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九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。[★毎日更新★]  作者: 三科異邦
九尾との出会い、覚醒編

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幕間 新たな四大天魔

 暗く広い館の一室。蝋燭の炎が揺れ、壁に映る影が揺れる。


 酒呑童子が椅子にもたれかかり、薄笑いを浮かべる。

 「ふふ……ついにか。あの青年、鬼の力に目覚めたらしいな」

 言葉に含まれるのは、羨望と悪意、そして純粋な好奇心。


 鵺は机に拳を置き、眉をひそめる。

 「……何だと? 私の部下がやられた、と?」

 報告を受けたばかりの衝撃が、表情に浮かぶ。


 酒呑童子はにやりと笑い、冷たく煽る。

 「そうだ。お前の部下が勝手に動き、あの尾と鬼化の兆候に触れた。どうやら青年は、制御は未熟ながらも鬼の力を手にしたようだ」

 言葉を聞いた鵺の目が一瞬鋭く光る。


 鵺は驚きの色を隠せず、息を呑む。

 「……な、何だと……奴が……」


 酒呑童子は背もたれに体を預け、両手を組んで笑う。

 「喜ぶべきことだろう、鵺殿。これほど面白い素材はなかなかいない。制御できず暴走しそうな力……想像しただけでワクワクする」


 鵺は唇を引き結び、目を細める。

 「……分かった。ならば私が直接――西園寺玄弥という者を消す」


 酒呑童子はさらに笑い、指先で鵺を軽く煽るように指す。

 「ほほう、宣言か。楽しみだな、鵺殿。鬼の力に目覚めた若者、どんな形で消えるのか……見ものだ」


 鵺は息を整え、鋭い目で答える。

 「手は抜かない。奴がどれだけ厄介でも、容赦はしない」


 館の奥深く、闇がひそやかに揺れる。

 この二人のやり取りが、やがて街での戦いに直接影響することを、誰もまだ知らなかった。


 酒呑童子の声が低く響く。

 「……全て、計画通りには進まないものだな。しかし、暴走する鬼の力を持つ青年……面白い、実に面白い」


 闇の中で、二人の視線はすでに次の標的――玄弥――に向けられていた。


采配


 夜は静かだった。

 だが、静寂とは秩序ではない。壊れる前触れに過ぎない。


 鵺は高殿の縁に腰を下ろし、眼下に広がる人界の灯りを眺めていた。

 人々の営み。無数の小さな光。

 それらは彼女の目には、壊す順番を待つ駒でしかない。


「……クソ、酒呑童子め」


 鬼の四天王の名を、吐き捨てるように口にする。

 あの男は面白がっている。

 鬼の力に目覚めた少年――西園寺玄弥の存在を。


 だが、鵺は違った。

 興味はない。ただ――危険だと判断しただけだ。


「制御できぬ力ほど、厄介なものはない」


 鵺は振り返る。

 闇の奥、膝をついて控えている影があった。


「来なさい」


 呼ばれて、影が前に出る。


 人の姿をしている。

 だが、人ではない。


 かつて人だったもの。

 欲望と絶望の果てに、力を求め、魔へと堕ちた存在。


「力をやろう。代わりに――仕事をしろ」


 影は顔を伏せたまま、かすれた声で答える。

「……御意」


 鵺はその姿を見下ろし、淡々と命じる。


「西園寺玄弥が住む街へ行け。

 ただし、すぐに殺すな」


 影の肩が、わずかに震える。


「まずは周囲からだ。

 学校、近隣、交友関係……

 彼の“日常”を、少しずつ壊せ」


 鵺の声は静かだった。

 だが、その言葉は冷たく、逃げ場がない。


「事故でもいい。病でもいい。

 霊障として処理される程度に抑えろ」


 影は理解した、というように深く頭を下げる。

「……恐怖を、植え付ければよろしいのですね」


「そうだ」


 鵺は微笑む。

 それは優しさではなく、確信の笑みだった。


「追い詰められた時、人は力を欲しがる。

 鬼の力を制御できぬ少年なら――なおさらだ」


 影は立ち上がり、その姿が揺らぐ。

 人の形が崩れ、魔物としての本性が一瞬だけ覗く。


「失敗したら?」


 鵺は一切迷わず答えた。


「消えるだけだ。

 元人間であろうと、価値は変わらない」


 影は笑った。

 かつて人だった頃の名も、感情も、そこにはない。


「……人の街は、壊しやすい」


 そう言い残し、影は闇へと溶けた。


 鵺は再び人界を見下ろす。


「西園寺玄弥……

 君が守ろうとするものが、どれほど脆いか」


 街の灯りが、風に揺れるように瞬いた。

 まだ誰も気づいていない。

 だが、すでに侵食は始まっている。


「次に会う時は――

 君が壊れる瞬間だ」


 鵺はそう呟き、闇に身を預けた。


――


午後の学園。窓の外には淡い陽光が差し込み、校庭の木々が揺れる。

 しかし教室の中では、落ち着かない空気が漂っていた。


 「ねえ、聞いた?」

 クラスの女子が小声で隣の友達に囁く。


 「何を?」

 友達が首をかしげる。


 「最近、霊力が急に上がる薬が出回ってるんだって」

 囁いた女子の目は、興奮と恐怖で揺れていた。


 「え、マジで?」

 別の男子が小さく目を見開く。


 「うん……でもさ、すごく危険らしいよ」

 女子は声をさらに潜める。

 「使いすぎると……人じゃなくなるんだって。力は莫大だけど、代償が……」


 教室の空気が、一瞬、ざわめいた。

 誰もがその“莫大な力”という言葉に心を惹かれつつ、恐怖も感じている。


 「人じゃなくなる……って、どういうこと?」

 男子の声は震えていた。


 「うーん……よく分からないけど、目や体が変わるらしい。制御できなくなるとか」

 女子は小さく肩をすくめ、さらに囁く。

 「一度使ったら、戻れない人もいるんだって」


 隣の机に座る別の生徒が、眉をひそめながら呟く。

 「……でも、力が手に入るなら、試す奴もいるんじゃないか?」


 「怖いけど、試したくなる……」

 女子は小さく唇を噛む。

 「力が欲しいなら、リスクを取るしかないのかも……」


 教室内には、好奇心と恐怖が入り混じった静かな波が広がる。

 誰も直接手を出したわけではないのに、噂は生徒たちの心を微かに揺さぶった。


 その中で、玄弥の名前はまだ出ない。

 しかし、街で異変が静かに起き、霊力の使い手たちの目にも、何か異常が映り始めていた。


 「……この力、手に入れたら、俺たちも……」

 誰かの呟きが風に乗り、窓の外へと消える。

 それは、まだ誰も知らない危険の前触れだった

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