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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日  作者: 三科異邦


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34/41

戦いのあと――力と、背後にあるもの

決勝戦の喧騒が去ったグラウンドには、まだ破壊の名残が色濃く残っていた。

 抉れた地面、焦げた砂、霊力の余波で歪んだ空気。


 西園寺玄弥は、保健室のベッドに横になりながら天井を見つめていた。

 胸の奥が焼けるように熱く、血管を霊力が流れるたびに疼く。

 尾を二本解放した代償は、想像以上に重かった。


 「……やっぱり、無茶した」


 呟いた瞬間、椅子に座っていたマトリが顔を上げた。

 「無茶……した、って……分かってたなら……」

 言葉は責める調子ではなく、ただ静かな心配だった。


 「でも、出さなきゃ……止められなかった」

 玄弥は視線を逸らす。


 刺客の異様な強さ。

 人の身体を器にしながら、冷たい妖気で満ちた存在。


 ――人ではない“何か”。


     ◆


 この学園は、日本に存在する陰陽師一族の子弟が集められた、対妖怪専門機関。

 外の世界では知られていないが、裏側では長い戦争が続いている。


 妖怪王を頂点とする魔王軍。

 人の世を侵食し、霊的支配を狙う異形の勢力。


 その直下に控えるのが――

 四天王と呼ばれる、妖怪王直属の最高幹部。


 酒呑童子。

 四尺坊。

 その他、名を秘した二柱。


 そして彼らに仕える無数の眷属と刺客たち。


 今回、学園に紛れ込んだ存在もまた、その一端だった。


 「……四天王の配下クラスだった可能性が高い」

 廊下で教師たちが話す声が、薄く扉越しに聞こえる。


 「生徒への憑依を許したのは問題だ」

 「魔王軍の動きが活発化している……」


 玄弥は目を閉じた。


 ――俺は、その戦争の中心に立たされている。


     ◆


 玄弥の血筋は、ただの陰陽師ではない。

 遥か昔、大妖怪・九尾を討ち倒した陰陽師の末裔。


 だがその功績ゆえに、妖怪王は呪いを残した。

 ――血脈に封印を刻み、力を眠らせる呪詛。


 それが解けたのは、皮肉にも

「助けた」九尾との契約によってだった。


 今、玄弥の内に宿るのは

かつて討たれたはずの存在――九尾の妖狐。


 一本の尾でさえ、常人離れした霊力。

 二本出せば、戦況を覆す力。


 だが代償は重い。


 霊力の逆流。

 精神への侵食。

 妖としての本能の混入。


 ――制御を誤れば、人である自分を失う。


     ◆


 「……怖かった?」


 マトリが、そっと尋ねた。


 玄弥は少しだけ黙ってから、頷いた。

 「自分が、何を壊すか分からなかった」


 尾二本を解放した瞬間、視界が赤に染まり、

周囲の声が遠ざかり、

ただ“破壊すべき存在”だけが見えていた。


 ――もし、マトリの声がなかったら。


 あのまま暴れていた。

 仲間さえ巻き込んでいたかもしれない。


 マトリは指先をぎゅっと握りしめ、言った。

 「でも……戻ってきた」


 玄弥を見つめる瞳には、逃げない意志があった。


 「玄弥くんは……戻ってきた。

 だから……大丈夫」


     ◆


 窓の外では、ムツミが風を弄びながら空を見上げている。

 「なんかさぁ……嫌な予感するんだよねー」

 教師に聞こえないよう小声で呟く。


 魔王軍の動き。

 四天王の刺客。

 学園への侵入。


 偶然ではない。


 ――狙いは、明らかに“玄弥”だ。


     ◆


 保健室に戻ったムツミが、軽い調子で言った。

 「ま、でもさ。生きてたんだからいいじゃん」


 玄弥は小さく笑った。


 だが胸の奥の疼きは消えない。

 尾を出すたびに、自分は人から遠ざかる。


 それでも――


 「……次は、もっと制御できるようになる」


 その言葉に、マトリは静かに頷いた。


 仲間がいる。

 守りたい日常がある。


 そして、背後には確実に迫る――

 魔王軍という巨大な影。


 戦争は、もう始まっている。


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