限界
大阪での戦いが終わって、まだ十分も経っていなかった。
六人は、その場で休んでいた。地面に座り込んで、息を整えている。霊力を、かなり使い果たしていた。
「……疲れたわね」
ミユキが呟いた。
「そうですね……」
ナギサも疲れた顔をしている。
その時。
玄弥の携帯が、また鳴った。
炎下家当主からだった。
玄弥は、嫌な予感がした。
でも、電話に出た。
「はい」
「西園寺くんか。すまない、また頼みたいことがある」
玄弥の表情が、曇った。
「……どこですか」
「名古屋だ。複数の妖怪が現れた」炎下家当主の声が、申し訳なさそうだった。
「名古屋の陰陽師が対処しているが、妖怪が強すぎて……」
玄弥は、五人を見た。
みんな、疲れ切っている。でも、行くしかない。
「……わかりました。すぐに向かいます」
「すまない。頼む」
玄弥は、電話を切った。
五人に、状況を説明する。
「名古屋に、妖怪が現れた」
ミユキが、立ち上がった。
「……また?」
「ああ」
「でも、あたしたち、もう霊力がほとんど残ってないわよ」
「わかってる。でも、行くしかない」
ナギサも、立ち上がった。
「行きましょう。他に、誰もいないんです」
ムツミも、頷いた。
「そうね。あたしたち、頑張らないと」
ユカリも、小さく頷いた。
「わ、私も、頑張ります」
葛葉が、結界を張った。
六人は、一瞬で名古屋に転移した。
名古屋の市街地。
そこに、四体の妖怪が現れていた。
一体目は、巨大な熊の妖怪だった。
体長四メートルほど、黒い毛並み、鋭い爪、赤い目をしている。
二体目は、猿の妖怪だった。
身長二メートルほど、長い腕、鋭い牙、素早い動きをしている。
三体目は、虎の妖怪だった。
体長三メートルほど、黄色い毛並みに黒い縞模様、鋭い牙と爪を持っている。
四体目は、狐の妖怪だった。
体長二メートルほど、白い毛並み、尾が三本、妖しい雰囲気を放っている。
名古屋の陰陽師たちが、必死に応戦していた。
でも、妖怪たちが強すぎた。陰陽師たちが、次々と倒されていく。
六人が、現場に到着した。
「……四体も」ミユキが呟いた。
「しかも、全部強そう……」ナギサも言った。
「ど、どうしましょう……」ユカリが不安そうに言った。
玄弥は、四体の妖怪を見た。
それから、五人を見た。
「……戦うしかない」
六人は、妖怪たちに向かった。
熊の妖怪が、最初に動いた。
巨大な拳を振り下ろして、六人に向かってきた。
玄弥は、刀を振った。
「《紫電》——!」
斬撃が、熊の拳にぶつかった。
でも、玄弥の霊力が足りなかった。
斬撃が、弱い。熊の拳を、止められない。
「——っ」
熊の拳が、玄弥を吹き飛ばした。
玄弥の身体が、地面を転がった。
「——っ、がっ」
全身に激痛が走る。
ミユキが、炎を放った。
「《蒼炎刃》——!」
炎の刃が、猿の妖怪に向かった。
でも、猿は素早かった。
炎の刃を避けて、ミユキに接近する。
猿の拳が、ミユキの腹を打った。
「——っ、かはっ」
ミユキが、吹き飛んだ。地面に倒れる。
ナギサが、水を放った。
「《水刃》——!」
水の刃が、虎の妖怪に向かった。
虎は、爪で水の刃を弾いた。
そして、ナギサに向かって突進した。
ナギサは、水の壁を作った。
「《水壁》——!」
でも、霊力が足りなかった。壁が、薄い。
虎の爪が、水の壁を突き破った。
ナギサの肩を、切り裂いた。
「——っあ!」
ナギサが、地面に倒れた。血が、流れた。
ムツミが、風を放った。
「《風刃》——!」
風の刃が、狐の妖怪に向かった。
狐は、妖術を使った。
炎を口から吐いて、風の刃を焼き払った。
そして、狐の炎が、ムツミに向かった。
「——っ、危ない——!」
ユカリが、土の壁を作った。
「《土壁》——!」
でも、霊力が足りなかった。壁が、脆い。
狐の炎が、土の壁を焼き払った。
そして、ムツミとユカリを飲み込んだ。
「——っあああ!」
二人が、地面に倒れた。服が焦げ、火傷を負っている。
葛葉が、霊気を放った。
「《狐火・連弾》——!」
金色の霊気が、四体の妖怪に向かった。
でも、葛葉も疲れていた。
霊気が、弱い。妖怪たちを、止められない。
四体の妖怪が、六人を取り囲んだ。
玄弥は、立ち上がろうとした。
でも、身体が動かなかった。全身が痛い。霊力も、ほとんど残っていない。
「——っ、くそ」
ミユキも、立ち上がろうとした。
でも、腹を打たれたダメージで、動けない。
「——っ、動いて……」
ナギサは、肩から血を流していた。
傷が、深い。立てない。
「——っ、痛い……」
ムツミとユカリは、火傷を負って倒れていた。
