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霊力ゼロの陰陽師[★毎日更新★]  作者: テラトンパンチ
新たな出会い、妖獣 八岐大蛇 特訓編

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属性付与・紫電

 空気が重い。

 霊力の粒子が肌を刺すように漂う。

 遠くで風が揺れるたび、呪いがその気配を濃くする。


 玄弥は、刀《無垢》を握り締めた。

 刃の感触は、手の中で生きている。

 意思に呼応し、刀先が微かに震える。


 「……来い」


 鬼の姿を取った呪いが、影のように現れる。

 その瞳は、闇そのもの。

 動きは人間の常識を超え、刃の届く範囲にいるだけで身体の奥が冷たくなる。



 斬りかかる。

 無垢は意思のままに走る。

 霊力が刀身を伝わり、軌跡が光のように揺らぐ。


 だが呪いは、簡単には捕まらない。

 瞬間、玄弥の左腕を掠める霊撃が走り、痛みが脳まで届く。

 血が口元に滲む。

 だが倒れはしない。

 筋肉が覚え、体が刀の挙動を正確に補正する。



 呪いは鬼の手で斬撃を繰り出す。

 斬られれば身体が千切れる感覚、霊力が跳ね返る感覚――。

 玄弥は刀を横に振り、ぎりぎりで受け流す。

 刃と刃がぶつかるたび、霊気が火花のように迸る。


 「ぐ……!」


 攻撃を重ねるごとに、呼吸が荒くなる。

 腕は震え、足は限界近くの反応速度で動く。

 それでも、無垢は応えた。

 意思を持った刀として、彼の手の中で正確に刀身を走らせる。



 斬撃が命中した瞬間、呪いが微かにひるむ。

 だが、その隙を突こうとした瞬間、呪いが鬼の力をさらに引き出す。

 腕を振るうだけで、玄弥の周囲の空間が切り裂かれるように裂ける。

 地面が抉れ、霊気が渦巻く。

 刀を握る手に、全身の霊力を込めなければ耐えられない。



 玄弥は呼吸を整える。

 霊力を枯渇させる訓練で鍛えた体が、かろうじて刀に力を集中させる。

 刀《無垢》が振るわれるたび、斬撃が空気を裂き、呪いに刃の感触を伝える。


 だが、呪いは形を変え、攻撃の角度を変え、攻撃速度を上げてくる。

 避けても避けても、圧力は変わらない。

 意識が消えそうになり、血の味が口の中に広がる。



 ただ刀を振るうだけでは足りない。

 全身の霊力、全神経、全てを刀に注ぎ、攻撃の意思を乗せる。

 無垢は、刃先に彼の決意を反映する。


 斬撃が呪いの肩をかすめる。

 わずかにひるんだその瞬間を見逃さない。

 さらに力を込め、刃を突き立てる――

 だが呪いは、鬼の力でその攻撃を弾き、反撃を叩き込む。



 玄弥は地面に膝をつく。

 血が口元に滲み、視界がわずかに歪む。

 だが、刀はまだ手の中にある。

 霊力が尽きる寸前でも、意思が刀を生かしていた。


 呪いもまた、倒れはしない。

 鬼の力を増幅させ、形を変えて立ち上がる。

 だが、斬撃は以前より深く通るようになっていた。

 刀《無垢》と、修行によって鍛えられた霊力が、初めて呪いに“応えて”いる。



 玄弥は、荒い呼吸を整えながら刀を握り直す。


「……まだだ。……前より、行ける」


 呪いは消えない。

 だが、初めて同じ舞台に立てた感覚を、玄弥は覚えた。


 全身の血と霊力の痺れ、刀の感触、鬼の力の圧力――

 すべてが、戦いのリアルだった。


 ふと呼吸が、静まる。


 荒れていた霊力の流れが、嘘のように一つの線に収束していく。

 玄弥は刀《無垢》を握り直した――否、握り直す必要がなかった。


 力を込めていない。

 それでも刀は、彼の手の内にぴたりと収まっている。


 違和感が、消えた。


 刃の重さ。

 柄の感触。

 霊力の流れ。


 それらが「感じ取るもの」ではなく、最初から自分の一部だったかのように存在している。


 ――そう思った瞬間。


 無垢が、応えた。


 音はない。

 だが、確かに“通った”。


 玄弥の意思が、霊力を介さず、直接刀へ流れ込む。

 命令でも操作でもない。

 考える前に、刃が動く。


 踏み込もうと意識した瞬間、足が前に出ている。

 斬ろうと思った瞬間、刃が最短距離を走る。


「……そうか」


 呟きが、自然と漏れた。


 これが――宣誓の完成。

 刀をどう使うか、ではない。

 自分がどう在るかを、そのまま形にする霊装。


 無垢は、完全に玄弥と同期した。


 次の瞬間だった。


 刀身を流れていた霊力が、突如として性質を変える。

 熱でも冷気でもない。

 鋭く、速く、破壊的な――奔流。


 空気が震える。


 刃の縁を、淡い紫の光が走った。

 それは炎のように揺らがず、氷のように留まらない。

 一瞬で走り、消え、また走る。


 ――雷。


 玄弥自身にも分かる。

 これは誰かに与えられた力ではない。

 霊力の底を引き摺り出し、枯渇を超え、それでもなお前へ進もうとした結果――

 霊装が、新たな性質を受け入れた。


 雷は、制御されている。


 暴れ狂うことなく、刀身の内側を走るだけ。

 必要な瞬間にだけ、刃先へ集中する。


 斬撃を放てば、

 刃が届くより先に、空間そのものが裂ける感覚。


 試しに、軽く一振り。


 ――バチッ。


 乾いた音と共に、前方の地面が一直線に抉れる。

 焦げ跡が残り、遅れて雷鳴が響いた。


 玄弥は、静かに刀を構え直す。


「……名は紫電」


 名を口にした瞬間、

 雷はより明確に、刀の中で“居場所”を得た。


 名を与えられた力は、霊装の一部として定着する。

 無垢は基盤。

 紫電は、その上に刻まれた新たな機能。


 だが主従はない。

 すべてが、玄弥の意思の延長だ。


 玄弥は刀《無垢》を肩に担ぐ。

 紫電が、刃の内側で静かに走っている。


 まだ勝てない。

 だが――


 殺されるだけの戦いは、もう終わった。



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