仮初の力
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放課後、校舎の一室に学園の先生たちが集まった。
机の上には資料が広げられ、窓の外には夕暮れの光が差し込む。
「最近、巷で流行っているという薬の件だが……」
一人の中堅の教師が資料を指さし、口を開く。
「霊力を急激に上げられると噂されていますが、副作用も甚大で、身体や精神に取り返しのつかない影響を与える可能性があります」
別の教師が眉をひそめて続ける。
「生徒たちにこれを使わせてはいけません。急激に霊力が上がった場合、制御できず暴走する例も報告されています」
主任教諭が机を叩き、声を張る。
「覚えておけ。霊力は特訓でしか強くならない!薬や短絡的な方法で得たものはすべて仮初だ。仮初の力は必ず破滅に繋がる!」
部屋の空気が一瞬張り詰め、全員が真剣な表情で頷く。
「生徒たちにも、しっかりと注意喚起をしなければならない」
主任教諭は資料に目を落としながら続ける。
「放課後や休日、街中で怪しい薬や霊力を操作する話を耳にしたら、必ず相談させること。軽い気持ちで手を出すことの危険性を理解させるんだ」
若手教師が少し不安げに尋ねる。
「しかし、もし既に使ってしまった生徒がいた場合は……」
主任教諭は深いため息をつき、言葉を選ぶ。
「その場合も、まずは制御不能にならないよう監視し、できるだけ安全に力を収める訓練を施すしかない。力は訓練で育てるものだ。近道は存在しない」
会議は厳格な空気のまま続き、各教師は生徒への対応策を次々と確認していく。
窓の外の街灯が点き始め、静かに日が沈む中、学園の中で芽生えつつある危険に、教師たちは神経を尖らせていた。
翌日、男子生徒は早めに登校した。
心の奥で沸き上がる高揚感と、まだ制御しきれていない力を確かめたい衝動が彼を急がせる。
教室に入ると、普段通りの雑談や笑い声が響いていた。
だが、男子生徒にはその景色が遠く、すべての動きが力の感触として捉えられる。
机に座り、さりげなく手のひらを握る。
指先から微かに光が漏れ、空気がわずかに震えるのを感じる。
――まだ小さな力だが、自分のものだ。
胸の中で、先ほどの自宅での陶酔感が再び広がる。
授業が始まる前のわずかな時間、彼は密かに力を試す。
机の上の鉛筆やノートが、指先の霊力で浮き上がる。
小さく笑みを漏らす。
「……これで……少しは使える……」
だが、力を使うたびに制御が追いつかず、机の角にぶつかってノートが飛び散る。
隣の席のクラスメイトが驚いて振り向くが、男子生徒は平静を装い、何事もなかったかのように手を下ろす。
その時、教室の片隅にあった小さな観葉植物が、彼の意図せぬ霊力で揺れ、鉢が倒れそうになる。
慌てて手を伸ばすが、光の奔流は完全には止まらず、窓際の椅子にぶつかり、小さな音が響いた。
「……やっぱり、まだ完全には制御できない……」
男子生徒は拳を握りしめ、唇を噛む。
だが、その目は燃えていた。
――もっと力を使いこなしたい、もっと強くなりたい――
授業が始まると、彼はわずかに力を抑えながらも、心の中で満たされない渇望を強く感じていた。
小さな暴走はまだ誰にも気づかれないが、教室の空気の片隅には、既に異変の兆しが漂っていた。
昼休みの放送が終わり、授業が始まる直前。
教室に、学園の主任教諭が入ってきた。
普段とは違う厳しい表情で、全員の視線を集める。
「皆、聞いてくれ」
主任の声は静かだが、確かな重みがあった。
「最近、街や学園の周辺で、霊力を急激に高めるという薬が出回っているという報告がある」
生徒たちのざわめきが一瞬止まる。
「この薬は、決して手を出してはいけない。確かに短期間で力を得たように感じられるかもしれない。しかし……」
主任は一歩前に進み、机を叩く。
「その力は仮初のものでしかない。制御できず暴走することがほとんどで、身体や精神を破壊する危険がある!」
別の教師が補足する。
「霊力は特訓でしか強くならない。日々の努力で少しずつ培うものだ。薬や安易な方法で得た力は、長続きせず、危険性だけが残る」
主任は教室をゆっくり見渡す。
「力を求める気持ちは理解できる。しかし、焦って近道を選ぶな。誰も皆、最初は無力で、努力で強くなるんだ」
生徒たちは重く頷き、教室の空気は真剣そのものになる。
男子生徒も自分の胸に手を当て、小さな緊張と罪悪感を感じる。
――俺は、あの薬を……
――男子生徒side
主任の声が最後に響く。
「もしも、力に関する不安や誘惑を感じたら、必ず教師に相談すること。無理に自分を変えようとするな。力は、守るべきものだ」
教室に静かな沈黙が残ったまま、授業が始まる。
先生の声が教室に響く。
「霊力は特訓でしか強くならない!薬や安易な方法で得たものは仮初の力だ!」
男子生徒は胸の奥で、熱いものがこみ上げるのを感じた。
――仮初の力? あの感覚が仮初だっていうのか?
指先に残る霊力の余韻は、確かに自分のものだ。
それなのに、先生は自分を信じてくれない。
机を握る手に力が入り、指先が白くなる。
怒りと苛立ち、そして嫉妬。
――あいつら(玄弥たち)は、自然に強いんだろう……
――俺は、何もできなかった……
でも、今は違う。薬で得た力が胸を満たしている。
その感覚を、先生が「仮初」と切り捨てることに、抑えきれない反発が湧き上がる。
「……くそ……何で俺まで、そんな目で見られなきゃならねぇんだ……」
小さく舌打ちをする。心臓が高鳴り、血の熱さまで感じる。
理性の一角では注意の意味を理解している。
だがその声は、胸の奥で渇望する欲望にかき消される。
――もっと強くなりたい……
――誰にも負けたくない……
――あの無力な自分には、もう戻らない……
男子生徒の目に、ほんのわずかだが光が宿った。
怒りと反発が混じった、決意の光だ。
先生の言葉は届いたが、それを押し返す欲望の方が、今の自分には勝っていた。




