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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日  作者: 三科異邦


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23/39

日常の中の影と重み

翌朝、教室に差し込む光はいつも通りだ。

 しかし、玄弥の視界には少し違った光景が映っていた。


 昨日の戦闘で尾を一本使った代償が、体と心にまだ残っている。

 胸の奥の血の熱、腕や脚の微かな痙攣、そして何より精神の疲労――

 呼吸を整えても、心が完全には落ち着かない。


 机に座ると、クラスメイトたちの視線が、微妙に自分を避けるように感じた。

 戦闘を目撃したわけではないのに、何か違和感が漂っている。

 まるで、昨日までとは違う空気に気づかれているかのような感覚だ。


 マトリは少し離れた席から、遠慮がちにこちらを見ている。

 表情には不安が混じっているが、踏み込む勇気はまだないようだ。

 一方で、ミユキはドライに、ノートを取る手を止めず、だが目だけはチラチラと玄弥を追っている。

 無言の観察――彼女なりの距離感だ。


     ◆


 授業中も、胸の奥の熱が微かに疼く。

 尾の力を使った代償が、まるで影のようにまとわりついている。

 鉛のように重い身体を動かすだけで、呼吸が荒くなる。

 しかし、それを悟られないように気を張る。


 「玄弥、何か様子がおかしいな……」


 小声でつぶやくのは隣の席の男子生徒。

 興味半分、不安半分――

 だが、玄弥は答えない。

 言葉にすれば、自分の弱さを認めることになる気がした。


     ◆


 放課後、玄弥は校庭の端に座り込み、昨日の戦闘を反芻する。

 尾1本で刺客を倒せたことは確かに自信になった。

 だが、代償は大きかった。


 身体の痛みだけではない。精神的な負荷も、しっかり残っている。

 尾を使うたびに、何かが削られる感覚――記憶なのか、感情なのか、それとも存在そのものか。

 考えるだけで、胸がざわつく。


 遠くからマトリの声が届く。

 「玄弥くん……また、訓練ですか?」


 少し震える声。

 不安と、踏み込めないもどかしさが混ざっている。

 玄弥は軽く手を振るだけで答える。

 「……ああ、少しだけ」


 言葉は短く、表情は疲労に沈む。

 無理に笑うことはできない。

 マトリはそっと背後に立ち、静かに見守るだけだ。


 一方、ミユキは距離を取り、冷静に観察する。

 言葉は少ない。だが視線は外さない。

 「……顔色、悪いな」とだけ小さく呟き、ノートに目を戻す。

 無関心のようで、やはり見ている――そんな距離感が、玄弥にはありがたかった。


     ◆


 夕陽が西に傾き、校庭の影が長く伸びる。

 生徒たちは日常に戻り、笑い声や帰り支度の音が教室に響く。

 しかし玄弥の胸の奥には、戦いの影が残っている。


 彼はゆっくり立ち上がり、拳を握る。

 尾の力と代償の重みを思い返す。

 痛みはまだ残るが、それを制御する意志も生まれている。


 ――尾1本でも戦いを切り抜けられた。

 でも、制御できなければ、次は勝てない。

 代償を受け入れ、力を正しく使えるようになる――

 それが今、目の前の課題だ。


     ◆


 帰路、玄弥はふと家族のことを思い出す。

 父や母は、自分の能力のことは何も知らない。

 それでも、いつか理解してもらえる日が来るのだろうか。

 尾の力の代償、戦う覚悟――

 それを話せる日が来るのか、わからない。


 しかし、今はまだ、日常の空気に身を委ねるしかない。

 赤く染まった空を見上げ、風に揺れる木々の葉を眺める。

 平穏な日常は、まるで戦いの影を知らないかのように続いている。


 だが、玄弥の胸には確かな決意がある。

 ――この日常を守るために、尾を使いこなし、代償を受け止める。

 力を完全に制御できるようになるまで、戦いはまだ終わらない。


 拳を握り直す。

 胸の奥の熱と痛みを抱えながら、今日も一歩を踏み出す。

 戦いは、まだ序章。

 だが、前に進んでいるという実感が、確かにあった。


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