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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日  作者: 三科異邦


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最弱の契約者と、最初の戦い

森の奥から、嫌な気配が滲み出していた。


 空気が重い。

 霊が濃すぎて、喉の奥がひりつく。


「……来る、って」


 息を整えようとするが、心臓がうるさくて集中できない。

 視える。

 霊が、今まで感じたこともないほど鮮明に。


 それだけで、頭が混乱する。


『慣れるな。今はまだ、封が半端に解けただけだ』


 葛葉の声は落ち着いていた。


『貴様の霊脈は細い。

 一度に力を流せば、内側から壊れる』


「じゃあ、どうすればいい」


『――考えろ』


 低く、鋭い声。


『陰陽師は、力で戦うものではない』


 その言葉が、胸に落ちた。


 次の瞬間――

 闇の中から、それが姿を現した。


 猿に似た体躯。

 だが四肢は異様に長く、背中には黒い霧がまとわりついている。


「……妖怪」


 しかも、一体じゃない。


 木々の影から、二体、三体。

 合計で五。


 どれもこちらを“獲物”として見ている。


『下位だが、数で押してくるタイプだ』


「……初陣にしては、きつくないか」


『死なねば問題ない』


 軽く言うな。


 妖怪たちが、一斉に地を蹴った。


「――っ!」


 本能的に後退する。

 だが足がもつれ、転びかけた。


 その瞬間、黒い腕が迫る。


「くそっ……!」


『符を使え!』


 叫ばれて、思い出す。

 腰の符袋。


 引き抜いた霊符を、反射的に地面へ叩きつける。


「――鎮!」


 術式は、頭に流れ込んだまま。

 意味も分からず、ただ“なぞる”。


 地面が、わずかに光った。


 次の瞬間、妖怪の足が止まる。

 完全ではないが、動きが鈍る。


「効いてる……?」


『当然だ。貴様の符は、血が違う』


 だが、喜ぶ暇はない。


 二体が左右から迫る。

 距離が近すぎる。


「どうする!」


『力を借りろ。ほんの一滴でいい』


「無理だって言っただろ!」


『流すな。通せ』


 言葉の意味が分からない。

 だが、やるしかない。


 胸の奥を意識する。

 封が軋む場所。


 ――触れるな。

 ――触れすぎるな。


 そう念じた瞬間、体の表面を何かが走った。


「……っ!」


 視界が、赤く染まる。


 熱じゃない。

 圧だ。


 妖怪の一体が、吹き飛んだ。


「な……」


 自分が、殴った?


 いや、違う。

 触れただけで、弾き飛ばした。


『それだ』


 葛葉の声が、わずかに笑う。


『我の力を“纏え”。

 使うな。借りるな。――着ろ』


「無茶言うな!」


 だが、理解はできた。


 力を内に流すんじゃない。

 外側に、薄く張る。


 妖怪が、再び襲いかかる。


 今度は、逃げなかった。


「――来い!」


 腕で受ける。


 衝撃。

 だが、痛みはない。


 黒い霧が弾かれ、妖怪の体勢が崩れる。


『今だ』


 地面に符を投げる。


「――縛!」


 光の鎖が走り、二体を絡め取る。


 残り三体が、怒り狂ったように叫び声を上げた。


 霊気が跳ね上がる。


「やば……!」


『欲張るな、玄弥!』


 その声と同時に、視界が揺れた。

 膝が落ちる。


 力を使いすぎた。


 妖怪が迫る。

 距離、三歩。


「……終わり、か」


 その瞬間。


『――尾を一本、貸す』


 世界が、静止した。


 黄金の光が、背後に揺らめく。

 幻のような、一本の尾。


「……!」


 無意識に、手を振った。


 風圧。

 衝撃波。


 妖怪たちが、一斉に吹き飛び、木々に叩きつけられる。


 霊気が霧散し、森が静まり返った。


 俺は、その場に崩れ落ちる。


「……は、はは」


 笑うしかなかった。


 勝った。

 生きてる。


『……上出来だ』


 葛葉の声は、少しだけ疲れていた。


『今の貴様は、最弱の契約者だ。

 だが――』


 黄金の気配が、静かに引いていく。


『“無能”ではない』


 その言葉を聞いた瞬間、

 胸の奥が、じんと熱くなった。


 初めてだ。

 誰かに、そう言われたのは。


 森の闇は、まだ深い。

 敵も、きっとこれで終わりじゃない。


 それでも。


 俺は立ち上がった。


「……行こう、葛葉」


『ああ』


 こうして、

 最弱の陰陽師と九尾の戦いは、確かに始まった

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