鬼童丸との戦い
鬼童丸の巨大な拳が、六人に向かって振り下ろされた。
その拳は、岩をも砕く威力を持っていた。空気が歪み、轟音が響く。
玄弥は、遠見で未来を見た。
——右に来る。
玄弥は、左に跳んだ。
拳が、玄弥がいた場所に叩きつけられる。
地面が、大きく陥没した。
「——っ」
玄弥は、すぐに反撃した。
「《紫電・連》——!」
五連続の斬撃が、鬼童丸に向かった。
鬼童丸は、拳で斬撃を弾いた。
一撃、二撃、三撃。でも、四撃目が鬼童丸の腕を掠めた。
「——っ」
五撃目が、鬼童丸の胸を切り裂いた。
「……ほう」
鬼童丸は、自分の傷を見た。浅い傷だが、確かに傷ついた。
「やるではないか、人間」
ミユキが、炎を放った。
「《蒼炎・爆》——!」
巨大な炎の球が、鬼童丸に向かった。爆発的な威力を持った炎が、鬼童丸を包む。
炎が、鬼童丸を飲み込んだ。
爆発が起きて、岬全体が揺れた。
でも。炎の中から、鬼童丸が歩いて出てきた。
身体が少し焦げているが、まだ余裕の表情だった。
「炎か。悪くない」
鬼童丸は笑った。
「だが、この程度では俺は倒せん」
ナギサが、水を集めた。
空気中の水分を全て集めて、巨大な水の球を作る。
「《水牢》——!」
水の球が、鬼童丸を包んだ。鬼童丸が、水の中に閉じ込められる。
「……水か」
鬼童丸は、水の中で動いた。
拳を振るって、水の壁を殴る。
一撃で、水牢が砕けた。
「無駄だ」
ムツミが、風を纏って突進した。
風の刃を両手に作り、鬼童丸に接近する。
「《風刃・乱舞》——!」
連続で風刃を放ちながら、鬼童丸の周りを回る。高速で動きながら、何度も何度も斬りつけた。
鬼童丸の身体に、無数の傷が入った。
浅い傷だが、確実にダメージを与えている。
「……速い」
鬼童丸は、ムツミを捕まえようとした。でも、ムツミは風に乗って躱す。
ユカリが、地面に手を当てた。
「《土柱・連》——!」
地面から、無数の土の柱が突き出た。鬼童丸を下から攻撃する。
鬼童丸は、土柱を蹴り飛ばした。
一本、二本、三本。でも、土柱の数が多すぎて、全ては避けきれない。
いくつかの土柱が、鬼童丸の脚を打った。
「——っ」
葛葉が、尾を展開した。
「《狐火・連弾》——!」
九本の尾から、金色の霊気が連続で放たれた。鬼童丸に向かって、次々と。
鬼童丸は、腕で防いだ。
でも、葛葉の霊気が強すぎた。防ぎきれない。
霊気が、鬼童丸の身体を打った。
「——くっ」
鬼童丸が、後退した。
六人の攻撃を受けて、鬼童丸は膝をついた。
全身に傷がつき、息が荒い。
「……やるな、お前たち」
鬼童丸は、立ち上がった。
「だが、まだ俺の本気を見せていない」
鬼童丸の身体が、さらに大きくなった。
筋肉が膨れ上がり、妖気が爆発的に増大する。
「これが、俺の全力だ」
鬼童丸の声が、響いた。
「見せてやろう、鬼の真の力を」
鬼童丸が、地面を踏みつけた。
地面が、大きく割れた。亀裂が、岬全体に広がる。
鬼童丸は、両手を上に上げた。
「《鬼の咆哮》——!」
妖気が、爆発した。巨大な妖気の波が、六人に向かって襲いかかる。
玄弥は、刀を構えた。
「みんな、防御——!」
ミユキが、炎の壁を作った。
「《蒼炎壁》——!」
青い炎の壁が、展開される。
ナギサが、水の壁を作った。
「《水壁》——!」
水の壁が、炎の壁の前に展開される。
ムツミが、風の壁を作った。
「《風壁》——!」
風の壁が、水の壁の前に展開される。
ユカリが、土の壁を作った。
「《土壁》——!」
土の壁が、風の壁の前に展開される。
四つの壁が、重なった。
炎、水、風、土。四つの属性の壁が、妖気の波を防ぐ。
でも。
鬼童丸の妖気が、強すぎた。
壁が、軋んだ。ひびが、入った。
