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[★毎日更新★]霊力ゼロの陰陽師見習い  作者: 三科異邦
学園襲撃編

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堕落、一線を超えてしまった者

 授業が終わり、廊下にざわめきが戻る頃。

 男子生徒は誰よりも早く教室を出た。

 足りない。

 まだ、足りない。


 昨日飲んだ小瓶の薬。その一口で、世界は変わった。

 体の奥から湧き上がる霊力。

 呼吸一つで空気が重く感じられ、自分が“強くなった”と確信できた。


 だが、その感覚はもう薄れている。

 胸の奥が、空っぽだ。

 「……くそ」


 放課後の校門前。

 人混みの中で、彼は必死に周囲を見回していた。

 あの女だ。

 黒い髪で、やけに落ち着いた目をしてた。


 昨日、帰り道で声をかけてきた不審な女性。

 「強くなりたくない?」

 あの一言が、頭から離れない。


 校門、商店街、裏道。

 彼女が立っていそうな場所を、無意識に探している自分に気づき、歯噛みする。


 「……なんで、いないんだよ」


 苛立ちが募る。

 歩く速度が速くなり、肩がぶつかった相手を睨みつけてしまう。


 「チッ……前見て歩けよ」

 自分でも驚くほど、声が荒れていた。



 一方その頃。

 主人公は、学園の中庭を歩きながら、妙な違和感を覚えていた。

 ――空気が……ざらついてる。


 霊力が直接見えるわけじゃない。

 だが、以前から身についた“感覚”が、かすかな異変を拾っていた。


 視界の端。

 さっきすれ違った男子生徒――あの昼休みに嫉妬の視線を向けてきた人物。


 彼の周囲だけ、空気が不自然に揺れていた。

 濃く、重く、そして――どこか歪んでいる。

 (……あんな霊力、普通じゃない)


 特訓を積んだ者の整った流れでもなければ、契約霊の気配でもない。

 無理やり押し込めたような、雑で危うい力。


 男子生徒が誰かとぶつかり、舌打ちをする。

 その目が、一瞬だけ主人公を睨みつけた。

 ぞくり、と背筋が冷える。

 (……前は、あんな目じゃなかった)


 焦りと、苛立ちと、そして何かに“縋る”ような光。

 まるで、内側から別の何かに突き動かされているようだった。



 その夜。

 男子生徒は自室で、引き出しを何度も開け閉めしていた。

 空になった小瓶。

 底に残った、ほんのわずかな黒い液体。


 指でなぞり、舐める。

 わずかに感じる、あの力の名残。

 「……まだ、いけるだろ」


 誰に言うでもなく呟く。

 喉が渇く。頭が熱い。

 次は、もっと欲しい。

 あれがあれば、俺は……。


 自分が少しずつ変わっていることには、気づいていた。

 怒りっぽくなり、他人の言葉がやけに耳につく。

 それでも、止まれなかった。

 力を知ってしまったからだ。



 翌日。

 主人公は再び、彼の異変を感じ取る。

 廊下での小さなトラブル。

 体育の準備中に起きた口論。


 男子生徒の感情が高ぶるたび、霊力が乱暴に膨れ上がる。

 制御も、抑制もない。

 (……このままだと、まずい)


