決勝戦序盤――異変の兆し
決勝戦のグラウンドは、昼の光を受けて輝いていた。
観客席は熱気で満ち、生徒たちの声援が渦巻く。
だが、その喧騒の中で、静かに異常な波動が漂っていた。
玄弥は深呼吸をし、尾を一本だけ出す。
まだ制御は不完全だが、昨日までの訓練の成果を信じる。
胸の奥に微かに残る熱を意識し、代償の兆候を抑えながら構える。
「行くよ」
マトリの声が控えめに耳に届く。
観客席の端に立つ彼女の瞳は、緊張と不安でわずかに揺れていた。
その視線が、玄弥の背中に小さな勇気を注ぐ。
ムツミは軽やかに風を巻き上げながら、楽しげに声をかける。
「さあ、今日も全力でいこうよ!」
その無邪気さは、戦場の空気をほんの少しだけ和らげる。
◆
相手チームがゆっくりと前に出る。
先鋒――生徒の動きは普通ではない。
霊力の波動が、人間離れして滑らかに流れ、攻撃のリズムが規則的すぎる。
尾一本だけでは対応が難しい――玄弥は直感で感じた。
「……何かがおかしい……」
防御の姿勢を取りながら、玄弥は心の中でつぶやく。
敵の剣の軌道、霊力の波動……微かに冷たさを帯びている。
身体がざわつき、背筋に軽い寒気が走る。
◆
序盤戦、尾一本での防御は精一杯だった。
剣を弾き、霊力波をかわすが、攻撃のたびに胸の奥に熱が走る。
代償の兆候はまだ微かだが、油断すると制御を失いかねない。
相手の霊力使いが霊波を放つ。
玄弥は尾で受け流そうとするが、一本だけでは完全には防げない。
体に微かな衝撃が走り、腕が少し痺れる。
「く……!」
歯を食いしばりながら、反撃のチャンスを探す。
ムツミは風を巻き上げ、砂や紙を舞い散らすことで相手の視界を揺らす。
小さな動きの狂いを作ることで、玄弥はなんとか優位を保つ。
◆
戦いの中盤、玄弥はわずかな隙を見つけ反撃に踏み切る。
尾の先端で剣を弾き、霊力の波動を押し返す。
しかし、相手はまるで人間の限界を超えたかのように攻撃を繰り出す。
防御一つ一つに全神経を集中させても、押される感覚が胸に残る。
マトリの視線が光る。
「……落ち着いて……焦らないで」
冷静な声が、玄弥の内面の焦りを少しだけ鎮める。
◆
試合が続くにつれ、違和感はさらに強まる。
相手の動きにはわずかに不自然な滑らかさがある。
霊力の波動は冷たく、規則的に体の感覚を揺さぶるように感じられる。
「……やっぱり普通じゃない……」
防御の度に胸の奥が熱くなる。
代償の兆候はまだ微弱だが、尾一本で押さえ込むには限界が近い。
しかし、玄弥は諦めない。
集中力を高め、尾を旋回させ、体を回転させながら攻撃を受け流す。
微かな隙をついて反撃を試みるが、相手は一歩も退かない。
◆
ムツミの風、マトリの声援――
それらを頼りに、玄弥はわずかに優位を作る。
しかし、胸の熱は強まり、全身に軽い痺れが走る。
尾一本だけでは力が足りず、このままでは勝てないという焦燥が胸を締め付ける。
試合終了まで残りわずか。
玄弥は尾の先端に意識を集中させ、反撃のチャンスを探す。
だが、相手の異常な反応――霊力の冷たさ、剣の滑らかさ、動きの速さ――
そのすべてが、次の行動を慎重にさせる。
――尾をもう一本、出すしかないかもしれない。
胸の奥に小さな疼きが走り、体が軽く震える。
尾を2本出すことは、代償の暴走につながる危険がある。
だが、このままでは試合を勝ち切れない。
玄弥は次の瞬間に備え、深く息を吸い込む。
仲間の声、観客の熱気、相手の冷たさ――
すべてが混ざり合い、次の行動の重みを増幅させていた。
決勝戦の序盤――まだ戦いは始まったばかりだが、異変の兆しは確実に、そして冷酷に漂っていた。