「——っ、持ちこたえて——!」
ミユキが叫んだ。
葛葉が、前に出た。
「《狐火・壁》——!」
金色の壁が、四つの壁の前に展開された。
五つの壁が、妖気の波を防いだ。
なんとか、耐えた。
妖気の波が、消えた。
五つの壁も、砕けて消えた。
六人は、息が荒かった。
霊力を、かなり使った。
鬼童丸は、笑っていた。
「よく防いだ。だが、次はどうする」
鬼童丸は、また妖気を溜め始めた。
「もう一度、耐えられるか」
玄弥は、歯を食いしばった。
——このままじゃ、ジリ貧だ。
——攻めないと。
玄弥は、四人の巫女を見た。
「みんな、聞いてくれ」
「なに?」
「連携攻撃をする。四聖獣の力を全部使って、一気に攻める」
ミユキが、頷いた。
「わかった」
ナギサも頷いた。
「やりましょう」
ムツミも頷いた。
「あたしも、やる」
ユカリも頷いた。
「わ、私も、頑張ります」
朱雀が、ミユキの肩から飛んだ。
「ミユキ、わたしの力を全部使いんしゃい」
「全部?」
「そうたい。今まで出し惜しみしとったけど、もう全部出すばい」
青龍も、ナギサの肩から飛んだ。
「ナギサ、私の力を全て受け取ってください」
「はい」
白虎も、ムツミの肩から飛んだ。
「ムツミ、俺の力を全部引き出せ」
「わかった」
玄武も、ユカリの肩から飛んだ。
「ユカリ、俺たちの力を全て使え」
「は、はい」
四体の聖獣が、それぞれの巫女の前に立った。
そして、光り始めた。
朱雀が、赤い光を放った。
その光が、ミユキに流れ込む。ミユキの身体が、赤く輝いた。
「……っ、すごい力」
ミユキの全身に、朱雀の力が満ちていく。
青龍が、青い光を放った。
その光が、ナギサに流れ込む。ナギサの身体が、青く輝いた。
「……これが、青龍様の全力」
ナギサの全身に、青龍の力が満ちていく。
白虎が、白い光を放った。
その光が、ムツミに流れ込む。ムツミの身体が、白く輝いた。
「……すごい、身体が軽い」
ムツミの全身に、白虎の力が満ちていく。
玄武が、黒い光を放った。
その光が、ユカリに流れ込む。ユカリの身体が、黒く輝いた。
「……こ、これが、玄武様の力」
ユカリの全身に、玄武の力が満ちていく。
四人の巫女が、それぞれの聖獣の力を完全に受け取った。
四人の身体が、光に包まれている。
鬼童丸は、それを見て表情を変えた。
「……なんだ、あれは」
鬼童丸の声に、初めて焦りが混じった。
「四聖獣の力を、完全に引き出している」
玄弥が、叫んだ。
「行くぞ、みんな——!」
「うん——!」
「はい——!」
「やるわよ——!」
「が、頑張ります——!」
四人が、同時に動いた。
ミユキが、両手を前に出した。
「《蒼炎・朱雀・極》——!」
巨大な炎の朱雀が現れた。今までで、一番大きな朱雀が。
炎の朱雀が、翼を広げて鬼童丸に向かった。
ナギサが、両手を前に出した。
「《水龍・青龍・極》——!」
巨大な水の龍が現れた。
今までで、一番大きな龍が。
水の龍が、身体をくねらせて鬼童丸に向かった。
ムツミが、両手を前に出した。
「《暴風・白虎・極》——!」
巨大な風の虎が現れた。
風の虎が、吠えながら鬼童丸に向かった。
ユカリが、地面に両手をついた。
「《大地・玄武・極》——!」
巨大な土の亀が現れた。
土の亀が、甲羅を輝かせながら鬼童丸に向かう。
四体の聖獣が、同時に鬼童丸に襲いかかった。
炎の朱雀、水の龍、風の虎、土の亀。
四つの攻撃が、鬼童丸を包んだ。
炎が、鬼童丸を焼いた。
水が、鬼童丸を拘束した。
風が、鬼童丸を切り裂いた。
土が、鬼童丸を押し潰した。
四つの力が、重なった。
一つになった。
爆発が起きた。
巨大な爆発が、岬全体を包んだ。
