戦いを終えて
翌日の放課後。校庭には人影もまばらで、風が少し冷たく吹き抜ける。
玄弥はひとり、校庭の端に立ち、尾の力を意識していた。
昨日の戦闘で尾1本を使った代償はまだ胸の奥に残り、全身の筋肉も微かに痙攣している。
――でも、これ以上放置はできない。
尾を制御できなければ、次の戦いでは勝てない。
深く息を吸い、霊力を体内に巡らせる。
尾を一本だけ、ゆっくり呼び出す。
赤く光る尾が背後から伸びると、胸の奥に痛みが走った。
血の熱が全身を駆け巡る。
「……くっ……! まだ……痛い」
だが、尾を引っ込めるわけにはいかない。
一本でも、防御と攻撃の基礎になる。
玄弥は尾を微妙に動かし、空気を切る感覚を確かめる。
◆
尾を旋回させ、前後左右に動かす。
一本だけでは反応が遅く、体のバランスを崩す。
胸の奥の痛みは増すが、意識を集中させて霊力の流れを体と尾で同期させる。
「……ここで止まったら……意味がない……」
尾の先端を見つめ、針の軌道を想定して空中に動かしてみる。
光の帯が尾の先に沿って揺れ、まるで触れた空気が熱を帯びるようだ。
身体の奥で代償の痛みが疼く。
尾を使う度に、心臓が早鐘のように打つ。
だが、痛みと戦いながらも、少しずつ尾の動きが身体に馴染んでくるのを感じる。
◆
そのとき、クラスの数名が偶然校庭に来てしまった。
マトリは遠慮がちに顔を出す。
「玄弥くん……ここで何やってるんですか?」
声は小さく、少し不安げだ。
だが、戦闘のことは知らない。
玄弥は軽く手を振り、尾の動きに集中を戻す。
一方、ミユキは冷静な表情で遠くから観察している。
言葉は少ない。
「……また無茶してんのか。まあ、見てりゃ勝手に学ぶだろ」
ドライで突き放すような言い方だが、視線は玄弥から離さない。
その視線が、尾を制御する集中力を乱すことはなかった。
◆
玄弥は尾を前後に振り、左右に旋回させる。
一本の尾で防御、攻撃、霊力の圧を体内に返す――
全身の筋肉が痛みを訴え、胸の奥は熱を帯びる。
だが、昨日の戦いの感覚を思い出すと、少しずつ呼吸と動きが同期し始める。
小さな成功を一度感じると、尾の動きは少し滑らかになる。
だが、代償の痛みは相変わらず大きく、尾を長く使えば全身の力が抜けそうになる。
◆
玄弥は息を切らし、尾を引っ込める。
胸の奥は熱く、腕も痙攣している。
だが、わずかに得た手応えは確かだ。
一本の尾でも、少しずつ自分の意志で動かせるようになった。
マトリが少し安心した顔でうなずき、ミユキは冷静に視線を外す。
それぞれの距離感――不安と冷静――が、玄弥にとって心地よい支えとなる。
◆
夕陽は西に傾き、影は長く伸びる。
クラスや学院の日常は、まるで昨日の戦いを知らないかのように穏やかに流れている。
しかし、玄弥の胸の奥には、尾の力と代償、戦いの手応えが刻まれている。
――次に尾を使う戦いでは、もっと制御できるようにならなければ。
代償を抑え、力を自在に使えるようになるために、修行はまだ始まったばかりだ。
拳を握り、静かに息を整える。
尾1本の力を、完全に自分のものにする日を想像しながら、玄弥は再び校庭を見つめた。
戦いはまだ序章――
だが、確実に一歩、力を手に入れた自覚が胸にあった。