意識が、朦朧としている。
「——っ、うう……」
葛葉だけが、まだ立っていた。
九本の尾を展開して、妖怪たちを睨む。
「……わらわが、守るのじゃ」
でも、葛葉も限界だった。
霊力が、ほとんど残っていない。
四体の妖怪が、一斉に攻撃してきた。
熊の拳、猿の蹴り、虎の爪、狐の炎。
四つの攻撃が、六人に向かった。
葛葉は、霊気の壁を作った。
「《狐火・壁》——!」
でも、霊力が足りなかった。壁が、薄い。
四つの攻撃が、壁を突き破った。
六人に、迫った。
——このままでは、死ぬ。
玄弥は、そう思った。
その瞬間。
空が、暗くなった。
巨大な影が、空を覆った。
そして、八つの頭を持った巨大な蛇が、降りてきた。
八岐大蛇だった。
八岐大蛇の八つの頭が、一斉に動いた。
一つ目の頭が、熊の妖怪に噛みついた。
二つ目の頭が、猿の妖怪に噛みついた。
三つ目の頭が、虎の妖怪に噛みついた。
四つ目の頭が、狐の妖怪に噛みついた。
四体の妖怪が、一瞬で拘束された。
残りの四つの頭が、口を開けた。
そして、毒を吐いた。
紫色の毒が、四体の妖怪を溶かした。
一瞬で、妖怪たちが消えた。
八岐大蛇は、六人の前に降り立った。
巨大な身体が、地面を揺らした。
「……やれやれ」
八岐大蛇の声が、響いた。
「お前たち、無茶をしすぎだ」
玄弥は、八岐大蛇を見た。
「……八岐大蛇」
「久しぶりだな、玄弥」
八岐大蛇の一つの頭が、玄弥に近づいた。
「随分と、ボロボロではないか」
「……すまない」
「謝るな。お前たちは、よくやった」
八岐大蛇は、六人を見回した。
「だが、このままでは死ぬぞ」
「……」
「治してやる」
八岐大蛇の身体が、光り始めた。
緑色の光が、八岐大蛇を包んだ。
そして、その光が、六人に流れ込んできた。
玄弥の身体に、光が入ってきた。
温かい光が、全身を包んだ。
傷が、治っていく。
痛みが、消えていく。
霊力が、回復していく。
ミユキの腹の痛みが、消えた。
ナギサの肩の傷が、塞がった。
ムツミとユカリの火傷が、消えた。
葛葉の霊力も、回復した。
六人は、立ち上がった。
全員、完全に回復していた。
玄弥は、自分の身体を見た。
傷が、一つもない。
「……これは」
八岐大蛇が、答えた。
「我の治癒の力だ」
「治癒の力?」
「ああ。我は、毒だけでなく、治癒の力も持っている」
八岐大蛇は続けた。
「お前たちの傷を治し、霊力を回復させた」
「……ありがとうございます」
「礼はいらん」
八岐大蛇の八つの頭が、六人を見た。
「それより、お前たち、無茶をしすぎだ」
「……」
「疲れ切った状態で、戦い続ければ死ぬぞ」
玄弥は、俯いた。
「でも、他に誰もいないんです」
「わかっている」八岐大蛇の声が、優しかった。
「だから、我が来た」
玄弥は、八岐大蛇を見た。
「八岐大蛇様、助けてくれるんですか」
「ああ」八岐大蛇が頷いた。
「禍津が復活した。このままでは、世界が滅ぶ」
八岐大蛇は続けた。
「我は、禍津を許さん」
「……」
「だから、お前たちに協力する」
八岐大蛇の八つの頭が、空を見上げた。
「禍津が完全に復活するまで、あと六日」
「六日……」
「その間、我がお前たちを守る」
八岐大蛇は、玄弥を見た。
「そして、お前たちには、もっと強くなってもらう」
「強く?」
「ああ。今のままでは、四大天魔にも勝てん」
八岐大蛇は続けた。
「我が、お前たちを鍛える」
「鍛える……」
「そうだ。異界での修行の時のように」
玄弥は、八岐大蛇を見た。
それから、頷いた。
「……お願いします」
ミユキも、頷いた。
「お願いします」
ナギサも、頷いた。
「お願いします」
ムツミも、ユカリも、頷いた。
「お願いします」
葛葉も、頷いた。
「頼むのじゃ、八岐大蛇」
八岐大蛇は、六人を見た。
「よし。ならば、今すぐ始めるぞ」
「今すぐ?」
「ああ。時間がない」
八岐大蛇の身体が、光った。
そして、六人を光が包んだ。
次の瞬間、六人は別の場所に転移していた。
そこは、深い森の中だった。
木々が生い茂り、静かな場所だった。
八岐大蛇が、そこにいた。
「ここで、修行をする」
「ここは……」
「我の住処だ」
八岐大蛇は続けた。
「ここは、結界が張られている。外からは、見えない」
「……」
「妖怪も、ここには来られない」
八岐大蛇の八つの頭が、六人を見た。
「六日間、ここで修行する」
「六日……」
「ああ。禍津が完全に復活する前に、お前たちを強くする」
玄弥は、拳を握った。
——六日間。
――その間に、強くなる。
六人は、決意を新たにした。
八岐大蛇との修行が、始まった。




