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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日  作者: 三科異邦


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20/36

嵐のあと‥

 校庭は静かだった。

 赤く染まった夕陽が、地面に長い影を落とす。

 先ほどの戦いの余韻は、視界には映らないけれど、胸の奥に確実に残っている。


 玄弥は膝をつき、深く息を吸う。

 尾1本で四尺坊の刺客を倒した代償は、思った以上に大きかった。


 胸の奥は熱を帯び、血が全身を焼くように流れる。

 筋肉は痙攣し、体の節々が重く、立つことすら一苦労だ。

 足元がふらつき、呼吸を整えるだけで精一杯だった。


 壁にもたれかかり、ゆっくりと体を休める。

 尾を出した部分の霊力の熱はまだ収まらず、胸の奥で血が脈打つ感覚がある。

 代償は身体の奥深くに刻まれていて、まるで血液そのものが反抗しているかのようだ。


 ――これが尾の力か。

 一本だけでも、圧倒的な力を生む。

 でも、代償も桁外れだ。

 “使える力”と“失うもの”。

 そのバランスを、身体で思い知らされた瞬間だった。


     ◆


 遠くから低く、少しぶっきらぼうな声が聞こえた。


「……動けてるのか?」


 振り返ると、ミユキが立っていた。

 制服姿で、顔には最小限の心配しか表れない。

 冷たさの中に、わずかに気遣いが混ざっている。

 彼女はドライだが、必要なことだけは確認するタイプだ。


「……ああ、大丈夫。少し休んでるだけ」


 玄弥は答える。

 声は短く、戦闘の代償で疲れた身体を隠すための最小限の言葉。


 ミユキは眉ひとつ動かさず、軽くうなずく。


「ふーん……まあ、次も同じようなことになったら、もうちょっとマシなやり方考えろよ」


 短く言い捨て、彼女は視線を外す。

 感情を表に出さないその態度が、玄弥には不思議と落ち着きを与える。

 不用意な心配より、冷静な言葉の方が、自分の状況を客観的に把握させてくれるのだ。


     ◆


 そこへ、マトリが遠慮がちに歩み寄る。

 制服姿の彼女は、戦闘のことは知らない。

 しかし、玄弥の顔色の悪さにはすぐ気づいた。


「玄弥くん……あの……大丈夫ですか?」


 優しい口調で、声は小さい。

 だが、その視線には不安が滲む。

 戦いの孤独を、わずかでも和らげる存在だった。


「……ああ、大丈夫。少し休んでるだけ」


 玄弥は短く答え、目を閉じて呼吸を整える。

 マトリは微かに安堵の表情を浮かべ、黙ってそばに立つ。


 ――二人の存在が、戦いの余韻で張り詰めた胸の奥を、ほんの少しだけ和らげる。


     ◆


 玄弥は教室へ戻る。

 クラスの雰囲気は、戦闘前と変わらず、日常が流れている。

 笑い声、机を叩く音、教科書をめくる音――

 すべてが、戦いの後の非日常を際立たせる。


 机に座り、頭を伏せて呼吸を整える。

 尾の代償でまだ身体はだるく、胸の奥の熱も完全には引かない。

 だが、戦いで得た手応えは確実に自信となっている。


 ――尾1本でも、戦いを切り抜けられた。

 だが、代償の重さを思い知らされた今、もっと強くならなければならない。


     ◆


 放課後、教室の片隅で玄弥は尾の力を思い返す。

 胸の奥の熱はまだ残り、全身がだるく、筋肉も軽く痙攣している。

 しかし、一本の尾で刺客を制した手応えは消えない。


 窓の外には、赤く染まった夕陽と風に揺れる木々。

 日常は変わらず流れている。

 その中で、自分だけが非日常をくぐり抜けたことを、静かに噛み締める。


     ◆


 ミユキはその間、教室の隅で壁にもたれ、冷静な視線で玄弥を観察している。

 言葉は少ない。

 でも、彼女の存在感は確かにそこにある。

 必要な時だけ助言をくれる――そんな距離感だ。


 マトリはまだ少し不安げだが、玄弥の肩越しに穏やかに微笑む。

 二人の対比が、玄弥にとって奇妙に安心感を与える。


     ◆


 赤く染まる空を背に、玄弥は静かに拳を握る。

 尾1本の力と代償の重みを感じながら、次の戦いに備える決意を固める。

 戦いはまだ序章。

 尾の力を完全に制御できる日まで、戦いは終わらない。

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