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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
学院襲撃編

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力の渇望

夕暮れの街路。

 一人の男子生徒が、重い足取りで帰宅していた。

 昼休みに見た玄弥とマトリたちの姿が、胸の奥に小さな炎を灯している。

 ――嫉妬と焦燥が入り混じる感情だった。


 その時、路地の陰から、低くうなる声が響く。

 「――チッ」

 影が揺れ、妖怪の姿が浮かんだ。


 「な、なに……!」

 男子生徒は思わず後ずさる。手には弁当しかない。

 妖怪は鋭い爪を振りかざし、唸り声を上げて迫ってくる。


 必死に逃げようとするが、背後に壁が迫り、立ち往生する。

 心臓は早鐘のように打ち、体が硬直する。


 その時、視界の端に人影が映った。

 「おい、大丈夫か?」

 玄弥が駆け寄る。霊力を手に集中させ、妖怪に立ち向かう。


 手を振ると、妖怪の動きが一瞬止まる。

 「……来るぞ!」

 玄弥の声に合わせ、妖怪が爪を振り下ろす。


 玄弥は基礎霊術で妖怪を弾き、短時間で退ける。

 男子生徒はただ立ち尽くすしかなかった。


 戦いが終わり、妖怪は姿を消す。街路には静寂が戻る。


 「……あ、ありがとう」

 男子生徒は膝に手をつき、息を整えながら小さくつぶやく。


 だがその声には悔しさが混じる。

 「クソ……力があれば……」


 助けられた情けなさと無力感が胸を締め付ける。

 それと同時に、心の奥底で、自分も力を手に入れたいという思いが静かに燃え上がる。


 夕暮れの街灯に照らされる彼の瞳は、決意の光を宿していた。

 この小さな出来事が、後に大きな行動へと繋がる――まだ本人はそれを知らない。


夕暮れの街路を一人、男子生徒は歩いていた。

 胸には先ほどの妖怪との遭遇で感じた焦りと無力感がまだ残っている。

 ――あの時、力があれば……


 ふと、街路の角から静かに声がかかった。

 「さっきのやり取り、見てたよ」


 振り向くと、長い黒髪に深い緑色の瞳を持つ女性が立っていた。

 柔らかい笑みを浮かべているが、どこか不気味な雰囲気が漂う。


 「キミさ……強くなりたくない?」

 問いかけは甘く、だが明らかに誘導的だ。


 男子生徒は一瞬、警戒した。

 普段なら、こういう不審な誘いは絶対に断る。

 だが、先ほどの妖怪との一件が頭をよぎる。


 「あ……強くなりたい……」

 思わず口から出た言葉に、本人も驚いた。

 胸の奥に潜んでいた焦りと悔しさが、素直な言葉に変わったのだ。


 女性は微かに笑い、袋から小瓶を取り出す。

 「じゃあさ……強くなるための薬、あるんだけど……いる?」


 その小瓶の中には、淡く光る液体が揺れている。

 男子生徒はためらいながらも、その光に目を奪われた。

 理性では断りたい気持ちもあった。だが、胸の中の渇望――誰かに守られるだけじゃなく、自分も強くなりたいという気持ちが勝った。


 「……ください」

 小さく呟き、手を差し伸べてしまう。


 女性は笑みを深め、小瓶を手渡す。

 「ふふ……これで、キミも少しずつ変われるわ」


 街路は静かで、遠くで子供の声が聞こえるだけ。

 男子生徒の胸の奥で、小さな決意と欲望が、密かに芽を出した瞬間だった。


 ――この一歩が、後に自分自身を大きく変える道の始まりになるとは、まだ誰も知らない。


男子生徒は自宅の自室に入ると、ドアを閉めて深く息をついた。

 手には、さっき街角で手渡された小瓶が握られている。


 机の上に小瓶を置き、しばらく見つめる。

 ――ここで、これを飲めば……俺は変われる。


 普段なら警戒して絶対に口にしなかっただろう。

 しかし、先ほどの妖怪との遭遇で感じた無力感が胸に残り、決意を促す。


 「……もう、逃げない」

 小さく呟き、液体を口に含む。


 苦みとともに、体中に熱が駆け巡った。

 胸の奥から何かが爆発するように溢れ、指先から光が漏れるように熱が伝わる。


 視界が鮮やかに広がり、音や風、家具のわずかな揺れさえ力の感覚として感じられる。

 これまでの無力さ、悔しさ、嫉妬――すべてが一気に力に変わる感覚だった。


 拳を握りしめ、低く唸る。

 「……これで僕も……いや……俺は最強だ……!」


 胸の高揚と陶酔に圧倒されながら、男子生徒は自室の中を歩き回る。

 机の角に手をぶつけても痛みを感じず、ただ全身に漲る力を確かめるように拳を握り直す。


 窓の外に映る夕暮れも、家具も、音も、すべてが自分の力の確認のように思えた。

 理性は薄れ、ただ己の最強感に浸る。


 小さな部屋に満ちる静寂の中で、男子生徒は力に酔いしれ、心の奥で小さく誓う。

 ――誰にも、もう負けない。

 ――この力で、俺は変わる――いや、支配する。


小瓶を飲み終え、男子生徒の体内で力が沸き上がる。

 胸の奥から全身に熱が駆け巡り、拳を握るだけで周囲の空気まで揺れる感覚があった。


 「……これで、俺は……」

 声が震える。だがその震えは恐怖ではなく、陶酔と高揚の震えだった。


 部屋の中で拳を振り上げてみる。

 掌からかすかに光が弾け、壁に当たると微かに亀裂が走る。

 思わず息を呑む。


 「……す、すげぇ……!」

 心の奥底で、先ほどの無力感が再び蘇る。だが今回は、圧倒的な力の興奮で上書きされている。


 机の上の書類や小物が風で舞うように揺れた。

 男子生徒は笑い声を上げながら、力の限界を試すように動き回る。

 しかし次第に、制御が効かなくなってくる。


 光の奔流は拳から腕へ、肩へと広がり、部屋の空間を圧迫する。

 壁や家具にぶつかるたび、少しずつ破損し、小さなガラスの破片が床に散らばる。


 「……うわ、やばい……」

 それでも止められず、力の奔流に身を任せる。胸の中で叫びたくなる衝動が湧き上がる。


 体感は高揚の極みだが、理性は少しずつ押し流されていた。

 「……俺は……最強だ……誰にも負けない……!」

 自室を蹴散らしながら、自分の強さに酔いしれる。


 しかし、突然、床に落ちたガラス片が手を切り、少しの痛みが現実に引き戻す。

 その瞬間、男子生徒はようやく息を整え、光の奔流を鎮める。


 膝をつき、荒い息を吐きながら呟いた。

 「……すごすぎる……でも……もっと……」

 胸の奥には、まだ満たされない渇望が残っていた。

 ――あの力がまだまだホシイ‥


 こうして一人堕ちていった。

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