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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日  作者: 三科異邦


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24/36

少しずつ、心を通わせる日

朝の教室に差し込む光はいつもと変わらない。

 だが、玄弥には違って映る。昨日までとは何かが少し違う、微妙な空気。


 胸の奥にまだ熱が残っている。尾を一本出した代償――筋肉の微かな痙攣、胸の奥の違和感、精神にじわりと忍び寄る疲労。

 呼吸を整えようとしても、完璧には落ち着かない。


 机に座ると、クラスメイトたちの視線が微妙に自分を避けるように感じる。

 何かを察しているのか――戦闘を見たわけではないのに、空気が少し変わっているのだ。


 マトリは遠慮がちに机の端から見ている。

 視線が合うとすぐに逸らす。

 でも、今日は少しだけ勇気を出したのかもしれない。

 彼女の目には、少しの不安と好奇心が混じっている。


「……昨日は、大丈夫だったんですか?」


 小さく震える声。

 不安と、踏み込めないもどかしさが交じる。

 玄弥は肩をすくめて短く答える。

 「……ああ、なんとか」


 その返事だけで、マトリの表情に少し安堵が浮かぶ。

 窓の外から射す朝日が、二人の距離をそっと照らしているようだった。


     ◆


 授業中も、胸の奥の熱が微かに疼く。

 尾の代償が静かに忍び寄り、心拍を速める。

 鉛のように重い身体を動かすだけで、息が乱れる。

 それを悟られないように気を張る。


 小声でつぶやくクラスメイト。

 「玄弥、様子がおかしいぞ」

 興味半分、不安半分――だが、玄弥は反応しない。

 言葉にすれば、自分の弱さを認めることになる気がした。


 一方、ミユキは淡々とノートを取る。

 言葉は少ないが視線は時折玄弥に向く。

 「顔色、悪いな」――小さくつぶやくだけで、心配は表に出さない。

 そのドライな距離感が、逆に玄弥には安心だった。


     ◆


 昼休み、玄弥は教室の片隅でノートをまとめていた。

 マトリがそっと近づく。


「……あの、もしよかったら、少し一緒に帰りませんか?」


 言葉は小さいが、意志は明確だ。

 普段なら自分から距離を置くマトリが、こうして歩み寄ってくれる――

 そのことだけで、玄弥の胸は少し温かくなる。


「……いいよ」


 短く答え、立ち上がる。

 廊下に出ると、昼休みのざわめきが残る。

 だが二人の間には、静かで柔らかな時間が流れた。


     ◆


 校庭を歩きながら、玄弥は尾のこと、昨日の戦闘のことを頭の片隅で思い返す。

 代償の熱、胸の奥の痛み――

 それを意識させないように振る舞う努力が必要だった。


「……玄弥くん、本当に大丈夫ですか?」


 マトリは少し不安げに視線を上げる。

 その目には、信頼と安心が少しずつ混じっていた。


「大丈夫。ちゃんとやれるから」


 短く言ったその一言で、マトリの肩の力が抜ける。

 彼女の顔が柔らかくなるのが、玄弥にはわかった。


     ◆


 帰り道、二人は無言で歩く。

 沈黙は悪くない。互いの存在を静かに確認し合う時間だ。


 マトリは少しずつ口を開く。

 「……昨日、見てました。玄弥くん、すごかったです……」


 玄弥は少し照れ、短く答える。

 「……一本だけだけど、まあね」

 自然な笑みが零れる。


 マトリは顔を赤らめ、小さく微笑む。

 その瞬間、玄弥は思った。戦いの後でも、日常の中で少しずつ心を通わせられるのだと。


     ◆


 赤く傾く夕陽。

 日常は穏やかに流れ、帰宅の足音が校庭に響く。

 だが玄弥の胸の奥には、戦いの影がちらつく。

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