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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日。陰陽師見習いが大成するまで。  作者: 三科異邦
九尾との出会い、覚醒編

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30/55

幕間:焦がれる影

 グラウンドの歓声が少しずつ落ち着き、休憩時間が始まる。

 3回戦を終えた玄弥たちは、汗を拭き、仲間と話す余裕を取り戻していた。

 マトリはそっと玄弥の隣に座り、無言で彼の動きを見守る。

 ムツミは元気いっぱいに、風で舞い上がる紙や砂を蹴散らしながら、仲間たちをからかうように笑う。


 一方、グラウンドの端の観客席。

 冷たい視線が人混みに紛れて、じっと玄弥を見つめる。


 灰色のコートを翻す影――四天王、四尺坊の直属の刺客だ。

 命令を受けず、自らの判断で動くため、普段より危険度は高い。

 その眼差しは、焦燥と計算が交錯していた。

 「……あの少年か……」

 小さくつぶやき、体を縮める。


     ◆


 その目の先、近くで控えていた普通の生徒が、わずかに心を揺らしていた。

 彼は、先ほどの戦いで玄弥の尾の動きを見て、無意識のうちに自分の力不足を感じていた。

 ――自分もあの力が欲しい。

 焦りと羨望が交錯し、胸の奥で小さな渇望が芽生える。


 刺客は、その微細な欲望の波を嗅ぎ取る。

 生徒の中に潜む未熟な霊力の渇き――それは、乗り移る絶好の隙。


 「……この力、借りよう」

 刺客は意識を伸ばし、霊的な糸のようなものを生徒に絡める。

 生徒の胸に小さな違和感が走る。心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。


     ◆


 生徒の内面では、混乱と葛藤が起きていた。


 「な、何だ……胸の奥が熱い……力が……!」

 思わず手を握りしめ、足元に力が漲る感覚に目を見開く。

 自分の霊力ではない――何か別の、冷たい力が体を支配していく。

 同時に、胸の奥で小さな疼き。危険を感じる体の感覚。


 しかし、欲望はそれを覆い隠す。

 「もっと……もっと強くなりたい……玄弥くんに……追いつきたい!」

 焦燥と羨望が混ざり合い、理性を押しのける。


     ◆


 刺客は生徒の意識を巧みに操る。

 彼の存在は、体の中に溶け込むように入り込み、霊力を注ぎ込む。

 その感覚は、全身に広がる熱と冷たさが交錯する。

 体は力に満ちるが、心は小さな恐怖を覚える。


 生徒は葛藤する。

 「……こんな力、危ない……でも……でも、玄弥くんに……追いつきたい!」

 理性と欲望の狭間で、体は震える。


     ◆


 刺客の存在は、まだ誰にも気づかれない。

 観客席のざわめき、試合の余韻、笑い声――すべてに紛れ込み、冷たい意識は生徒を支配する。

 しかし、潜む冷徹な視線は、決して逃げることなく玄弥を追う。


 「……次の決勝で……決着をつける」

 刺客は生徒の意識を通じ、静かに、しかし確実に計画を進める。

 その存在はまだ露見していないが、日常の裏で、次の戦いの影を着実に落としていた。


     ◆


 幕間の終わり。

 生徒は力を得たことで興奮しつつも、不安と恐怖に震えていた。

 玄弥たちはまだ知らない。

 次の決勝で、自分たちの前に現れる異常な力の影を。


 大会はまだ終わらない。

 しかし、日常の笑顔の背後には、冷たい影が確実に忍び寄っていた。

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