 同時に、玄弥の霊力回路が強制的に拡張された。


 これまで一本だった“通路”が、二股に分かれる。


 ――理解する。


 契約している妖獣が二体。

 顕在化できる霊装も、二つ。


 最初に応えたのは、すでに馴染んだ存在。


 刀《無垢》。


 紫電が刃を走り、いつも通りの姿で顕在する。


 だが、問題はもう一つだった。


 呼び出した瞬間、霊力を注いでいるはずなのに、逆に引きずり込まれる感覚。


「……これが」


 八岐大蛇の霊装。


 地面が、軋んだ。


 霊装が、静かに定着する。


 白。


 余計な意匠のない、白装束。

 八岐大蛇の霊力が、玄弥の全身を覆っていた。


 その瞬間――


 痛みが、引いた。


 斬り裂かれていた皮膚が、内側から縫い合わされる。

 砕けかけていた骨が、軋みながら正しい位置に戻る。

 内臓に残っていた損傷が、熱を帯びて再生していく。


「……回復、か」


 玄弥が低く呟く。


 だが、それは一般的な治癒とは明らかに違っていた。


 遅くない。

 慎重でもない。

 容赦がない。


 傷の状態など考慮せず、

 「生きた状態」に力ずくで戻す。


 その過程で走る激痛すら、回復の一部だと言わんばかりに。


 九尾が、目を細める。


「治癒術じゃない」


「“再生”に近い」


 正確には――戦闘用の回復。


 白装束は、霊力が続く限り、


 ・外傷

 ・内傷

 ・霊的損耗

 ・呪いによる肉体侵食


 それらを強制的に修復し続ける。


 毒も、麻痺も、出血も。

 致命傷ですら、霊力が残っていれば立て直す。


 ただし代償は重い。


 回復速度と引き換えに、

 霊力の消費は異常なまでに激しい。


「だから何度も死んだ」


 八岐大蛇が、当然のように言う。


「この霊装は“生き延びるため”じゃねぇ」


「殺し合いを続けるためのもんだ」


 白装束の内側で、心臓が力強く脈打つ。


 回復している。

 確実に、生きている。


 だが、霊力が尽きた瞬間――終わる。


 九尾が、静かに締めくくる。


「前に立つ者の霊装だ」


「退かない、折れない、倒れないための」


 玄弥は、拳を握る。


 刀《無垢》。

 雷の霊装《紫電》。

 そして――白装束。


 攻める力はある。

 耐える力も、手に入れた。


 残るは。


 この力で、何を斬るかだけだった。


もうすぐ特訓編は終わりです。

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