 理由はわからない。

 だが確信だけはあった。

 あれは、長く持つ力じゃない。

 むしろ、本人を壊す。


 主人公は、無意識に拳を握りしめていた。

 嵐の前触れのように。

 静かな学園の中で、確実に“何か”が育ち始めていた。


 夜の街は静かだった。

 街灯の光が路地に影を落とし、人通りはまばらだ。


 男子生徒は無意識のまま、足を進めていた。

 帰宅するつもりだったはずなのに、気づけば商店街の裏、昨日あの女に声をかけられた辺りに来ている。


 胸の奥が、熱い。

 頭の中がざわつく。

 足りない、まだ、全然足りない。


 拳を握ると、わずかに霊力が漏れた。

 それを感じ取って、彼は歪んだ笑みを浮かべる。

 「……やっぱ、俺には力が必要なんだよ」


 その時だった。

 「そう、その顔」


 背後から、落ち着いた声がした。

 はっと振り返る。

 路地の影から、黒髪の女性が姿を現す。


 昨日と同じ。

 いや、昨日よりも――はっきりと、異質だ。


 「探してたでしょ?」

 「……あ、あんた……!」


 女性はくすりと笑った。

 その笑みは優しいのに、どこか人間味が欠けている。


 「力を知った人間はね、必ず戻ってくるの。例外はないわ」


 彼女の手には、小さな革袋があった。

 中で、ガラス瓶が触れ合う音がする。


 ごくり、と喉が鳴る。

 「……それ……」


 「ええ。前より“効く”わよ」

 理性が、警鐘を鳴らす。

 危険だ、関わるな、やめろ――。


 だが、その声はあまりに弱かった。

 「……くれ」

 気づけば、そう言っていた。


 女性は満足そうに頷き、一本の小瓶を差し出す。

 「ただし、覚悟はある?」

 「もう、後戻りできない」


 男子生徒は一瞬、迷った。

 だがすぐに瓶を掴み取る。

 「……最初から、戻る気なんてねぇよ」


 その言葉を聞いて、女ははっきりと笑った。

 「いい子」



 その直後だった。

 路地の奥から、足音が聞こえた。

 酔った中年の男。

 仕事帰りだろう、ふらつきながら歩いている。


 「……あ?」

 男が、二人に気づいて眉をひそめる。


 「こんなとこで何やってんだ、学生が……」

 その瞬間。

 男子生徒の視界が、赤く染まった。


 ――邪魔だ。

 胸の奥から、強烈な衝動が湧き上がる。

 力が、溢れ出そうになる。


 「……どいてくれ」

 声が低く、掠れていた。

 「は? なんだその態度――」


 次の瞬間。

 男の体が、吹き飛んだ。


 霊力が、無意識に放たれたのだ。

 壁に叩きつけられ、うめき声を上げる中年男性。

 「……え?」


 自分が何をしたのか、一瞬理解できなかった。

 だが、倒れた男の胸から、淡く白い光が滲み出るのが見えた。


 ――魂。

 それを見た瞬間、体が勝手に動いた。


 「……あ」

 口が、勝手に開く。

 霊力が、魂に絡みつく。


 吸い上げる感覚。

 温かく、甘く、抗いがたい。

 「――っ、ああ……!」


 魂が引き裂かれ、体内に流れ込む。

 男の意識が急速に薄れていくのが、手に取るように分かった。

 「や、やめ……」


 声は途中で途切れた。

 男子生徒は、荒い息をつきながら立ち尽くす。

 全身が震え、だが同時に――満たされていた。

 「……すげぇ……」


 力が、さっきとは比べ物にならないほど強い。

 頭の奥が、冴え渡る。

 「これが……本物の力……」


 背後で、女性が静かに拍手をする。

 「おめでとう。初めての一歩ね」


 彼女の声には、わずかな高揚すら混じっていた。

 「もう、普通の人間には戻れない。でも――」

 近づき、耳元で囁く。


 「その代わり、“選ばれた側”になれた」

 男子生徒は、倒れた男を見下ろした。

 罪悪感は、ほとんどなかった。


 それよりも、胸に広がる万能感。

 「……次は、誰だ?」


 その呟きを聞いて、女は満足そうに微笑んだ。



 同じ夜。


 主人公は、自室で嫌な胸騒ぎを覚えていた。

 理由は分からない。

 だが、心の奥がざわつく。


 (……今、何か……)

 遠く。

 街のどこかで、霊力が“喰われた”感覚。

 冷や汗が背中を伝う。


 (まさか……)

 脳裏に、あの男子生徒の顔が浮かぶ。

 まだ、気づいていない。

 でも、確実にもう一線を越えた。


 夜は、静かだった。

 だがその闇の中で、確実に“怪物”が生まれつつあった。


お読みいただきありがとうございます。

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