幕間、潜む影
グラウンドの観客席は、昼下がりの光に照らされていた。
前半戦を終え、玄弥たちは短い休憩時間を取っている。
息を整えるために座る者、装備を見直す者、友人と笑い合う者――
日常のような雰囲気が大会会場を包んでいた。
だが、その光景の端で、誰も気づかない影が動く。
灰色のコートを翻し、フードで顔を隠した人物。
足音はなく、風に紛れるようにゆっくりと、観客席をすり抜ける。
目の端には、戦闘の興奮で浮かれる生徒たちが映る。
刺客は、四大天魔の一人、四尺坊の直属妖怪。
普段なら命令を待つが、焦りから玄弥の行方を探していた。
観客のざわめきや歓声に紛れ、彼は冷たい目を光らせる。
「……ここか」
低くつぶやき、周囲を確認する。
空気に微かな異変が走る。
普通の生徒には何も感じられないが、霊力の感覚が敏感な者なら、背筋に寒気が走るような……そんな気配。
刺客は人混みに紛れ、微かな霊力の波を探る。
誰にも気づかれないよう、視線を合わせず、動きを最小限にする。
その冷徹さは、観客の楽しげな笑顔と対照的だった。
一方、玄弥たちはまだ休憩していた。
マトリは、前回の戦いでの玄弥の動きを思い返し、無意識に小声でつぶやく。
「……あの動き、やっぱりすごかった……」
ムツミは軽口を叩き、風で砂を舞い上げて笑う。
「ねえ、次の試合も楽しみだよね!」
その無邪気さに、周囲の生徒たちも自然に笑顔になる。
だが、その楽しげな空間の端で、刺客は静かに息を潜める。
尾一本を出す玄弥の制御も知らない、観客に紛れた危険――
その存在が、まだ誰にも気づかれていないのだった。
刺客は一瞬、風に紛れて観客の列を抜け、グラウンドの端で様子を窺う。
前半戦の戦いの残り香――霊力の残滓が空気に微かに漂う。
その波を嗅ぎ分けるように、彼は玄弥の匂いを探す。
目の奥に冷たい光と緊張感。
「……そうだな、そろそろ行動を開始するか」
小さな声でつぶやき、妖怪は動き出す準備を整える。
会場では、観客も選手もまだ気づいていない。
生徒たちの笑顔、試合の興奮すべてが、刺客の冷たい 刺す様な視線に晒されていることを知らない。
遠くでムツミが笑い声を上げる。
マトリは静かに玄弥を見守る。
そして玄弥は次の試合に備えようとしていた。
影は確実に近づいている。
その存在は、日常の楽しさに紛れ込みながら、
静かに、確実に――。




