模擬戦大会
学園のグラウンドには、普段とは違う空気が漂っていた。
半年に一度行われる「模擬戦大会」の日。
生徒たちは整列し、各々が武器や霊具、霊力を調整している。
玄弥は少し緊張しながらも、尾の制御訓練の成果を思い返す。
尾はまだ一本だけ。制御は完璧ではない。
だが、昨日までの訓練で得た感覚を信じるしかない。
胸の奥に軽く疼く熱を意識しながら、玄弥は深呼吸をした。
マトリは少し離れた場所で、手を組みながら応援している。
不安と期待が混じった表情だ。
「玄弥くん、無理しないで……でも、頑張って」
小声でつぶやき、視線をそらす。
ムツミはすでに活気あふれる笑顔で走り回り、風を巻き起こしていた。
髪が揺れ、制服のスカートが軽やかに舞う。
「さあ、今日は楽しく行こうよ!風の魔法も使わせてもらうから!」
戦闘の準備も兼ねて、場を盛り上げるムツミの存在が、緊張を少し和らげる。
◆
大会は個人戦ではなく、ペア戦形式。
玄弥のパートナーはまだ決まっていない。
周囲を見回すと、ミユキが冷静に他の生徒の動きを分析していた。
彼女のドライな視線は、戦術や強さを測るようで、観戦だけでも緊張感が伝わる。
試合開始の号令が響く。
玄弥は尾を一本出して、防御と動きを確認する。
刺客ではない、相手は同じ学園の生徒だが、油断はできない。
◆
第一試合、玄弥の相手は俊敏な剣術使い。
序盤から攻撃を仕掛けられ、尾を一本出して防御。
しかし、体内の熱が胸に残り、呼吸が乱れる。
代償はまだ微かに体を締め付けるようだ。
ムツミは風の力で砂を舞い上げ、相手の視界を少しだけ遮る。
「ほら、これで少しは動きやすくなるでしょ!」
無邪気な声と風の揺れが、玄弥を少し助ける。
玄弥は尾を旋回させ、相手の剣撃をかろうじて受け流す。
だが、一本の尾では攻撃力が十分ではない。
体が重く感じ、心臓が早鐘を打つ。
◆
「玄弥!タイミングは、今!」
マトリの小声が耳に届く。
彼女は応援というよりも、戦局を静かに観察し、助言を送ってくれているのだ。
その声に背中を押され、玄弥は尾を使った反撃に踏み切る。
一撃。尾の先端が相手の剣を弾き、バランスを崩す。
動きが止まった隙をつき、玄弥は再度尾を使おうとする。
体に小さな熱が走り、代償の兆候がうっすら現れる。
――しかし、ここで止まるわけにはいかない。
尾一本で相手の攻撃を受け流し、反撃のチャンスを作る。
息を整え、集中を最大に高める。
風を操るムツミが、紙や砂を巻き上げて視界を制御。
相手は混乱し、玄弥にわずかな優位が生まれる。
◆
マトリは息を呑む。
「……玄弥くん、落ち着いて……」
彼女の心配と信頼が入り混じった視線は、玄弥の心を少し軽くする。
最後の一瞬、玄弥は尾の感覚に全神経を集中させ、一本の尾で相手の剣を弾く。
相手はバランスを崩し、膝をついた。
試合終了の笛が鳴る。
観客からの歓声。玄弥は息を荒くしながら、尾を引っ込める。
体の奥に小さな熱と痛みが残るが、制御の感覚は昨日より少し掴めた気がした。
◆
試合後、玄弥はマトリと目を合わせる。
「……ありがとう、声かけてくれて」
マトリは少し赤面しながらも微笑む。
「……当然です。無事でよかった」
ムツミは元気いっぱいに駆け寄る。
「ふふ、私も手伝えて楽しかった!次はもっと風を使ってやるから!」
玄弥は笑みを返しながら、少しだけ自信を感じる。
大会はまだ始まったばかり。
だが、仲間との連携、尾の制御、代償の感覚――
すべてが少しずつ、玄弥を成長させている。
戦いの影は依然残る。
しかし、今日の日常と大会の中で、光も少しずつ差し込み始めていた。




