幕間:焦がれる影
グラウンドの歓声が少しずつ落ち着き、休憩時間が始まる。
3回戦を終えた玄弥たちは、汗を拭き、仲間と話す余裕を取り戻していた。
マトリはそっと玄弥の隣に座り、無言で彼の動きを見守る。
ムツミは元気いっぱいに、風で舞い上がる紙や砂を蹴散らしながら、仲間たちをからかうように笑う。
一方、グラウンドの端の観客席。
冷たい視線が人混みに紛れて、じっと玄弥を見つめる。
灰色のコートを翻す影――四天王、四尺坊の直属の刺客だ。
命令を受けず、自らの判断で動くため、普段より危険度は高い。
その眼差しは、焦燥と計算が交錯していた。
「……あの少年か……」
小さくつぶやき、体を縮める。
◆
その目の先、近くで控えていた普通の生徒が、わずかに心を揺らしていた。
彼は、先ほどの戦いで玄弥の尾の動きを見て、無意識のうちに自分の力不足を感じていた。
――自分もあの力が欲しい。
焦りと羨望が交錯し、胸の奥で小さな渇望が芽生える。
刺客は、その微細な欲望の波を嗅ぎ取る。
生徒の中に潜む未熟な霊力の渇き――それは、乗り移る絶好の隙。
「……この力、借りよう」
刺客は意識を伸ばし、霊的な糸のようなものを生徒に絡める。
生徒の胸に小さな違和感が走る。心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。
◆
生徒の内面では、混乱と葛藤が起きていた。
「な、何だ……胸の奥が熱い……力が……!」
思わず手を握りしめ、足元に力が漲る感覚に目を見開く。
自分の霊力ではない――何か別の、冷たい力が体を支配していく。
同時に、胸の奥で小さな疼き。危険を感じる体の感覚。
しかし、欲望はそれを覆い隠す。
「もっと……もっと強くなりたい……玄弥くんに……追いつきたい!」
焦燥と羨望が混ざり合い、理性を押しのける。
◆
刺客は生徒の意識を巧みに操る。
彼の存在は、体の中に溶け込むように入り込み、霊力を注ぎ込む。
その感覚は、全身に広がる熱と冷たさが交錯する。
体は力に満ちるが、心は小さな恐怖を覚える。
生徒は葛藤する。
「……こんな力、危ない……でも……でも、玄弥くんに……追いつきたい!」
理性と欲望の狭間で、体は震える。
◆
刺客の存在は、まだ誰にも気づかれない。
観客席のざわめき、試合の余韻、笑い声――すべてに紛れ込み、冷たい意識は生徒を支配する。
しかし、潜む冷徹な視線は、決して逃げることなく玄弥を追う。
「……次の決勝で……決着をつける」
刺客は生徒の意識を通じ、静かに、しかし確実に計画を進める。
その存在はまだ露見していないが、日常の裏で、次の戦いの影を着実に落としていた。
◆
幕間の終わり。
生徒は力を得たことで興奮しつつも、不安と恐怖に震えていた。
玄弥たちはまだ知らない。
次の決勝で、自分たちの前に現れる異常な力の影を。
大会はまだ終わらない。
しかし、日常の笑顔の背後には、冷たい影が確実に忍び寄っていた。