光が、空を覆った。
爆発が収まり煙が晴れた。
鬼童丸が、地面に倒れていた。
全身が傷だらけで、動かない。
「……や、やった」
ミユキが、呟いた。
「倒した」
四人は、その場に座り込んだ。
霊力を、全て使い果たした。
でも、鬼童丸を倒した。
玄弥が、鬼童丸に近づいた。
刀を構えて、警戒しながら。
鬼童丸は、まだ息があった。
弱々しく、目を開けた。
「……やられた、か」
鬼童丸の声が、弱々しかった。
「お前たち、強いな」
「お前の目的は、なんだ」玄弥が聞いた。
「封印を、破ること」鬼童丸が答えた。
「なぜだ」
「禍津様を、復活させるため」
鬼童丸は続けた。
「東西南北、四つの封印を破れば、禍津様が復活する」
「他の封印も、狙われているのか」
「ああ」鬼童丸は頷いた。
「西には鬼女、南には炎鬼、北には氷鬼。それぞれが、封印を破りに行っている」
玄弥の表情が、険しくなった。
「……他にも、いるのか」
「ああ。そして、俺たちが封印を破れば、禍津様が復活する」
鬼童丸は、笑った。
「お前たちは、俺を倒した。だが、他の三人を止められるかな」
鬼童丸の身体が、消え始めた。
妖気が散って、風に流されていく。
「……また、会おう」
鬼童丸の最後の言葉が、響いた。
鬼童丸が、完全に消えた。
玄弥は、刀を下ろした。
四人の巫女のところに戻る。
「大丈夫か、みんな」
ミユキは頷く。
「大丈夫、疲れたけど」
ナギサも頷いた。
「でも、勝てました」
「やったね」
ムツミも笑った。
「か、勝ちました」
ユカリも嬉しそうだった。
葛葉が、石碑を見た。
「封印は、無事じゃのう」
「よかった」
朱雀、青龍、白虎、玄武が、それぞれの巫女の肩に戻った。
「お疲れさまばい、ミユキ」
「お疲れ様でした、ナギサ」
「よくやったな、ムツミ」
「お疲れ様だ、ユカリ」
六人は、立ち上がった。
東の封印を、守った。
でも、他にも三つの封印がある。
そして、それぞれに鬼が向かっている。
玄弥は、空を見上げた。
夕日が、沈みかけていた。
「……戻るぞ」
「うむ」
六人は、炎下家に戻った。
葛葉の結界で、一瞬で転移する。
大広間で、焰一郎が待っていた。
「お疲れ様」
「東の封印は、守りました」玄弥が報告した。
「そうか」
炎下家当主は安堵した。
「よくやった」
「でも」玄弥は続けた。
「他にも三つの封印が狙われています。西、南、北。それぞれに鬼が向かっているそうです」
「……そうか」焰一郎の表情が、曇った。
「俺たちで、全部守りきれるでしょうか」
炎下家当主は、少し黙った。
それから。
「難しいだろう」
正直に答えた。
「四つの封印を、同時に守るのは不可能だ」
「では、どうすれば」
「他の陰陽師たちに、協力を要請する」
「四家だけでは、足りない。他の家の協力が必要だ」
「わかりました」
その夜。
玄弥は、自分の部屋で考えていた。
——他にも、三つの封印。
——それぞれに、鬼がいる。
——俺たちだけで、守りきれるのか。
葛葉が、部屋に入ってきた。
「玄弥」
「葛葉」
「考え事かのう」
「ああ」
葛葉は、玄弥の隣に座った。
「不安か」
「……ああ」玄弥は正直に答えた。
「四つの封印を守るなんて、できるのか」
「難しいじゃろうな」
葛葉は頷いた。
「じゃが、やるしかないのじゃ」
「やるしかない……」
「そうじゃ。封印を破られたら、王が復活する」葛葉は続けた。
「それだけは、阻止せねばならん」
「……わかってる」
玄弥は、窓の外を見た。
月が、綺麗に出ていた。
——明日から、また戦いが始まる。
――西、南、北の封印を守るために。
玄弥は、拳を握った。
——絶対に、守り抜く。
――この世界を、守るために。




